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印南敦史の「毎日書評」

立川談志から学ぶ、不透明な時代に働くための「2つの指針」

author 印南敦史
立川談志から学ぶ、不透明な時代に働くための「2つの指針」
Photo: 印南敦史

談志は過激な表現を好むゆえに曲解されることも多かったが、発言の奥底には人間の本質をついたものが多かった。

ただ、談志の本意を汲み取ることは、難しい。 数年間、傍らで付きっ切りで過ごした私ですら、言葉の真意を測りかねることも珍しくなかった。

何か月も、何年も経ってから「あのときの言葉は、そういう意味だったのか」と、腑に落ちたこともある。

そして、下積み時代に浴びたこれらの言葉が、談志がいなくなってからの10年間、どれだけ心の支えになったことか。罵詈雑言のような言葉が、宝の山だったと気付いたのである。(「プロローグ」より)

不器用なまま、踊りきれ。 超訳 立川談志』(立川談慶 著、サンマーク出版)の著者は、2011年11月21日に逝去した落語家、立川談志のことをこう振り返っています。

ご存知の方も多いと思いますが、株式会社ワコールでの3年間のサラリーマン経験を経て、1991年に立川談志18番目の弟子として入門したという一風変わった経歴の持ち主。

そのせいもあって談志から“絵に描いたような不器用な奴である”と評されたこともあるそうですが、弟子として得たものはとても大きかったようです。

そこで本書では、そんな立場から談志のことばを厳選し、“不寛容で不透明な時代を生きる人々に理解しやすいように”綴っているわけです。

きょうは仕事についての思いが明らかにされた第2章「仕事の流儀」のなかから、2つを抜き出してみたいと思います。

理想か現実か

若者に未来はない、

あるのは時間だけ

「あんな職業に就きたい」「あんな人になりたい」と夢を見るのは自由だけれど、実際のところ“人が描く夢”の9割以上は、実現されずに消えていくものではないか? 著者はこう記しています。

「早く人生を軌道修正しなければ」「いい加減に行動を起こそう」などと焦っているうちに、「未来」としてやってくるべき時期が訪れるため、それは「過去」になってしまうということ。

たとえば「20代のうちに、資格を取っておこう」と青写真を描いていたものの、いつしか仕事が忙しくなり、資格試験を受ける心の余裕も失われ、そのまま30代に突入していくとしましょう。すると、「憧れの資格を取れずに30代になってしまった」という“現実”こそが“事実”となるわけです。

談志が「若者に未来はない。あるのは時間だけ」といい切っていたのも、「夢を描きながらも努力を重ねられない人間の弱さ」を熟知していたから。

確かに「未来ある若者たち」という耳あたりのよい常套句は、単なる言い訳、おためごかしでしかない。

なぜなら、「未来ある若者たち」を正確に形容すると「未来に大成する可能性ゼロではない若者たち」ということになる。

若者にあるのは“時間”だけ。それから努力をして大成するかどうかは、不確定だからだ。(57ページより)

このように談志は、「可能性だけを訴えても、無駄」という姿勢を崩さなかったのだそうです。冷徹な現実主義者だからこそ、納得できる“証拠”を提示されないことには納得できないたちだったというのです。

立川流では、「落語五十を覚えれば、修行年数に関係なく二つ目に昇進」などと、明確な基準が定められていたといいます。つまりはそこにも、談志の現実主義が色濃く反映されていたと考えることも可能であるわけです。

現実が事実」とうなだれる未来か、「理想が事実」と喜んでいる未来か。どちらに転ぶかは、自分自身が一日一日、地道な努力を重ねていけるかどうかにかかっているということ。(52ページより)

改革者の姿勢

新たな挑戦は、

疑うことからしか

始まらない

現代人は、もっと“嘘”に敏感になっていいはずだと著者はいいますが、談志も「大人の嘘」に人一倍敏感だったようです。

「新聞で正しいのは日付だけ」と看破し、テレビのワイドショーを見ている間は「本当かよ」「嘘つけぇーーー」「この専門家は、いくらもらってコメントしてるんだ」などとのべつ口にしていたそう。そんな懐疑主義の塊のような人だったからこそ、敵も多かったといいます。

しかし人間は、「疑う」という姿勢でいない限り、なにかを生み出すことなど到底不可能。世の中に新しいものを投じた人は、「現状の否定」から始めているのです。

落語協会から独立し、「立川流」を創設した、立川談志。

「たけし軍団」をつくった、ビートたけしさん。

『M-1グランプリ』の審査員を初期から務め、それまでの「お笑い」の流れを変えた、松本人志さん。

やはり、その業界の仕組みやシステム、ルールを新たにつくり、潮流を生み出していく人というのは「疑う姿勢」を持っている人なのだ。

なぜなら、現状を否定したところでしか、新たなマーケットは獲得できないわけだから。つまり“疑う姿勢”は、新しい価値観をつくるためのいわば“エチケット”なのだ。(60〜61ページより)

もちろん、誰もが“新しいなにか”を生み出す必要はないかもしれません。とはいっても最低限、騙されないために“疑う姿勢”はとても重要。

「それはリテラシーともいいかえられる」と著者はいいますが、同じことはどのような仕事にも当てはまるのではないでしょうか。

だからこそ、いつからでもいいから“疑う姿勢”を育んでいくべきだということです。(59ページより)

いまの世の中は、立川談志が生前に残した数々のことばどおりになっているのではないか? 振り返ってみれば、そんな仮説が浮かび上がってくることに著者は気づいたそうです。

だとすれば、それらのことばは、これからの時代を生き抜くための指標にもなるはず。談志のことを知る人はもちろん、知らなかったという人も、本書を参考にしてみるべきかもしれません。


Source: サンマーク出版

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