広告の世界をはじめ、空間演出の新しい手法として注目を集めているプロジェクション・マッピング。建物やクルマに投影した映像が変化し、躍動的な表情を浮かべるさまは、いまやYouTubeなどにアップされている動画でも数多く目にすることができます。
「一体なんだ、これ?」。魅せられつつ、その実体を知りたいと思っていた矢先、その技術を習得できる日本唯一の学校があることを知りました。それが、デジタルハリウッド。数多くのクリエーターを輩出している専門スクールです。
建物の壁を彩るアート作品から、ももクロこと「ももいろクローバーZ」のコンサートまで。その教室では最前線の素材をもとに、プロジェクション・マッピングの第一人者による講義が受けられます。今回ライフハッカーでは、michiさん(写真/右)と花房伸行さん(写真/左)に特別講義をお願いしました。お二人は、実際にデジタルハリウッドの2年制コースのひとつ「デジタルコミュニケーションアーティスト専攻」で教えている講師でもあります。そして用意された講義の内容は、以下の通り。
- プロジェクション・マッピングとはどんな技術なのか
- プロジェクション・マッピングをどう活用するか
- プロジェクション・マッピングはどう学べるのか
ライフハッカー出張講義、いざ、スタートです。 photo by HANAWA hiromi
1.プロジェクション・マッピングとはどんな技術なのか
michiさん プロジェクション・マッピング(以下PM)は、建物でも人間でも、実際にあるものと映像とを組み合わせることで、別の世界を創り出す手法です。言い方を変えれば、立体的なものに映像を投影することで拡張性を表現していくということ。言葉にすると説明が難しいので、実際に見てもらうのが早いかも知れませんね。これは額縁を使った、単純なPMの作品です。ひと言でいうなら、「リアルとバーチャルの組み合わせ」。
~michiさん
それから、こちらは小学校の校舎に投影した実験的な作品。2010年に手がけたものです。
(Visual light show @ Zushi elementary school)
michiさん PMは「錯視」、いわゆる「目の錯覚」を利用したものです。動かないものがちょっとだけでも動いたり変形したりすると、その世界が違うものに見えてくる。表現の幅は無限大です。
花房さん 観る人の想像を超えることで、驚きと感動が生まれる。それがPMの魅力ですよね。
michiさん 高度なことをやっているように見えて、実は簡単な技術で作られている、ということもよくあります。だから、いち学生の手による作品がネット上で高い評価を得るということもありました。技術もさることながら、その技術をどう使っていくかを掘り下げることで魅力が増すということですね。PMがどのように作り上げられるのかを説明するために、下の5つの画像を用意しました。
(画像はクリックで拡大します)
michiさん 左から順に、(1)円形の枠に、(2)映像を投影します。(3)円の輪郭をなぞるようにマスクをかけた映像を用意すれば、円の輪郭が浮かび上がります。(4)輪郭を立体的に見えるよう加工すると、まるで球体のように見えてきます。(5)そこにさらに影などを配置していくと、さらにリアルな空間感をもって浮かび上がってくる。これが、ただの映像を立体的に見せるPMの、基本的な考え方です。
2.プロジェクション・マッピングをどう活用するか
michiさん PMには、静止しているものに動いている映像を合わせるというものが多いと思います。ただ、花房さんの作品の多くは、建物ではなくて人間の体を使ったものが多いですよね。 花房さん 2009年に初めて手がけた『KAGEMU』も、そのひとつです。ただ、音と映像と演者の動きとを完全に同期させるのには難しさもあります。パフォーマーは盛り上がってくると、だんだん映像のことを忘れてしまうんです(笑)。大切なのは、誰も思ってもみなかった演出をいかに思いつくかということ。
~花房さん
(KAGEMU -BLACK SUN-)
花房さん PMは今、コンサートなどでも多く取り入れられていますね。
michiさん PM自体はそれほど新しい技術ではありません。スイスで開かれている「マッピング・フェスティバル」は、今年で7回目を迎えています。ここまで広く知られるようになったのは、2005~6年くらいからなのでは。その背景にあるのは、巨大な業務用プロジェクターの登場と、インターネットの普及でしょう。撮影された大規模なPM映像は世界中に配信され、注目を集めるようになってきました。
花房さん 僕が『KAGEMU』を始めたのは2~3年前のことでした。ただ当初はPMをやろうという意識はなくて、やってみたら結果的にそれがPMだった、という感覚です。確かにここしばらく、PMにまつわる仕事のお話は多くいただいています。ですが、最近の「ももいろクローバーZ」の演出についても、「何か面白いことを」という内容の依頼で、別に話はPMに限ったものではなかったですね。
(オープニングフラッグショー/ももいろクローバーZ『ももクロ春の一大事2012 横浜アリーナまさかの2DAYS』)
花房さん 横浜アリーナのど真ん中にあるのは円形のステージ。どう映像を映し出すかというときに、旗を使ってみてはどうかと思ったんです。当初お客さんは、この旗に映像が映し出されるとは考えてもいません。だから、はためく旗にももクロのメンバーの姿が投影されると、テンションは最高潮に盛り上がります。やがて旗を降ろすと、そこに実際のメンバーがいる。コンサートのオープニングにぴったりはまる演出だったと思います。
3.プロジェクション・マッピングはどう学べるのか
michiさん PMは技術以上に、創る人間のモチベーションが大事です。クリエーターに必要な創作意欲を抜きに技術だけを学んでも、あまり意味がありません。ただ、海外のクリエーターたちはその部分に対する意識が非常に高い。海外で過ごした自分自身の経験を通して得た経験を伝えたいと思っています。 花房さん 同時に、自分の表現したいものを表現できる技術は絶対的に必要です。テクニックを身につければ、表現の幅は広がっていくと思っています。デジタルハリウッドに通っている方たちを見ていると、モチベーションの部分も強くもっている人が多いように感じています。それは、彼らの多くが、すでに社会人として経験を経てきているからなのかも知れません。 michiさん 僕自身、映像を勉強した経験はほとんどなくて、表現活動や仕事をしながら学びを深めていきましたね。 花房さん 僕も同じで、もともとはプロダクトデザインを学ぶ専門学校の出身です。ただ、映画「ジュラシックパーク」を観たときに、3DCGの可能性に圧倒されたんです。映像を学びたいと思って以来、デジタルハリウッドに通うようになりました。まさにそのときが、人生が変わったタイミング。ただ当時と今ではあまりに環境が変わっていて、映像に飛び込むのに、敷居はかなり低くなっていますよね。 michiさん ことPMでいうと、専用のソフトウェアも次々に開発されている。挑戦できる環境は整ってきていると思います。プロジェクション・マッピングを使って何をしたいかが大事。
~michiさん
表現技法としてさらなる進化が期待されるプロジェクション・マッピング。すべてを語りつくすには、あまりに紙幅が足りません。まだまだ聞き足りないという方は、ぜひこちらの公式サイトをご覧ください。また、花房さんのインタビューはこちらでも。これから映像の分野で活躍したいという方への想いがより伝わると思います。
「デジタルコミュニケーションアーティスト専攻」では、その技法に限らず、さらにインタラクティブな技法を盛り込んだカリキュラムが用意されているようです。
(年吉聡太)