「三人寄れば文殊の知恵」ということわざや、戦国武将・毛利元就が、三人の息子たちに諭したとされる「三本の矢」など、日本では古来から、人々が互いに結束することの大切さが語られてきましたね。たしかに、人類の進化の歴史は、特定の偉人によって作られてきたものというよりも、多くの人々のアイデアや創造性による産物ともいえます。このテーマについて、英ジャーナリストMatt Ridley氏が「TEDGlobal 2010」で熱く語っています。

Ridley氏は、人々の協働が、人類の進化の源だと指摘。個人が持つ、それぞれのアイデアが出会い、交わることで、「1+1=2」ではなく、その何倍も、能力や可能性が広がると述べています。

古代の歴史を紐解いてみると、物と物との交換、物と役務の交換など、集団をまたいだ「交換」という習慣が広まるにつれ、文明は劇的に進化しはじめたとか。「交換」によって、技能や知識などの「専門化」が進み、個々の専門性が互いに交わり、結びつくことで、一人ではけしてなしえない成果を生み出すことが可能となったのです。

 このような機能はヒトにしかないもの。たとえば、チンパンジーは自分の知識を、他のチンパンジーに教えることはあっても、この行為が集団をまたいで行われることはありません。よって、習慣や文化が広まることもなければ、発展することもないそう。また、役割を分担して協働するという面では、アリにも似た習性がありますが、やはりコロニー内のみで完結するものである点が、ヒトとは決定的に異なります。

また、このRidley氏のスピーチでは、コンピュータマウスとこれと形がそっくりな古代の石斧とを例に挙げ、古代と現代を比較しています。石斧は使用者が自ら、自分のために作ったものである一方、コンピュータマウスは、プラスチックの原料となる原油を掘る人、プラスチックを製造する人、プラスチックを成型する人、部品を組み立てる人など、多くの人々の「専門性」が集まってはじめて生まれるものです。

Ridley氏は、人々のアイデアの出会いや交わりが、イノベーションを推し進めると述べ、IQといった知能レベルの高さではなく、むしろ、自分のアイデアを伝えるコミュニケーション力こそ、大切なものだと説いています。また、クラウド技術の進化によって、誰もがアイデアを持ち、これを共有し、他のアイデアと結びつき、交わることが可能になったと指摘。これによって、人類はさらに革新のスピードを加速することができるだろう、と結んでいます。

交通網の発達により、人々の移動が便利になり、通信技術の発達によって、いまでは、より多くの情報を、より速く広く伝える仕組みも十分すぎるくらい整い、このような環境のおかげで、人々のアイデアや創造性は、互いに結びつきやすくなっています。しかし、そうであるからこそ、私たち一人ひとりがコミュニケーションの原点に立ち返り、「伝える力」を見直すことも必要かもしれませんね。

Ridley氏のスピーチは、上の動画でご覧いただけます。16分ほどと若干長めですが、一見の価値アリ、ですよ。

When ideas have sex [via Swiss Miss]

Adam Dachis(原文/訳:松岡由希子)