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印南敦史の「毎日書評」

会社や社会に疲れてきたら、まず「見なおすべき」こと

author 印南敦史
会社や社会に疲れてきたら、まず「見なおすべき」こと
Photo: 印南敦史

我慢して生きるほど人生は長くない』(鈴木裕介 著、アスコム)の著者は、都内で内科のクリニックを運営する医師。10年ほど前に近親者の自死を経験したことをきっかけに、医療職のメンタルヘルス支援活動を開始し、「生きづらさ」を抱える多くの人々の話を聞いてきたのだそうです。

そこから見えてくる「痛み」の生々しい現実などを、SNSに投稿したり文章化したりするなか、とくに反応が大きいと感じるのが「自己肯定感」についてのツイートやコラムなのだとか。つまりはそれほど、自分のあり方や生き方に関する悩みを抱えている人は多いということなのかもしれません。

ふだん、普通に生活をしているように見えていても、心の奥に深刻な生きづらさを抱えながら、それを隠してギリギリで生きている人が相当数いるのだろうと強く感じています。(「はじめに」より)

そこで必要となるのが「自分の物語化」。それは、これまでの人生で連綿と起こってきた出来事に対して、自分なりの解釈をつけていくことだといいます。

起こった出来事に対し、主観的に自分が納得できるような意味づけをしていくことによって、挫折から前向きに立ちなおったり、成功体験を自信に変えたりすることができるというわけです。

こうした考え方に基づく本書のなかから、きょうはContents 2「会社や社会に疲れてしまった人への処方箋」内の「会社、職場の人間関係は、人生のあり方を左右する」に焦点を当ててみたいと思います。

職場の人間関係のルールや環境を見なおす

家庭と学校がすべてだった子どものころの人間関係とは異なり、社会に出ると「会社・職場」が人間関係の中心になります。

基本的には就職した会社で「社会人として」生きていくためのルールや技術の多くを学ぶことになり、平日であれば一日24時間のうち3分の1以上の時間を職場で過ごすわけです。

そういう意味において職場は、大人になって以降の生活や人生の土台。したがって職場の人間関係は、家庭や学校での人間関係以上に重要な意味を持つことになるでしょう。

だからこそ、職場の人間関係のルールや環境を見直すことは、必要以上に我慢をせず、自分らしく幸せな人生を送るうえで必要不可欠です。(96ページより)

それは、なぜなのでしょうか?

著者はこのことに関連し、大学時代に苦楽をともにした親友の話を引き合いに出しています。その親友は運動部のキャプテンで、成績も優秀。優しい性格で、他人の魅力に光を当てるのが得意で、誰からも好かれるような人物だったそう。

ところが大学を卒業し、ようやく医師人生の入り口に立った研修医のとき、心身と体調を崩して自死をとげてしまったというのです。すなわちこれが、冒頭で触れた話です。

他の組織と同じように、医療の現場においても、放っておけば研修医や新人職員など「もっとも弱い立場の人」に負担が集中するもの。とりわけ臨床研修医は、約3割がうつになるほどハイリスクな仕事なのだそうです。

彼に何が起きたのか、なぜこのような環境が放置されてしまっているのか、優しくて善良で、どう考えても幸せになるべき彼のような人間が、なぜこのようなことになってしまったのか。(97〜98ページより)

それこそが、著者がメンタルヘルスという領域に興味を持った原点だということです。(95ページより)

99点は0点ではない

また別の女性の友人は、最初に就職した会社で厳しいノルマを課され、心身のバランスを大きく崩してしまったのだといいます。

その人の上司は、「たとえ99点とっても、100点でなければ0点と同じだ」が口癖で、そのことばによって部下たちを追い込んでいたというのです。

しかし当然のことながら、99点は99点であって、決して0点ではありません。「99点は0点と同じ」などというのは、根拠のまったくないルールでしかないのです。

ところが、素直すぎたのであろうその人の脳内には、いつしか上司のルールがインストールされてしまったようです。そのため、会社を辞めたあともしばらくはそのことに縛られ、悩まされることに。

そんなところからもわかるように、“どのような環境でどのような人とどのような関係をつくるか”は、その後の心や生活、人生のあり方を左右することになるわけです。

なお、ここには重要なポイントがあるようです。すなわち、大人にとって環境を見なおしてよりよいものにすることは、決して難しくないということ。

子どもと違い、大人は知識や経験が蓄積されているものです。そのため、好ましい人間関係をつくるための技術を身につけやすくもあります。それは、職場や働き方を自由に選ぶことができるということでもあるのです。

もちろん、全員が希望した会社に入り、希望した部署に配属されるわけではないでしょう。しかし、選びようなない親(家庭)や住んでいる地域、学力、親の経済力や価値観などによってある程度決められてしまう学校にくらべれば、職場や働き方の選択肢の幅が広いのは事実ではないでしょうか。

だからこそ“見なおし”が必要なのだと著者は主張するのです。

もしあなたが、現在の職場の人間関係や環境、ルールなどに対し不快なもの、もやもやしたものを感じているなら、一度きちんと見直し、あなたにとって好ましくない関係性やルールには、少しずつ心の中でNOをつきつけていきましょう。(96ページより)

そのうえで、「どうがんばっても自分の境界線や領域を守り切ることができない」ということがわかったのだとしたら、そのときは退職や転職をするという選択肢を早めに持つべきだという考え方。

そんなとき、それが正しい判断になることも充分にありうるということです。(94ページより)

本書を通じて著者が伝えようとしているのは、「他人の価値観やルール」「他人の感情」「他人に奪われる時間」を手放し、「自分の価値観やルール」「自分の感情」「自分の時間」を発見して取り戻すための方法。それは、本当の意味で自分らしく生きていくための手段でもあるでしょう。

“自分”としてよりよく生きていくために、参考にしてみる価値はありそうです。

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Source: アスコム

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