「エクセサイズはカラダによい」というのは、皆さんもすでにご存知のとおり。定期的に運動することによって、記憶力を高めたり、アルツハイマー型認知症などの 神経変性疾患の予防にもなるそうです。では、実際、運動は脳にどのような働きをもたらしているのでしょうか?

生物学の研究を行う、米カリフォルニア州の「ソーク研究所(Salk Institute)」のFred Gage博士は、10年以上にわたって、運動と脳について研究してきました。最近発表された論文によると、運動が脳の成長を促す、分子経路が明らかになったとか。

 ヒトの脳には、細胞分裂をはじめる刺激を待っている、休眠状態の幹細胞があります。一方、脳を含め、体全体の細胞分裂を制御している骨形成タンパク質(BMP)は、一定レベルはヒトにとって必須なものなのですが、歳をとるごとにこの量が増え、BMPが増えると、幹細胞の休眠状態を維持してしまうのだとか。

そこで、実際、ネズミに1週間運動させたところ、BMPの量が半減し、BMPに敵対する働きを持つ「Nogginタンパク質」のレベルが増えたそうです。運動が、BMPの量に直接影響を与えているのか、運動によって「Nogginタンパク質」が生成され、これによってBMPが少なくなったのかは、まだ明らかになっていませんが、いずれにせよ、運動すると、幹細胞が分裂を開始し、新しい神経単位が生まれていることが、わかっています。

また、Gage博士の別の研究では、運動がアルツハイマー型認知症の緩和に役立つことも、示されています。大脳辺縁系の一部で、記憶をつかさどる海馬(かいば)は、最初の病変部位といわれています。そこで、「Nogginタンパク質」をネズミに注入したところ、記憶などの海馬の機能に、大幅な改善がみられたそう。上の研究結果と合わせて考察してみると、運動が「Nogginタンパク質」を増やし、これによってアルツハイマー型認知症を緩和させうる、と考えられるそうです。

運動によるヒトへの効用は、様々に指摘されてきましたが、休眠状態になっている脳を「目覚め」させ、細胞分裂を促すというメカニズムは、新たな発見だとか。定期的な運動は、老若男女問わず、私たちの脳にも効果があるようですね。

このほか、運動が私たちにもたらすポジティブな作用としては、ライフハッカーアーカイブ記事「運動がストレス耐性アップに効く科学的根拠とは?」も、あわせてご参考まで。

Exercise Boosts Your Brain [SingularityHub]

Adam Dachis(原文/訳:松岡由希子)