海外ではまだまだ馴染みの薄い和菓子を紹介するため、3人の若手職人が東南アジアへ渡りました。全員29歳、老舗和菓子店の跡取りたちです。
3人はタイ、マレーシア、フィリピンにて、和菓子文化のレクチャーと製作実演のイベントを開催。ライフハッカーはこのイベントの帰国報告会に参加しました。彼らの体験を聞き、インタビューをしてみると、和菓子の大きな可能性はもちろんですが、日本人が海外でチャレンジするときの4つのヒントも見えてきました。

(左から吉橋慶祐(吉はし)さん、明神宜之(蜜屋本舗)さん、小泉直哉(香雲堂本店)さん)

(落雁づくりの実演をする吉橋さん)
イベントで吉橋さんが振る舞った寒氷(かんごおり)には、和菓子づくりに普段使わないココナッツミルクを入れました。親しみを持ってもらえる味にするためです。現地の素材で他にも取り入れてみようと思ったものがあったかを、吉橋さんに尋ねてみました。
「東南アジアでも日本でいう黒糖のようなものが売っていました。日本はサトウキビで作りますが、パームヤシから作られているので、風味がどこか異なる。いつも使っている黒糖をそれに置き換えたら、これまでにない和菓子ができるかもしれません」
要素から代替可能なものを見つけて、上手に組み合わせる。それだけでも新しいものは産み出せるのです。

(現地でも展示された上生菓子)
数種類の和菓子を紹介した中で、3ヶ国でともに人気があったのは上生菓子だったといいます。その理由を明神さんに聞いてみました。
「各国とも都市部は人が多く、高層ビルもあり、東京とそれほど変わらない雰囲気でした。その反面、文化はまだ発展しきれていない印象を受けました。中でもお菓子は、お腹が空いた時や食べたい時に口にする甘いものでしかないようでした。日本はその段階を超えて、造形美を求め、包装紙や見た目にこだわるという域まで高めている。改めて、食文化のレベルが他の国と比べて高いのだな、と感じました」
日常で当たり前に触れているもの、目にするものも、海外ではハイレベルなのかもしれません。それを持ち出すだけでいいのです。

(参加者にどら焼きづくりを教える小泉さん)
開催されたイベントではレクチャーだけではなく、実演や試食も行われました。小泉さんが参加者に体験してもらいながら作ったのは「どら焼き」。3ヶ国で実演した中でも、他のお菓子は知らなくとも、「どら焼き」を知っている人は多かったといいます。不思議に思った小泉さんの目に止まったのは、マレーシアのデパートで液晶ディスプレイに流れていたドラえもんのアニメでした。
日本文化は様々な形で海外へ発信されています。自分がやろうとしているものは、他の文化から何らかの形ですでに伝わっているかもしれません。接点を見つければ、親しみを持たれるきっかけとなります。

(明神さんが実演でつくったはさみ菊)
タイでのイベントを終え、たくさんの参加者と写真を撮った3人。その後、日頃からFacebookを使っていた明神さん宛に見知らぬメッセージが届きます。
「僕を検索で探してくれたんでしょうね。その時の写真を送ってくれたり、メッセージが届いたりということが多々ありました。フィリピンの製菓学校でふれあった生徒さんとは、いまでもやり取りがあります。フィリピンは日本よりはるかにFacebookの利用者が多いみたいなんです」
東南アジア、中でもインドネシアやフィリピンでのFacebook普及率は世界でもトップクラス。つながりを生み、情報発信を続けることでさらなる広がりが期待できます。その国で多く使われているSNSには、積極的に取り組んでみる価値があるでしょう。
今回のイベントは、世界の全地域に日本文化を発信する専門機関である「国際交流基金(ジャパンファウンデーション)」の先導で行われました。国際交流基金のウェブマガジン「をちこち」では、イベントに関する詳細と3人のロングインタビューを掲載。和菓子好きの方はもちろん、興味がわいた方は併せてご覧ください。3人の若手和菓子職人の言葉から新たな気づきや刺激が得られるはずです。
(長谷川賢人)