私はかつて英語を習得しようと一生懸命だったことがあります。英会話の個人教師をつけたこともありました。しかし、一番効果があったと思うのは、発音を習ったことです。
Photo by altemark.私は、かつてアメリカの大学に留学しようと必死に勉強していました。留学予備校に通い、入学審査に必要なTOEFL対策を必死でやりました。勉強を開始して数年後には、英文法とリーディング(読解)でかなりの高得点を出せるようになっていました。少なくとも、大学入学レベルはクリアしていたのです。ところが、リスニング(聞き取り)だけは何年たってもなかなか上達しませんでした。
テープで流される会話を聞いて設問に答えるのですが、ごく簡単な日常会話がいつまでたっても聞き取れないのです。英会話のテープを一日何時間も聴き続けましたが、あまり効果がありませんでした。そうこうするうちに、なんとかTOEFLで目標点をクリアし、大学へ出願書類をだしました。
書類審査を受かると、面接が待っています。もちろん面接は英語です。もしかすると、電話で面接を受けるというケースもあるようでした。私は、苦節5年かけた最後の面接で、まともな会話にもならないのでは...と不安になりました。なんとか面接を突破したい。内容はともかく、会話が通じないようではどうしようもありません。
その数ヶ月前から、ネイティブスピーカーから個人レッスンを受けていたのですが、どこか自信が持てず、ネットを探し回ったところ、英語の発音をしっかり習うのがいいのでは? と思い立ったのです。思えば、長い学校生活でも英語の発音をまともに習った記憶はありません。
私はさらに検索し、都内で発音を習える場所を探しました。2、3の発音スクールが見つかり、お試し体験を受けた結果、「スギーズ発音教室」の教え方にピンとくるものがありました。
スギーズ発音教室では、「発音できない音は聞き取れない」とし、英語の個々の発音を徹底的にトレーニングします。それはまるでボイストレーニングさながらでした。たとえば、「a」の音なら、「a」の音を口の形から舌の位置まで気をつけながら、ちゃんとした英語の音がでるまでトレーニングするのです。
そのトレーニングでハタと気づきました。英語の音は日本語の「あいうえお」には無い音なのだと。発音トレーニングをしていると、口がめちゃくちゃ疲れます。口の周りの筋肉が疲労するわけです。これは英語発音特有の口の形をとるため、ふだん使い慣れない筋肉を使うからにほかなりません。トレーニング後、じーんとした口の疲労感を感じながら、「あー英語はカタカナじゃないんだなあ」としみじみ理解したものです。
さらに、スギーズ発音教室のトレーニングの特徴で優れている点に、似たような音の違いをクリアに出せるように訓練するというのがあります。たとえば、「sit」(座る)と「shit」(くそ)では、まるで違う音なのです。日本語だとどちらも「シット」ですが、英語では「s」と「sh」の発音は全く異なります。ネイティブの人が、音の違いで「sit」と「shit」を聞き分けているところに、日本人が「シット」と言い続けたとしたら...恐ろしいことです。
このように、日本語では同じように思えても、英語では別の発音だよというのを、徹底的にトレーニングしていきました。このおかげでかなりの自信がついたのです。私自身の発音がどれほどうまいかはわかりませんが、少なくとも、自分的には「shit」ではなく「sit」と言っているんだ、という自己納得的な安心が得られました。私は「sit down」(座れ)と言ったのだ、「shit down」(くそが落ちた)じゃない。自分の中ではきちんと区別して発音しているのだ、という自信です。
こちらは精一杯の発音をしているわけですから、あとは聞く方の問題です。つまり、相手のネイティブさんのほうで、こいつは発音はうまくないが、どうやら「shit」じゃなく「sit」と伝えたいらしいとわかってくれればいいのです。「こいつはこいつなりに発音を分けている」ということをわかってくれれば、あとは相手が慣れてくれ、聞きとってもらえます。
というように、英語(アルファベット)の個々の発音方法をひととおり学んだところ、なぜかそこはかとない自信というか、「恥ずかしくない」という気持ちが芽生えたのです。英語を話すことに恥ずかしさを感じなくなっていました。それは英語が上達したから、というのとは少し違います。上達したからというよりは、自分なりにはちゃんとした英語を発音しているはず、自分なりに頑張ってやってるから、あとは相手が聞きとってくれることを願うだけ、といった開き直りに近い心理です。これで英会話へのハードルが一気に下がった思いがしました。少なくとも、がんばって話してみる価値はある、と思えるようになったのです。
その後、スギーズ発音教室の第2のポイントである、「英語はチャンクで覚える」という訓練に入りました。スギーズ先生いわく、実際のネイティブの会話はいちいち英作文をして話しているわけではない、基本は決まり文句を言い合っているだけなのだ、ということです。
つまり、我々は英語を話そうとするとき、頭の中で英作文をしがちです。一度英文法にのっとって作文して、それを発音しようとします。これにより、相当のタイムラグが発生してしまいます。もちろん、ネイティブたちはそんなことをしているわけではなく、だいたい言いたいことにあわせて言い回しが決まっているから、それをちょこっと一部の内容だけ変えて、スパッと発話しているわけです。
スギーズ発音教室では、そんな英語の決まり文句を「英語チャンク」と呼んでします。チャンクとは「塊(かたまり)」という意味です。
こうしたネイティブ達がよく使っている短い英会話文、すなわち「英語チャンク」をこんどはかたっぱしから丸暗記していきます。暗記といってもテスト勉強みたいに覚えていくのではなく、音のかたまりとして耳で覚えていくのです。先生が話す英語チャンクをそのまま復唱します。もちろん文字も見ながらですが、基本は音を耳で覚えるという作業です。何度も何度も復唱して頭に叩きこんでいきます。これを数百個覚えました。もちろん、発音の間違いは徹底的に矯正されました。
こうして、私はスギーズ英語発音教室に週に1回ほど、1年間通いました。その後、アメリカに3ヶ月間旅行したのですが、最初こそは戸惑ったものの、1ヶ月もすると会話もスムーズにできるようになり、どこで英語を習ったのか? と驚かれることもしばしばでした。
長くなりましたが、私が言いたいことは一つです。英語が上達したいなら、まず発音の訓練をしてください、ということ。それだけです。まずは、英語の音が出せるという自信をつけ、それから英会話の実践を通して少しづつ話せる会話内容を増やしていけばいいと思います。
このように書くと、どれだけ英語マスターなのか? と思われるかもしれませんが、ベラベラしゃべることができるというほどではありませんので、あまり期待はしないでください。ただ、英語を話すことに臆する気持ちはないので、あとは経験量次第で上達していけると思っています。
(伊藤貴之)