本書のタイトルは、『9割は無駄。』(志茂田景樹著、あさ出版)。昨今は「人生100年時代」といわれていますが、だとすれば人生の90年は無駄だということになります。しかし、「無駄」は本当に意味のないことなのでしょうか?

ぼんやりしている時間は無駄なのか。睡眠では癒せない心身の疲れを癒している場合もあるんじゃないか。頭を休めているようで、本当は何かを模索しているのかもしれないし、アイデアが閃きやすいようにあえて頭を空っぽにしているのかもしれないだろ。だったら、無駄じゃない。(「はじめに」より)

ご存知の方も多いでしょうが、著者は大学卒業後にさまざまな職を経て作家を志したという経歴の持ち主。紆余曲折を繰り返したのち、1976年に『やっとこ探偵』で小説現代新人賞を受賞し、40歳のとき『黄色い牙』で第83回直木賞を受賞されました。

転職を繰り返していた時期の3分の2ぐらいまでは、まさかその先で作家へたどり着くなんて思いもしなかったのよ。

無駄を続けているな、無為の日々をいつまで続ければ終わるのか、って自分をあきらめたり責めたりばかりしていた。

でも、無駄じゃなかったんだ。(「はじめに」より)

そんな人生経験を軸とした本書は、41万人以上のフォロワー数を誇るTwitter(@kagekineko)で反響の大きかったツイートに、書き下ろしエッセイを加えたもの。81歳という年齢だからこそ伝えたいメッセージが網羅されているのだそうです。

きょうはそのなかから、第1章「1割の幸せを見つけろ」に注目してみましょう。

短所はいくらあってもほっとけ

1つ、2つしかない長所を磨け。

短所はいくらあってもほっとけ。

磨かれた長所がすべての短所を呑み尽くす。

(32ページより)

長所・短所をどう感じるかは、人によってみんな異なるもの。しかも他人の長所は際立って見えたりもします。けれど、人の1つの長所には、10くらいの短所が隠れているのだと著者は指摘しています。

端的にいえば、他人の長所や短所はどうでもいいわけです。大切なのは、自分の長所・短所をよく見て、長所のほうを磨くこと。短所はなおしづらいけれど、長所は磨けば光ってくるものだから、自分の長所を見つけるべきだという考え方です。

しかし著者も昔は、自分のことを短所だらけのダメなやつだと卑下していたそう。

僕の上には姉2人がいて、次姉とは8歳違いだから、両親は僕を溺愛した。虚弱児風でやせて小さかったので、年齢どおりに見られることはなかったかなあ。(中略)

小学校に上がると、3月25日生まれの僕には、4月、5月生まれの同級生がいくつも年上に見えた。

運動能力は格段に劣っていたな。(中略)運動会じゃ観客席の前を走ると、笑いと拍手が起こったよ。僕はダメだダメだと打ちのめされた。

学科だってほぼ1年先に生まれた連中に敵いっこねえよな。また、ダメだダメだ、と自分を卑下したもんだ。(33〜34ページより)

しかしその当時、40歳前後の女性の担任の先生は、「あなたは漢字をよく知ってるし、漢字の覚えも速い。作文もうまいよ」とほめてくれたのだとか。そのおかげで、「僕の才能はそっちのほうかなあ」となんとなく思うようになったのだといいます。

また、それがきっかけで読むことが好きになったそう。作家の道に結びつくまでに遠回りしたものの、その先生のことばが起点になったことは間違いないと振り返ってもいます。なぜなら、自分では意識できなかった長所を、先生のおかげで意識できるようになったから。

僕は今でもドサンと短所があるけれど、ものを書いて煙に巻いて多数の短所をくらませているんだぜ、きっと。

長所は自分でもいずれ気づくし、人が見つけてくれることも多いぞ。

いいか、長所が認識できたら短所に構うな。

長所を磨きに磨いて磨き抜け。(35ページより)

このことばは、ぜひとも心にとどめておきたいところです。(28ページより)

自分の評価は辛くつけろ

自分の評価は辛くつけろ。

他人の評価は甘くつけろ。

それでやっと公平な評価になる。

(32ページより)

著者は「僕も含めて」と前置きをしていますが、どうあれ人間誰しも、自分には甘いところがあるものです。そして、このことに関しては塾の講師をやっていた留年時代のエピソードが引き合いに出されています。

同じ小学校の同じクラスでライバル同士の2人がいてね、いつも競っていた。

仮に甘君と辛君にしておこうか。

テスト後に甘君に何点とれたと思うかと訊くと、90点と即座に答える。辛君は一拍置いて80点と遠慮がちに答えていたものだ。

ところが結果は常に逆で、甘君は80点前後、辛君は90点前後だった。

(45ページより)

著者は甘君が「そんなはずはない」とクレームをつけてくるたび、辛君の答案とくらべながらていねいに説明したといいます。

そんなことが起きたのは、甘君は点数にこだわるあまり期待値がプラスされていたから。対する辛君は慎重な性格で、90点はとれたと思っても10点くらい引いて答えていたわけです。

自己評価は辛めにつけろよ。

他人の評価は甘くつけていいぞ。

それでやっと公平な評価になる。

そこからもっと努力することで、常に自分のほうが上にいくようになる。

向上するやつと、大成するやつは自分の評価に辛い。

万事に自分に辛くやってみよう。

(45ページより)

ちなみに向上欲が強かった甘君は、そののち辛君よりも努力し、やがて辛君を超える点数をとれるようになったのだそうです。(44ページより)

やりたいことや目標があっても、そこに行き着くまでの道のりが長すぎると、「無駄をやっているんじゃないか」と失望してしまいがち。

しかし、ならば「人生の9割は無駄なのだ」と割り切ればいい。あとの1割のなかで結果が出るのだと開きなおればいい。そんな著者のメッセージは、希望を失いかけている人の助けになってくれることでしょう。

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Source: あさ出版/Photo: 印南敦史