長雨が続いた肌寒い秋を経て、いよいよ冬本番。衣替えは終わったけれど、「今までの冬服に飽きてしまった」「どこか古臭く感じる」「何か物足りない」……。そんな気分の読者も多いのではないでしょうか?
長らく大きな変化がなかった観のあるメンズファッション界ですが、実は昨年あたりから大きく変わり始めているのです。
ファッションの仕事を長くするようになって、毎シーズン欠かせない行事となったのがセレクトショップの展示会です。カジュアル、ドレス、モードといったカテゴリー全般を、国内外から選りすぐったアイテムで提案する展示会に行けば、それぞれのカテゴリーで何が注目されていて、どんなブランドに力を入れているのかが一目瞭然。そこで判明した、今すぐ知っておくべきトレンドを解説していきます。
冬のトレンド①まずはパンツから太めにしてみる
5年ほど前までは細身でカチッとしたシルエットが全盛でしたが、昨年あたりから、ゆったりと丸みを帯びたシルエットが本格的な支持を得るようになりました。これは特にパンツにおいて顕著な傾向で、従来のスリムフィットからルーズフィットへと移行しています。
とはいえ、いきなりワイドパンツというのはハードルが高いもの。そこで、オススメするのがプリーツ入りのパンツです。フロント部分にプリーツをあしらい、腰から腿にかけてゆとりを持たせ、膝から裾にかけて細くなるテーパードシルエットなら初心者でも取り入れやすいはず。
コーディネートのすべてをビッグシルエットにするのではなく、まずはパンツだけ太めにしてみる。これが意外なほど効果的で、コーディネートが新鮮に見えるのです。

こちらは数多くの有名ブランドの製造を手がける、イタリアのファクトリー・ブランドによる太めのパンツ。2本のプリーツをあしらい、腰回りと腿をゆったりと、膝から裾にテーパードさせた旬のシルエットです。実際に穿いてみると程よい太さにまとまり、意外なほどに着回せるので、絶対重宝するはず。価格2万5900円/セラードアー(シップス 銀座店☎03-3564-5547)
一方、カジュアルパンツはより太さを強調するワイドパンツやバギーパンツが復活。裾まで一直線に落ちる極太のシルエットは、ファッションに敏感な20代を中心に支持されています。これはパリの新鋭ブランド、ヴェットモンを筆頭に、90年代のストリート・ファッションが再評価・再解釈されたことが要因といえます。普段から慣れ親しんでいるチノパンやコットンパンツも、こうした90年代ストリート・ファッションの影響を受けたワイドパンツが数多くリリースされており、さまざまなバリエーションから選ぶことができます。

左:ワークウェアの老舗ディッキーズのチノパン。シップス別注によるこちらは、プリーツをあしらった太めのシルエットに。近年はスリムフィットが定番化していましたが、ワーク本来のゆったりとしたシルエットは、ある意味で先祖返りともいえるかも。価格1万1000円/ディッキーズ × シップス ジェットブルー(シップス 渋谷店☎03-3496-0481)
右:よりオーセンティックで男っぽく、太めのパンツを楽しむなら、ペインターパンツが最適。こうした太めのワークパンツを取り入れるだけで、全体のバランスが新鮮に見えます。トップスは今まで通りのサイジングでも、こうした太めパンツがあるだけで新鮮な着こなしにまとまります。価格1万6800円/オアスロウ(ビームス 原宿)
ドレスもカジュアルもパンツが太めになっている現在のトレンド。まず取り入れたいのは、ちょっと太めのプリーツ入りパンツ。この1本が加わるだけで断然旬に見えるはずです。特にサイドアジャスター付きのベルトレス仕様であれば、よりクラシカルで知的に見えます。きれい目なジャケットやコートに限らず、ライダースやMA-1などのカジュアルな短丈ブルゾンと合わせることで、ゆったり感がさらに強調できるので、マンネリ気味のカジュアルにも大きな変化をもたらしてくれますよ。
冬のトレンド②街でも仕事でも、アウトドアが使える
ゴアテックス®︎をはじめとする防水透湿素材を用いたマウンテンパーカーは、野外フェスやキャンプの普及とともに必需品となりました。ここ数年、こうした利便性を街用に転じたアイテムが数多くリリースされています。
いかにもアウトドア系という、派手な色使いや過剰なディテールではなく、すっきりと都会的にデザインされたアイテムなら、仕事用スーツに合わせても違和感がありません。雨の日の通勤はもちろん、出張先や旅行先での急な悪天候にも対応し、快適かつスタイリッシュに過ごせます。
こうした動きを牽引してきたのが、ザ・ノース・フェイスであることは間違いありません。週末はもちろんのこと、通勤や出張にも活躍する防水素材のコートやパーカー、さらにはストレッチ素材のセットアップまで、アウトドア分野に限らず、今やあらゆる生活シーンに対応するブランドなのです。
メンズではジュンヤ ワタナベ マン コム デ ギャルソン、レディースではサカイ、ハイクとコラボしたことも大きな話題に。こうして先端のファッションともリンクしながら、数々のヒットアイテムを飛ばし続けているのです。
また、カナダ発のアークテリクスには、アウトドアギアの機能性を都会的なデザインと融合させたアークテリクス ヴェイランスというラインがあります。デビュー時からファッション界でも高い注目を集めており、その完成度の高いシルエットとミニマルなデザインは、モード好きからも支持されています。少々値が張りますが、アウトドアで磨かれた機能性を洗練されたデザインで楽しむということでは、投資に見合う満足度が得られるでしょう。

左:すっきりとミニマルにまとめられたフード付きのコート。「ガジェットハンガーコート」というモデル名通り、財布やスマホはもちろん、パスポートやタブレットPCまで、内側の大型ポケットに収納できる。素材には3層構造のゴアテックス プロを採用している。6万2640円/ザ・ノース・フェイス(ザ・ノース・フェイス原宿店)
右:ファッション性を重視し、都市生活に溶け込むデザインで高い評価を得ているブランドから。アウトドアフィールドで磨いてきたハイスペック仕様はそのままに、洗練されたミニマルなデザインが特徴。ゴアテックスのシェルと薄型のダウンライナーを装備。価格16万5000円/アークテリクス ヴェイランス/(インターナショナルギャラリー ビームス)
街で着るアウトドア系ブランドの機能的アウターは、カジュアルはもちろん、仕事スーツの上に重ねることで、さらに活躍の場を広げることができます。防水透湿素材のアウターがあれば、外出前の天気予報に慌てることもなく、ちょっとした雨なら傘要らず。両手をふさがれることもなく、移動のストレスが大幅に軽減されるのです。
もはやアウトドアブランドが提案するこうしたデザイン性の高いアイテムは、都市生活を快適かつスタイリッシュに過ごすために欠かせないのです。
冬のトレンド③英国調チェックとコーデュロイ
いわゆるドレス系のカテゴリーでは、2年ほど前から注目されてきた英国テイストが、今季本格的なブレイクとなりました。特に顕著なのが、チェック(厳密にはプレイドかプラッドですが、ここでは分かりやすくチェックと呼びます)とコーデュロイです。
数多くのハイブランドがチェックとコーデュロイを取り上げたことも追い風となり、今季は幅広いラインナップが揃っています。これまではブラック、ネイビー、グレーの無地が好まれてきましたが、英国調チェックを加えるだけでぐんと着こなし鮮度が上がります。

左:モードでもクラシックでもない、独自の視点でモノ作りをしているイタリアの人気ブランドから。こちらは、ブラックとブラウンの組み合わせのチェック生地を使ったピークドラペルのジャケット。軽く柔らかい仕立てと相まって、ノスタルジックで新しい着こなしが楽しめる1着。価格11万8000円/ザ・ジジ(アマン)
右:仕事用のスーツやジャケットでもチェック素材は効果的で、英国由来のクラシカルなイメージとともに、無地のグレーやネイビーにはない大人の遊び心を感じさせてくれます。定評のある国内実力派テーラーによる、仕立ての美しさも見逃せません。価格8万5000円/インターナショナルギャラリー ビームス

また、今年らしさをさらに高める要素として、コートのレングスにもご注目。これまでは膝上丈が定番でしたが、今季は膝まで隠れるレングスが大きなポイントとなります。さらに肩に丸みが出るラグランスリーブのデザインであれば、リラックしたムードが高まり、カジュアルにも使いやすいと覚えておくと良いでしょう。
左:一流ブランドのスーツやコートの生産を手がけていることでも知られる、イタリアのベルヴェストからは、グレンチェックのチェスターコートを推奨。膝まで隠れる着丈の長さが、クラシックなムードを高め、ダブルブレストというのも大人の貫禄を漂わせます。最高峰の仕立てと素材を楽しみたい人へ。価格25万5000円/八木通商
右:メイド・イン・イタリーによる高いクオリティと、ドレスとカジュアルのどちらにも使えるデザインが人気のアウターブランドから。まさに英国紳士という雰囲気のオーバーペーン生地のバルカラーコートを推奨。ラグランスリーブで丸みを帯びたショルダーと、共布のウエストベルトも今季らしい。価格9万8000円/アマン
チェックとともに英国カントリージェントルマンに欠かせない、コーデュロイが復権。色はもちろん、太畝(ふとうね)から細畝(ほそうね)※まで、今季は幅広いバリエーションから選べます。アイテム的にもジャケットやコートに限らず、ブルゾンやパンツもコーデュロイが豊作。どこかに1点追加するだけで、ほっこりとした印象に。
(※)うね:作物を植えつけたり種をまいたりするために幾筋にも土を平行に盛り上げた地面のこと。
ジャケットであれば、優しげな印象のベージュやブラウンのコーデュロイを選び、コーデュロイのパンツであればやや太めのシルエットを選べば、トレンド感を感じさせながらも上品な着こなしにまとまります。そもそも保温性が高い素材でもあるので、これから買い足すにもちょうどいいのです。

左:こちらはシップスが継続的に取り扱うフレンチブランドのセットアップ。中太畝のコーデュロイは、見た目にも暖かく優しげな印象を与えます。端正なシルエットのジャケットとワンプリーツのパンツは、それぞれ単品でも着回しやすく、なにかと活躍してくれます。
左:ジャケット価格9万2000円、パンツ価格4万2000円(ともにシップス 銀座店☎03-3564-5547)
右:昔ながらのシャトル織機によってオーガニックコットンを高密度に織り上げたコーデュロイを採用。オーセンティックな2つボタンのジャケットは、セットアップで楽しめる太めパンツも展開。美しい仕立てが高級感ある素材を引き立てています。価格6万2000円/マーカウエア(PARKING)
トレンドを知れば服選びはもっと楽しい
以上のように、太めパンツ、街用アウトドア、英国調素材という3つのトレンド要素が、マンネリ化した着こなしに刺激を与えてくれます。また、ビジネスにもカジュアルにも取り入れやすいので、実用的でもあるのです。
たとえば、仕事でスーツやジャケパンが多い人なら、いつものネイビースーツやジャケットから英国調チェックのスーツのジャケットに、凡庸なトレンチから機能的なアウトドアブランドのコートに替えてみる。普段からカジュアルスタイルが多い人なら、いつものスリムジーンズからちょっと太めのチノパンやチノパンに、お決まりのダウンではなく英国調チェック素材のコートやブルゾンに替えてみる。どこかに1点トレンドアイテムを足すだけで十分に今季らしく見えるはず。
とはいえトレンドがこうだからこれを買え、これを着ろ、というわけではありません。自分の好みや似合うかどうかの方がもちろん重要です。あくまでひとつの参考として知っておくだけで、今までとは違った視点でファッションを捉えることができるはず。
「こんな着こなしも新しくていいなぁ」とか、「難しいと思っていたけど、試着したら案外似合っていた」といった新しい発見や体験を楽しめる心の持ちようが、おしゃれの近道なのですから。