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印南敦史の「毎日書評」

仕事に悩む人に佐藤優さんが教える「本当にやりたいこと」を叶える方法

author 印南敦史
仕事に悩む人に佐藤優さんが教える「本当にやりたいこと」を叶える方法
Photo: 印南敦史

いま、コロナ禍の影響で誰もが将来への不安を抱いています。そんな時代においては、対症療法ではなく、根源的に物事を考えてみることが重要。そう主張しているのは、“知の巨人”として知られる『仕事に悩む君へ はたらく哲学』(佐藤優 著、マガジンハウス)の著者です。

ここで念頭に置いているのは、“はたらくこと(労働)”の意味を根源的に考えるということ。注目すべきは、そんな著者が、現代の主流派経済学ではほとんど取り上げることがなくなってしまったマルクスの労働価値説に立ち戻る必要があると考えている点です。

「労働者は1日働くことによって、自分1人が1日の生活で必要とする商品やサービスを購入する以上の価値(富)を生産することができる」 というのがマルクスの労働価値説です。

われわれが普通に働いていれば、誰もが名誉と尊厳をもった生活をすることが可能なはずです。(「はじめに」より)

それができていないのは社会のシステムに問題があるからであり、重要なのは、社会は人間によってつくられているという事実。だからこそ、ひとりひとりの人間が変わらなくては、社会の変化は望めないわけです。

そこで、本書の出番です。なぜならここで著者は、仕事のやりがいが見えなくなっているミレニアル世代の「シマオ君」との会話を通じ、哲学、経済、歴史、古典などあらゆる方面から彼の悩みの本質や解決策を提案しているからです。

きょうは第3章「仕事の哲学 やりがいとは何か」のなかから「夢は『複線的』に見よ」に焦点を当ててみたいと思います。

やりたいことで食べていける

仕事と「やりたいこと」との間には、いつの時代も多少の隔たりがあるもの。仕事が必ずしもやりたいことだとは限らず、やりたいことを仕事にすることは難しくもあるわけです。

シマオくんもここで、「やりたいことを仕事にするなんて、甘い考えなのでしょうか?」と疑問をぶつけます。

注目すべきは、それに対して著者が「本当にやりたいことであれば絶対に食べていくことができます」と答えている点。

著者は大学に進学する際にキリスト教神学を勉強しようと決めたものの、神学で食べていけるのか不安で、高校の倫理の先生に相談したことがあるそうなのです。

「神学という、やりたいことだけをやっていたら、食べていくことはできませんよね?」と。つまりシマオくんと似たような心境だったわけですが、先生からは意外な答えが返ってきたようです。

先生は「私は今までの人生で、本当にやりたいことをやっていて食べていけないっていう人を一人も見たことがありません」と答えました。

その先生は東大の大学院まで行って倫理学を研究した方だったのですが、「私は教えることが本当にやりたいことだったから、高校の教師をしているのは幸せだ」とおっしゃっていましたね。(116ページより)

大切なのは、「本当にやりたいこと」を見極めること。逆にいえば多くの人にとっての“やりたいこと”は、“中途半端にやりたいこと”でしかないからこそ、すぐ諦めてしまうのではないか。著者はそう指摘しています。(115ページより)

多角的に関わるという発想

たとえばサッカーが好きなのだとしたら、選択肢は選手になることだけではないはず。他にも、スポーツ医学を通じて関わったり、新聞記者として取材したり、広告代理店やスポンサーとして関わるなどさまざまな方法があるわけです。

つまり、本当にやりたいことであれば、どんな方法でも多角的に関わることができるということです。

重要なのは、自分のやりたいことと、得意なことで利益を追求することの掛け合わせで、上手くバランスを取ることです。

もちろん、やりたいことを重視すれば給料は少なくなるかもしれない。しかし自分の時間を、好きなことに費やせることができれば、それは折り合いがつけられるはずです。

時間は有限です。どう使うかはその人次第ですよ。(117ページより)

本当にやりたいことがあるのなら、入り口はひとつではないということ。ちなみにここでは、「やりたいことがあり、そこに向かって進んでいたとしても、災害や疫病の流行などによって世の中そのものが変わってしまうこともあるのではないか」と指摘されています。

現在のコロナ禍がまさにこれにあたるのでしょうが、そういう場合は、夢を諦めるしかないのか? この問いに対して、著者は「複線的に夢を見ることができれば、やりたい仕事はおのずと見つけられます」と答えています。

航空業界の接客業であったとしたら、その職業のどんな要素に惹かれているのか。「お客様へのサービスが好き」「外国へ行くのが好き」「英語を話したい」など、自分が感じたその仕事の魅力を、細かく要素分解することが大切だということです。

自分の意思さえはっきりしていたら、行きたかった会社の採用がなくなろうが、その業界が縮小傾向にあろうが、うろたえる必要はないんです。

しかし「どこどこの会社に入りたい、誰々がいる会社に入りたい」というように、企業ブランドや他者の存在を将来の目標にすると、予想外の事態が起きた時に、何を頼りにすべきか分からなくなります。

社会というものは常に変わりゆくもの。何一つ確かなものなんてないのが通常なんだ、ということをいつも意識しておくことが重要ですよ。(118〜119ページより)

「たしかなものはない」と聞くと不安にもなりますが、著者によれば、日本人は比較的そういう不安定な状態に対応しやすい精神性を持っているもの。

すなわちそれは、仏教用語の「諸行無常」世の中は常に変化しているのだから、現在の幸不幸にとらわれることには意味がないということです。

すべてのことは「縁起」、つまり他のものごととの関係のなかで生まれたり滅んだりするというのが、仏教の根本にある考え方なのです。

私自身はキリスト教を信じていますが、こうした諸行無常の考え方は、一神教的なヨーロッパの考え方に対して、危機の時代を生きていく上での現代人の実感に近いと言えるかもしれませんね。(119〜120ページより)

いまのような時代だからこそ、これは頭の隅にとどめておくべき重要なポイントではないでしょうか?(115ページより)

先に触れたとおり会話形式で話が進められるので、無理なく読み進めることができるはず。シマオ君の立場に立ってその内容を受け入れてみれば、働くことに関する疑問や悩みを解消できるかもしれません。


Source: マガジンハウス

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