先日より日経新聞WEB刊でコラム連載を始めたFP山崎(@yam_syun)です。タイトルは「20代から始める バラ色老後のデザイン術」。若い読者のためのマネープランガイドです。ライフハッカーとあわせてよろしくお願いします。
さて、行動ファイナンスの成果を活かしたお金の貯め方、殖やし方を考える「マネーハック心理学」の第2回です。第1回に続き、今回は「目の前の株価」を見る私たちの目がいかに非合理的か考えてみます。
行動ファイナンス:「人はいつも合理的に動くのではない」という前提に立ち、人間の心理が経済活動にどう影響するかを研究する分野のひとつ。行動経済学。
考えてみれば人生は非合理的な判断の繰り返しです。「今の彼女とは別れるべきだと理性が訴えるが、今までつきあってきた楽しい時間を思うと別れがたい」なんてこともしばしば。
そしてそれは、投資においても同じです。私たちは「目の前の株価」を見なければ投資を行えないにもかかわらず、その「目の前の株価」が私たちをミスリードに誘ってしまうのです。
これはいったい、どういうことなのでしょうか。
Photo by Thinkstock/Getty Images.■目の前の株価は常に私たちを惑わせる
投資信託や株式、為替レートは日々値動きしています。株価については市場が開いている間ずっと変化し続けますし、為替レートについては24時間動き続けています。投資信託も一日に一回、価格が変動していきます。
株価はその時点での企業の価値であり、日々移ろうものです。新しい情報が出れば(新製品発売のニュース、リコールの情報、決算の開示など)企業価値の変化を予測して、価格も変動します。
しかし、時価が常に動いているにもかかわらず、私たちは株価のことをそのように見ていません。「区切りのいい節目(「日経平均10000円」など)」に目を奪われたり、「自分が注文を出したときの価格」がいつまでも自分の心にとどまり続けるからです。
たとえばあなたが「株価1000円のときにA社株を1000株買った」とします。A社はユニークな新製品の発売を控えており、株価は毎日あがっていました。「1000円は買い時!」と思って買ったあなたは、その後ずっと「今の株価は1000円より高いか/安いか」を考え続けることになります。
しかし株価はその後、A社の業績次第でどんどん変化します。新製品が好調なら1200円になるかもしれませんし、思ったより不調なら900円に戻るかもしれません。売れ行きが好調でも株価が先行して上がりすぎれば株価は下がり、1000円を割ることもあります。
■投資判断に必要なのは「買った時」ではなく「今」を判断することただ、「あなたが買った日の株価1000円」というのは、あなた個人の損益以外に意味がありません。その後の投資判断においては、「自分が買ったときの株価1000円の上/下」を考えるのではなく、「A社の株価は今、何円くらいが適当か」「A社の株価は今後上がるか/下がるか」だけを考えていけばいいのです。
しかし、手元に「1000円で買ったA社株1000株」がある限り、私たちはその株価に引きずられしまうものです。
「1000円以上で売り抜けたい」とか「今は950円まで株価が落ちているので1000円に戻るまで保有しよう」と、自分が買ったときの株価を判断基準にしてしまいます(特に損したときほど手放さない傾向が強くなる)。
これはマーケット全体からすれば確かに非合理的なのですが、損益に敏感な個人的な目線からすれば、どうしても逃げられない感覚です。しかしその感覚が損失を拡大させるようではもったいない話です。
■ある時点の価格にいつまでも引きずられないよく「購入時価格のX%値上がりしたら自動的に売ればいい」「Y%値下がりしたら自動的に売りさばく」といったアドバイスがあります。これは購入価格の値上がりや値下がりにひきずられないように、とのアドバイスです。これこそが合理的な投資行動だというファイナンシャルプランナーもいます。
しかし、よく考えてみればおかしな話です。値上がりがまだ続くのに「X%上がったから売り」と手放す必要はありませんし、回復期待があるのならY%下がっていても売る必要はありません。結局は購入価格にひきずられているのです(分かったうえで実行しているなら、まだいいのですが)。
似たような話には「1000円単位の節目」のようなものもあります。「日経平均が10000円を回復した」とか「B社の株価が1000円を割った」というキリのいい数字を、弱気や強気のシグナルとするものです。確かにそういうマインドがマーケットに蔓延するのは事実なので、こうした非合理的トレンドを逆手に取ることも考えられます。しかし、長い目で投資をするのなら、キリのいい数字なんてあくまで通過点であると考え、今後の動向を見極めていくことが大切です。
■株価に引きずられないいくつかのヒントそれでは最後に「目の前の株価」に影響されないためのいくつかのヒントを考えてみます。
もっとも役立つのは「経験」です。経験がすべてを取り払うわけではありませんが、投資経験の豊富な人のほうが目の前の株価に判断を引きずられなくなります。たとえば、100回株の売り買いをすれば、ある特定の株価を意識した売買を100回経験することになり、一時的な株価の呪縛から逃れやすくなります(ただし経験が頑固さにつながらないよう注意すること)。
投資経験を重ねることだけを考えるなら、それほど高額の資金は必要ありません。スターバックスなど5万円前後で買えますし、数万円で買える銘柄はたくさんあります。10万円程度の入金からチャレンジしてみるといいでしょう。定期的に投資信託を購入するような方法は「購入時の価格」に引きずられないようにするための方法のひとつです。指定した日に毎月自動的に引き落としが行われ、自動的に買いつけが行われていくうちに、何度も追加購入することになるため、購入時の価格に対する呪縛が意識から希薄化していきます。
ただし平均購入価格を忘れていい、というわけではありません。常に下がり続ける銘柄を追加購入し続けて忘れているようなパターンは最悪です。適宜、WEB等で運用状況を把握しておくことが大切です。
ただし、値下がりしてしまい回復の見通しもない銘柄について、手放すべきものを長期保有と強弁するのは意味がありませんので、言い訳にしないようにしてください。
本来的には、「自分が買ったときの株価」などを忘れ、売却時にまっさらな気持ちで株価を見極め、売買を判断できるのが理想です。しかし人間ですからそうはいきません。
非合理的な自分を知り、楽しめるようになれば(あるいはドライになれれば)、投資もまた楽しくなってきます。投資心理を楽しんでみてください。経験を積み、非合理的な自分と向かい合うことは、たぶん恋愛でも役立つと思いますよ。(山崎俊輔)