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印南敦史の「毎日書評」

「アーキテクト思考」を持つ人がビジネスに求められる理由

author 印南敦史
「アーキテクト思考」を持つ人がビジネスに求められる理由
Photo: 印南敦史

本書のテーマは「アーキテクト思考」です。

本書におけるアーキテクト思考を簡単に表現すれば、抽象度の高い全体構想を作り上げるための思考力のことです。

アーキテクトとは直訳すれば「建築家」を意味しますが、本書では、それをさらに建築以外にも使える一般的なものとして一般化して「全体構想家」であると定義します。(「はじめに」より)

構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』(細谷 功、坂田 幸樹 著、ダイヤモンド社)の冒頭にはこう書かれています。

気になるのは「なぜそのような思考が重要なのか」ということですが、どうやらそれは時代性と関係しているようです。

コロナ禍やデジタル革命の進行に代表されるように、いま私たちが生きているのは、先が読めず不確実性の高い「VUCA(予測不能)の時代」(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguityの頭文字をとったもの)。世界同時に、これほど先が読めない状態が続いたことはかつてなかったと著者はいいます。

そして、そんな時代には、すでにある問題を解き、すでにある変数や指標を最適化するという“問題解決”の考え方から、「そもそもなにが問題なのか?」と、“問題そのものを発見し、定義しなおすこと”が必要だというのです。

ゼロベースで新たな時代を切り拓き、新たな世界の全体像を構想していく発想や思考力が必須になるということ。すなわちそれが、「アーキテクト思考」だというわけです。

アーキテクトとは「全体構想家」のこと

冒頭で触れたとおり、本書で定義されている(カタカナの)「アーキテクト」とは「全体構想家」

もともとの語源である建築家のように、白紙の上に抽象度の高いコンセプトや将来像を構想できる人間のことを意味するのだといいます。

つまり、誰かが設定したフィールドでプレイするのではなく、フィールドそのものを更地から想像し、「そこにどんなプレイヤーを呼んでどんなゲームをするのか」という全体像を設計するための思考だというわけです。

またここでいうアーキテクトとは、各々のコアスキルをさらに一般化してあらゆる領域に拡大し、各領域で「抽象化してゼロベースで全体構想を考える」ことができる人を指すそう。

たとえば、旧来の慣習に左右されることなく新たな場をつくる起業家や新規事業開発者は、「ビジネスアーキテクト」だということになります。

その他の領域でも、デジタル技術を駆使して都市計画をつくり上げる「スマートアーキテクト」、コミュニティを立ち上げる「コミュニティアーキテクト」、なんらかの組織やグループを立ち上げる「グループアーキテクト」、新たなドキュメント体系をつくり上げる「ドキュメントアーキテクト」、さまざまなコンセプトをゼロからつくり上げる「コンセプトアーキテクト」など、なんにでもあてはめることが可能だということ。

その強みについて著者は、単に表面的なおもしろさのみならず、なんらかの「世界観」が提示されていることではないかと記しています。すなわち根本的な世界観を提示することもまた、アーキテクトには求められるわけです。(3ページより)

全体を俯瞰して抽象化してゼロベースで構想を練って、新たな場としての世界観を構築するためのアーキテクト思考。

それを一言で表現すれば「抽象化思考」になります。目に見える具体的な事象から、目に見えない抽象の世界を俯瞰して描き、個別の構成要素に関係性を与えて全体の構想を作り上げる力です。(5ページより)

著者はそれを、「更地に建築物を構想するのに似ている」としています。(3ページより)

アーキテクト思考と非アーキテクト思考の違い

アーキテクト思考にまず求められるべきは、建物や都市の構想を描くべく、高所から全体を眺められる姿勢。

「自分の組織の視点で」「自分の立場の視点で」ではなく、“対象とする系(システム全体、ビジネス全体といった、構成要素が関係しあった全体像)”を常に全体からとらえることこそが、アーキテクト思考の第一歩だということです。

対照的なのが、既存の資産をどうやったら最大に活用できるか考え、いまある枠組みを「埋めていく」考え方。すなわちそれは、非アーキテクト思考の発想だということになるのです。

では、非アーキテクト思考に陥らないためにはどうすればいいのでしょうか?

そのためには、他者の動きに反応するのではなく、自ら始めに能動的に動く姿勢が必須となります。

単に他者が出した案に反対するだけなのは論外として、既にあるものの改善を考えるのではなく、一から(ゼロから)代案を考えることがアーキテクト思考の実践には求められます。(6ページより)

アーキテクト思考を実践するアーキテクトは、ひとりで考えなくてはならないそうです。

「みんなで協力し合えばよい考えが出る」というのは、あくまでも具体的な仕事やアイデアを抽出する場面での話。しかし抽象的な成果物の場合は、人数が増えれば増えるほど焦点がぼやけて質の悪いものになっていくというのです。(5ページより)

抽象「化」を重視する

アーキテクト思考が「抽象化してゼロベースで全体構想を考えること」なのだとすれば、それは「三現主義」と呼ばれる“現場・現物・現実”というモノづくりの思考の対極にあるということになります。

なぜ抽象化が必要かといえば、変革期に必要なのは枠の決められた世界を最適化するのではなく、枠そのものを新たに作り上げる能力だからです。

もちろん抽象化するためには、初めに具体的事象の観察が求められるので、正確にいえば抽象重視というよりは抽象「化」を重視するということになります。(8ページより)

重要なポイントは、一世代前のモノづくりの強みが、VUCAの時代、デジタル化の時代には障害になってしまうということ。だからこそ、ビジネスの世界にアーキテクト思考の実践者を増やすことが必要だと著者は主張しているのです。(7ページより)

こうした基本的な考え方を軸として、以後はアーキテクト思考のトレーニング方や身につけ方などが克明に解説されていきます。そんな本書を活用し、問題発見・解決のための有力なツールを、いまこそ自分のものにすべきなのかもしれません。

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Source: ダイヤモンド社

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