横井軍平という名に聞きおぼえがなかったとしても、「ウルトラハンド」、「ウルトラマシン」、「光線銃SP」、「ゲーム&ウォッチ」、「ゲームボーイ」、「バーチャルボーイ」などの商品名はご存知なのでは。横井氏はこれらすべてのヒット商品を開発し、任天堂の歴史に大きく貢献した人物なのです。そして、開発哲学である「枯れた技術の水平思考」を含む氏の哲学を紹介した書籍が、『ものづくりのイノベーション「枯れた技術の水平思考」とは何か』(横井軍平著、P-Vine Books)です。では最初に、キーワードである「枯れた技術の水平思考」についてご説明しましょう。これはつまり、「ありふれた技術を転移させることによりヒット商品を生み出す」発想方法。
まず、<枯れた技術>とは、「すでに広く使用されてメリット・デメリットが明らかになっている技術」を指しています。低コストつまり、「枯れている」ものを利用するということで生まれる可能性は想像以上に大きいのです。そして、<水平思考>とは「現在利用されているジャンルから離れ、まったく別のものに置き換えて使うことにより、新しいものを生み出す」考え方を指しています。
新幹線の車内、電卓で遊ぶサラリーマンを見かけたことがきっかけで<水平思考>が生まれ、それが「ゲーム&ウォッチ」のアイデアにつながって同商品は大ヒット。さらには「ファミリーコンピュータ」(ファミコン)につながり、任天堂に奇跡的な躍進をもたらしたわけです。
本書には、そんな横井氏の軽妙な言葉が多数収録されているのですが、そこには私たちがアイデアを生み出すためのヒントが隠れています。いくつかをご紹介しましょう。
売れるか売れないかわからない、素人のつくった<ウルトラハンド>というものを出したら、それがびっくりするほど売れたんですよ。(中略)私の場合、10の力しか持っていないのに、20の評価が出てしまったんですね。だから、何とかこのメッキを剥がさないようにやらなければ、どこまでごまかせるか、と考えながら勉強しました(笑)。子供の勉強もそうだと思いますよ。親が「やれ、やれ」といっても駄目です。放っておいてみれば勉強すると思うんですよ。これほど勉強が嫌いな人間がしましたからね(笑)。
(40ページ)
アイディアノートとかはないです。よく、アイディアとか浮かんでぱっとメモをしておくとか言うのは、あれは大嘘です。頭の中で興味を持ったものというのは、確実に覚えていますよ。残ってますよ。書くということは、書かなければ忘れてしまう大したアイディアではないということですよ。
(46ページ)
メモをとることはビジネスマンの必須項目ですが、アイディアをひねり出す際、たしかにこれは言えるかもしれません。企画立案をするときなどにも、思い出したい言葉ではあります。
<ゲームボーイ>の場合、ハードもソフトも同じ部内で開発していました。ハード屋に指示を出し、ソフト屋にそのハードでどんなことができるのかを検討させてみたのを見て、またハードのこの部分はいらない、ソフト屋はそんな機能は使わないといった作業を繰り返します。だからこそでき上がった商品はまるっきり贅肉のないものになりました。つまり、いらないきのうを全部捨てたからあの値段でできたのです。私は娯楽という分野ではそれが非常に重要なことだと思います。
(176ページ)
おなじみの「ゲームボーイ」が、こうした発想の元でつくられていたというのはとても刺激的な話。これも、バランスのとれた発想力を養うという意味で心にとどめておきたいフレーズです。
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(印南敦史)