いきなりですが、何も考えず両足で立ってみてください。あなたの重心はどこにありますか?

ほとんどの人が重心は両足の真ん中と感じているのではないでしょうか。これが実は間違い。人体は元来、「右重心」にできています。何も考えずに両足で立つと、知らず知らず重心が右に動いていることが多いのです。

Photo by Stephen & Claire Farnsworth.

 細部は別として人体は外見上、左右対称にできています。人体の内側に目を向けると、左右は非対称です。心臓は胸のやや左側、もっとも大きな臓器である肝臓は右の腹部にあります。腎臓は二つありますが、一つは右腹部の下に、もう一つは左腹部の上に位置しています。肝臓が右の骨盤の上近くにあるので、内臓的には右のほうが重たいつくりになっているのです。人が何気なく立つと右重心になりやすいのは、これら内臓の左右非対称が大きな原因です

身体の左右のアンバランスを、わたしたちは身近なところで体験できます。例えば、自転車の片手運転では、左手だけの片手運転は容易でも、右手だけの片手運転はふらつきやすくなります。また、やっと歩けるようになった赤ちゃんを想像してみると、ヨチヨチとだんだん左側に寄ってしまう姿が思い浮かびませんか?

人間は、右重心になった左右のアンバランスを修正するために、自然と左に重心を置いて動いているのです。赤ちゃんはまだバランス感覚が発達していないため、左に身体を傾けながら前に移動しています。

左右のアンバランスは人間の股関節にそれぞれ役割を与えます。簡単にいうと、左の股関節は身体を前に進める力を生みます。逆に右股関節は身体を後ろに引く力を生むのです。自転車の片手運転で左ハンドルのほうが容易なのは、人が自転車に乗るときに無意識に身体の左側に重心を動かして安定させているからなのです。

百聞は一見にしかずなので、2人いればすぐにできる実験をご紹介します。まずは重心を中心においてみましょう。

  1. 1人が肩幅ぐらいに足を開いて、中心に重心をおきます。
  2. もう1人の人に前から軽く押してもらいます。
  3. どうでしょう? 簡単に後ろに倒れてしまいませんか?


次に、重心を左足に乗せてみます。

  1. 立っている人は重心を左足に乗せてみてください(※左に身体を傾けるのとは違い、重心を水平にしたまま左側に移動します)。
  2. もう1人に前から軽く押してもらいます。


中央に重心を置いたときよりも踏ん張りがきいたのではないでしょうか?

左に重心の軸があると、前への力が働いているので倒れにくいのです。同じ要領で右足に重心を乗せるとどうなるか試してみると面白いですよ。

左右の股関節の役割の違いを知っていると、電車の中や人ごみの中で役立ちます。どちらの向きから力が加わるかを考えて、重心を左にのせるのか右にのせるのかを変えればいいのです。後ろから押されそうなときは、右側に重心があるほうが倒れにくく、前から押されるときは左側に重心を置くと踏ん張れます

左右の重心移動を意識すれば、人ごみが怖くなくなる! かもっ?(笑)

参考文献:左重心で運動能力は劇的に上がる(織田淳太郎・著)

(大山奏)