企業の採用面接で「あなたの最大の弱みは何ですか?」と聞かれるほど嫌なものはないでしょう。「完璧主義なところがありまして...」とか「気を使いすぎてしまうところがあって...」などという退屈でありきたりな回答はしたくないもの。では、この質問にどう答えればいいのでしょうか?

ソフトウェア開発者(さらに、システム思考を活用したソフトウェア開発プロジェクトのコンサルティングも行っているそうです)で、ブロガーのAsh Moran氏のアドバイスに耳を傾けてみましょう。

人間は慣習と儀礼の生き物です。慣習と儀礼は生活に一定の様式を与え、安心感をもたらしてくれます。しかし、私たちがあまりにも機械的に儀礼通りの行動をとるため、部外者から見るとまるで人々が儀礼に「使われている」ように感じられることもしばしばです。人々は思考停止に陥り、ただ慣習に従っているだけのように見えます。

中でも慣習的な行動をとってしまいがちな場面が「企業の採用面接」です。あなたは晴れて企業から面接に呼ばれました。名前を呼ばれ面接室に招き入れられると、そこで待っているのは企業の管理職たちです。(アメリカであれば)最初の握手であなたの第一印象が決められます。そして、ビジネススマイルの自己紹介が終わり、それぞれが着席すると、いよいよ面接のメインイベントが始まります。そうです、「質問」です。今や、この場で最も弱い立場であるあなたに、面接者たちの鋭い視線が注がれています。■小手調べの質問

まずは、当たり障りのない話題や、あなたの経歴に関する基本的な質問から始まります。それなら「LinkedIn」に書いてあることを思い出すだけで乗り切れるでしょう。しかし、面接が進むにつれ、質問は徐々に深くきわどくなっていきます。この段階では「われわれの企業についてあなたは何を知っていますか?」と尋ねてくる程度です。まだなんとか切り抜けられるはずです。きっとあなたはここに来るまでに、志望企業のウェブサイトを隅から隅まで目を通してきたはずです。その企業が最近乗り出した新規事業のことも知っていることでしょう。

さらに面接が進むと、いくらかオブラートに包まれているかもしれませんが、「なぜ今の仕事を辞めたいのですか?」、「大学院に行かないのはなぜですか?」など、危険極まりない質問が飛んでくるようになります。この質問もうまく切り抜けてください。ネガティブな発言は避け、ポジティブな態度を維持するようにします。まずはそれでOKです。

面接も終わりに近づくと、いよいよ最後の難関がやってきます。果たしてそれは何か? 背筋に冷や汗が流れます。まるで無数のナイフが突き出した壁がじわりじわりと迫ってくるようです。緊張も最高潮、胸が苦しくなってきます。戦慄の質問が静かに放たれます。

「あなたの最大の弱みは何ですか?」

■状況がもたらす予想外の弱み

実は「あなたの最大の弱みは何ですか?」という質問は、リアリティに欠ける問いかけといえます。品質管理の第一人者であるW・エドワーズ・デミング氏が何十年も前に指摘しています。

「システムには実にさまざまなバリエーションがあり、悪いシステムはいつも良い人間をつぶしてしまいます」

面接で候補者の個人的な弱みを聞いて採用の是非を決めるなんてまったくのナンセンスです。誰だって強みもあれば弱みもあります。現実的に考えるなら、その候補者が新しいチームに加入した時に全体としてうまくいくだろうか、という視点が必要です。例えば、その候補者は「内気すぎること」を自分の最大の弱みだと考えているかもしれません。しかし、内気だからといって必ずしもダメなわけではありません。独力ですばらしい仕事をこなすかもしれないし、チーム内に面倒見がよくてうまくサポートしてくれる人がいれば何ら問題はありません。

別の候補者は「先延ばしグセがあること」に悩んでいるかもしれません。しかし、これも必ずしも問題とはいえません。採用職種がプログラマーであり、そのチームではペアプログラミングを実践していたらどうでしょう。ペアを組むことでその候補者はがぜん勤勉さを発揮するかもしれません。

逆に、まったく予想外なことが問題になるケースもあります。もしかすると面接者は「そういえば、この候補者が加入予定のチームは全員が中国人で、そのうち半分しか英語を話せないことをまだ言ってなかったかな...」などと考えているところかもしれません。その場の状況次第で予想外のことが弱みになり得るのです

「状況がもたらす予想外の弱み」について、私自身が体験したケースをご紹介します。私はある企業でプロジェクト管理についてミーティングをしていました。私は、適切な測定基準とは何か? チームメンバーが正しく情報交換できるようにするにはどうすればいいか? システムテストの範囲はどこまでが適切か? などについて頭を巡らせていました。会議が進んである地点に来たとき、私はテストのやり方について何か実践的なサンプルをデモンストレーションしなければいけなくなりました。そして、私はあることに気づき、ゾッとしました。「そうだ、このプロジェクトは『.Net』の開発プロジェクトだった!」と。その当時、私はもう何年も『.Net』の開発には関わっていませんでした。『C#』ならそれなりに自信がありましたが、『.Net』の最新のテスト技法についてはあいまいな知識しかありませんでした。今まで考えもしなかった「.Netに詳しくない」という弱みが突如として明るみに出たのです。

幸い、さらに議論を進めてみると、私が『.Net』の最新情報に疎いことはそれほど問題にはならないことがわかりました。当時持っていた知識だけでその場での目的は十分に果たせたのです。また、これはどんなケースにも言えることですが、もし、私に技術的知識が足りないのなら、私が技術を学ぶまでの間、知識のあるメンバーをそばに置いておけばいいのです。しかし、この知識不足を放置しておくと、今回はそれで済んだものの、将来的には本当のリスクになる可能性ももちろんあります。

■一番に弱いつなぎめ

「鎖の強度は、一番に弱いつなぎめで決まる」ということわざもありますが、あなたが新しい仕事で物事を達成できるレベルは、あなたの最も弱い部分によって決められてしまうかもしれません。しかし、ソフトウェア開発の仕事に関して言えば(他の多くの仕事もそうですが)、現実はそれほど単純ではありません。ソフトウェア開発は複雑な仕事です。幅広いスキルが必要で、それを適切に使うことができ、他のメンバーの仕事も自分同様に複雑なものであることを理解しておく必要があります。つまり、あなたが仕事をする上での「一番弱いつなぎめ」は、あなたの個人的な問題だけではなく、あなたが所属する「システム」によって多くは決定されるものなのです

あなたの「一番弱いつなぎめ」は、自分では見えていないかもしれません。あなたの世界を見る目にフィルターがかかっているからです。エリヤフ・ゴールドラット氏は著書『ザ・チョイス』の中で、「明晰な思考に対する最大の障害物は『自分はすでに知っている』と思い込むことだ」、と言っています。これは誰にでもあてはまる問題です。人間には生来、さまざまな認知バイアスが備わっています。その認知バイアスのせいで、「本当の弱点はシステムや状況からもたらされる」という事実が見えなくなっているのです。個人だけを見ていても仕方がないのです。あらゆるものはシステムで動いています。しかし、私たちは無意識のうちに分析的な還元主義者の視点で世界を見てしまっているのです。そうでなければ、「あなたの最大の弱みは何ですか?」などという質問は出てこないはずです。

とはいえ、例外もないわけではありません。「一番弱いつなぎめ」は常にシステムによって作られるとは言いきれないケースもあります。世の中には信じられないほど非社会的な人々が存在します。信じられないほど頑固だったり、信じられないほど怠惰だったりする人たちです。ほぼあらゆる状況において、こうした人物は「一番弱いつなぎめ」になり得ます。とはいえ、このような人はめったにはいません。ほとんどの場合、問題を起こしているように見えるのは「間違った場所に置かれてしまった普通の人々」なのです

■結局どうすればいいの?

賢明な読者は、私がまだ「あなたの最大の弱点は何ですか?」という質問に何と答えればいいか説明していないことにお気づきかもしれません。そうです、私は答えていません。なぜなら、その問いに答えることは論理的な自己矛盾に陥るからです。もうおわかりだと思いますが、「正しい答え」は状況によって決まります

この質問が面接で出たとしたら、それはその企業の考え方をよく表していると言えます。採用面接で候補者にわざとプレッシャーをかけるような企業がたまにあります。こうした企業は難関をうまく切り抜けられる人材を採用したがっているのです。答えにくい質問をすることで、あなたがその質問にどう対処するかを見ているのです。きっとこうした企業は、上記の退屈でありきたりな回答を求めているだけなのでしょう。「完璧主義なところがあって...」とか「どうにもワーカホリックでして...」とか「どうしても残業してしまうのです...」などのどうしようもない回答です。結局、いざ採用されて仕事を始めた時には、さまざまな困難が待ち受けているわけですから。

ハンロンの剃刀」を引くまでもなく、こうした質問は何か隠された意図があるわけではなく、単に慣習的なものである可能性も多分にあります。面接官は『面接で聞くべき20の質問』という記事を最近読んだだけかもしれません。それであれば状況にまだ希望があります。面接者たちに十分な誠実さと知性があるなら、あなたが個人主義的観点から脱してシステムレベルの思考ができることを示せば、ほかの候補者たちから頭一つ抜け出ることができるはずです。システム思考ができる人はまだまだ少数派なのです。逆に言えば、面接者がシステム思考ができる人たちでなければ、あなたの主張は理解されないかもしれません。「最大の弱みは何か?」という愚問が出る背景には、還元主義の横行という根深い問題が横たわっているのです。

この記事でご紹介したアドバイスは、次の面接ですぐに役立つものではないかもしれません。とはいえ、システムレベルでの思考を身につければ、面接の場で繰り出される還元主義的な質問にうまく切り返すことができるようになるはずです。こうした思考方法についてもっと知りたいなら、前出の『ザ・チョイス』を読む事を強くお薦めします。この本では、日常の問題を明晰に思考する方法について豊富な示唆を与えています。

■最後に

あなたは私の意見に同意しますか? 反対意見がありますか? 人が「自分の弱みはこれこれである」と言う時、それがその人の実際の弱みであると思いますか? あなたの意見をぜひ聞かせてください。

How to Answer "What is Your Greatest Weakness?" | Patchspace Blog

Ash Moran(原文/訳:伊藤貴之)