連載
特集
カテゴリー
タグ
メディア

僕がJINSを辞めてまで次に挑戦すること。井上一鷹さんインタビュー

author 取材・文:遠藤祐子(ライフハッカー[日本版]編集長)/撮影:伊藤 圭
僕がJINSを辞めてまで次に挑戦すること。井上一鷹さんインタビュー

スタイリッシュで機能的なアイウエアブランドJINS(ジンズ)。

井上一鷹さんは、JINSでメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズミーム)」の開発を手がけ、会員制ワークスペース「Think Lab(シンクラボ)」のプロジェクトリーダーとして、新規事業を切り拓いてきました。

自身の経験に基づいて書籍『集中力』(日本能率協会マネジメントセンター)、『深い集中』(ダイヤモンド社)を上梓され、「集中力の専門家」として、講演も多数。新規事業開発を手がけるイノベーターとして、若手ビジネスパーソンのロールモデル的存在でもあります。

いま、その井上さんがJINSを離れ新しい挑戦に向かうといいます。その理由は、そしてその先にあるヴィジョンは……?

井上一鷹さん

株式会社Sun Asterisk Business Development Section Manager 慶應義塾大学理工学部卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルに入社し、事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略に携わる。

2012年、JINSに入社。商品企画、R&D室JINS MEME事業部マネジャー、株式会社Think Lab取締役を経て、JINS経営企画部門 執行役員、算数オリンピックではアジア4位になった経験を持つ。

著作に『集中力』、『深い集中を取り戻せ』がある。

求めていたのは「役割」じゃなくて「夢中になれること」

井上一鷹さん

――今回のJINSを離れるという決断にあたり、「自分の置き場所」を考えたとおっしゃっていました。

井上さん(以下敬称略):僕はわりと「自分で自分を操縦している感覚がある」メタ認知タイプ。自分のことも俯瞰で見てしまう。だから「置き場所」って言葉を使うんでしょうね。

自分を客観視するクセがあるから、コロナ以降オンラインミーティングでファシリテートしている自分の姿も客観的に見ていました。で、いつ頃からかその姿が「何かの役割を演じているように見えてきたんです。

――役割を演じている?

井上:「与えられた役割を演じている自分」に見えてきたんです。そして「こんな風に役割をこなすことに力を割いていたら、自分が伸びないんじゃないか」と考え始めました。

JINSはいままさにDX(デジタルトランスフォーメーション)まったなし状態。コロナで小売店はダメージを受け、EC化の加速が急務です。JINSで経営企画の中枢を担っていくのは十分すぎるほど充実した仕事です。やりがいも、やる意味もある。

でも、いまのJINSで僕が行なうべきは、0を1にすることではなく、100を1000にするような仕事なんですよね。イシューとしては面白いけれど、変数もステークホルダーも多く、常に最大公約数を探す必要があります。だからファシリテーターのような業務も増えていく。余白の時間もなくなって「あれ、俺、本当は何に夢中になれるんだっけ?」っていう状態になってしまいました。

――そこで内省が始まった。自分の「置き場所」を考えはじめたんですね。

井上:C Channel社長の森川さんから昔伺ったのですが、「転職するとき、給料を半減させてきた」と仰っていたんです。収入よりもチャレンジを選ぶという意味もあるけど「自分の能力よりも役割が大きくなってくると人はおかしくなる」というようなことを仰っていたんですよね。

こんな風に内省を繰り返すうちに、僕には立派な役割は必要なくて、自分が夢中に働きたいんだ、ってところまで客観視できるようになりました。そして、夢中になれるのはやっぱり0→1ゼロイチ)の世界なんだなって。

大企業でイノベーションが起きない理由に気づいたコンサル時代

井上一鷹さん

――JINS では、JINS MEME やThink Lab など0から1を生み出す仕事に携わってこられましたよね?「0→1の世界」にこだわる理由は?

井上:大学では化学を専攻していました。化学の世界って神様が作った答えがある世界なんだと学生の頃は思っていたんですよね。神様が決めたものをどう解くか、って世界。だから、社会人になったら主語が自分として答えを求められる仕事がしたい、と思ったんです。それで、新卒で戦略系のコンサルティングファームに入りました。

新卒1年目から「井上君はどう思う?」と意見を問われるのがコンサルティングファームの仕事でした。クライアントは日本の大手メーカー。ちょうど失われた10年が終わった頃で、どのクライアントも新しいものを生み出そうともがいていました。

コンサルタントとして大手メーカーに伴走して気づいたのが、日本の大企業にはびっくりするほど優秀な人が沢山いるのに、新しいものを生み出すことができないという事実。日本にだって立派な企業がこんなにあるのに、新しいものが生まれるのはいつもシリコンバレー、みたいな悲壮感を強く感じていました。

僕はずっと事業構想をサポートしてきたんですが、構想をきれいに描くだけではイノベーションにはつながらないということを知りました。結局、イノベーションにとって重要なのは実行の部分で、これを自分でやらなきゃダメだと思ってJINSに入ったんです。

新規事業ってとにかく実行部分が肝。ここの重要度が99%。エゴを持って本気で取り組み、強烈なエゴを事業にずーっと注ぎ込み続けている人の存在が必要なんですよね。

小さなチームで、意思決定早くしてPDCAサイクルも高速で回す。これができるのがJINSでした。

井上一鷹さん

手に触れられるものが好きだから、まずハードウエアをつくりたかったんです。JINS MEMEは、基礎研究から応用の開発、量産設計まで積み上げるところまでやりました。

JINS MEMEもThink Labもオープンイノベーションのような形でなくては実現できなかったから、さまざまな専門家や研究者同志をつなげて化学変化を起こし続けるような日々でした。

僕が担っているサービスを媒介にして、多岐に渡る業界の天才たちのアイデアの掛け算を繰り返す。当時一緒に動いていたPR担当は「井上君の仕事は、わらしべ長者みたいだ」って。

知の探索をしまくって、次のステップを探り、結果をプロダクトにする。このプロセスを経て「0」を「1」というカタチにするんですよね。このチャレンジは何にも変え難い経験で、本当に楽しい時間でした。

もしかしたら日本中にあるボトルネックを解決できるんじゃないか

井上一鷹さん

――新しいチャレンジはSun*(サンアスタリスク)で、別企業の新規事業の支援に携わったり、Sun*自体の新規事業を創ることですよね?

井上:そうです。内省をしている時期に、Sun*との出会いがあったんです。まず、Sun*は、会社のビジョンが「誰もが価値創造に夢中になれる世界」なんです。知人の紹介で代表の小林泰平さんに会ったら、なんか『麦わらのルフィ』みたいな人で。心底明るくて。しかも、0から1を、0から10を生み出すってことに死ぬほど向き合っています。

で、この会社は、企業の新規事業やDX推進そしてサービス開発に必要不可欠な、テック・クリエイティブ・ビジネスそれぞれのプロ人材が集まって動いていて、とにかく勢いがあります。

小林さんは「日本には価値創造型のIT人材が少ない。だから、優秀な海外エンジニアを育成することが日本にイノベーションをもたらす最短距離だ」と考えているんです。そして、東南アジアの方が日本で働きたいなって思ってくれるのって、あと10年くらいなのかもしれません。日本という国のブランド価値が残っているギリギリの時間が今だってことです。

僕らは、まだ日本ブランドの効力があるうちに、この国を新しいモノを生み出せる場所に変えないと、本当に日本は滅びるんじゃないかと思っています。だから今のうちに、テック人材とともにクリエイティブ/ビジネスの人材で集まって、「0→1」を本気でやろうと。日本の新規事業を全部引き受けられるようなギルドをつくろうというほどの勢いを感じました。

日本企業が苦手な「価値創造」の阻害要因を取っ払う1番の近道が、Sun*にとっては海外エンジニアの教育とビジネス・テック・クリエイティブ人材の集合体というわけです。

ジャパン アズ ナンバーワンを取り戻せるかもしれない

井上:新しい価値をつくることって絶対楽しいじゃないですか。0→1の空気感を自分もつくりたいし、つくっている人と一緒に仕事がしたい。小林さんはじめSun*の人たちの話を聞いて、Sun*の事業を通じて社会のあちこちにあるボトルネックを解消できるんじゃないかって本気で思えてきたんですよね。

しかも「誰もが価値創造に夢中になれる世界」って僕があの本(『深い集中を取り戻せ』ダイヤモンド社)の中で言いたかったことそのものなんですよ。「夢中になれ」とか「集中とは決断すること」って、この前のイベントで話しましたけど、やっぱり自分が意志を持って新しいことに取り組むのって、圧倒的に面白いんです。

経産省の「始動Next Innovator」とか、「ONE JAPAN」などの集まりで、新規事業を考えている人のメンター的なことをやる機会があるんですよ。そこで本当に素晴らしいアイデアがあるのに、0→1にするためのノウハウや技術が足りない、ということに何度か出くわしました。

こういう、日本社会全体にある新規事業開発に関するボトルネックを、Sun*の事業で打破できるんじゃないかって思っています。

Sun*は、ビジネスとテクノロジー、クリエイティブ、この三つが揃った組織です。だから、新しい事業を構想してつくってみるということを高速でやれる。そしてそれを具体的なノウハウに落としたり、企業の中でやったりもできる。

大企業の優秀な人の前に立ちはだかっている新規事業の壁だって、一緒に乗り越えることができるかもしれない。ひょっとしたらその先、ジャパンアズナンバーワン、みたいなものだって取り戻せるかもしれない。

井上一鷹さん

転職の流儀、または戦略のようなもの

――「JINSの井上さん」として活躍してこられただけに、転職にあたって周囲の反対はありませんでしたか?

井上:そうですね。今回の転職は本当の意味での内発的動機とか、自分が夢中になれることを主眼に置いていたので、意図的に人には話さず、ひたすら自分の中で考えました。

仕事で関わりのある方や、家族はじめプライベートの身近な人など、自分に近い人にはまったく相談しなかった利害関係が入ると違う変数が入るじゃないですか。その人なりのポジションに応じたアドバイスがあったりとか。わりと僕は誰にでもいろいろ相談するタイプなんですが、今回ははっきりとやめましたね。

――人生のハンドルはしっかりと自分で握る、と。

井上:でも、決めて行動したあとは、それぞれの関係者にどれだけ楽しそうに次のチャレンジを語れるか、というのを頭の中でシミュレーションしていましたね。「こいつにはこう喋ろう」とか書き出したり。JINSの社長には、感謝を含め感情が渦めいてうまく言えなかったんですけど。

「この人、こんなポジティブなビジョンがあるのか」って相手に思ってもらえたら、送り出す人や、心配してくれる人が楽になると思うんですよ。

アイコニックな新規事業をつくりたい。その理由。

――最後に。新天地で最初にやろうと思っていることは?

1番やりたいのは、価値創造に夢中になる人をめちゃくちゃ増やすということ。だから、すごい人が集まってくるように、何かアイコニックな新規事業をつくりたいですね。「俺らこんなことしてるけど」って言えるような。面白いことやってる人たちじゃないと、面白い人もすごい人も集まってこないじゃないですか。

そういう事業を、夢中でつくりたいですね。

Source: JINS MEME, ThinkLab, Sun* Inc., 始動 Next Innovator 2021, ONE JAPAN

swiper-button-prev
swiper-button-next