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印南敦史の「毎日書評」

ネットの買い物で失敗しがちな「返品無料」の罠とは?

author 印南敦史
ネットの買い物で失敗しがちな「返品無料」の罠とは?
Photo: 印南敦史

9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(橋本之克 著、秀和システム)の著者は、30年以上にわたりマーケティングの仕事に携わってきたマーケティング&ブランディングディレクター。

おもに一般消費者向けに、あらゆる業種の企業、官公庁や自治体などが商品やサービスを売る手伝いをしてきたのだそうです。

注目すべきは、販売不審の企業と、消費意欲を喚起できない政府の失敗には共通点があると言及している点。それは、買い手(国民、または消費者)との“関係づくり”がうまくいっていないことだといいます。

買い手は、補助や減税などで手元のお金が増えれば、お金を使うとは限りません。また、広告であおれば、モノやサービスを買うわけではありません。

国や企業などの相手を信頼し、お金を使うことへの不安や抵抗感がなくなり、買うことへの期待が高まらなければ、行動は鈍いままなのです。(「はじめに」より)

つまり、こうした買い手の心理を考えていないことが、失敗の原因であるということ。

そこで本書では、「よりよい買い物」について考察しているわけです。その理由は、モノやサービスの売り買いの現場を長きにわたって見続けてきた結果、「買い物は人を幸せにする」と確信しているから。

買い物は、単にお金を払って品物やサービスを得るだけのものではないという考え方が根底にあるということ。したがって、買い物という活動を、買い手はもちろん、関わるすべての人にとって、よりよいものにすることを目指しているのだそうです。

きょうは第1章「ネットの買い物で失敗しないコツとは?〜便利そうで意外と不便? リアルより得するおススメの買い方」内の「ネット情報を見すぎると損することがある」のなかから、「『気に入らなかったら返品無料』にだまされない」に焦点を当ててみたいと思います。

「無料」ということばが持つインパクト

私たちの生活に、ネット通販はもはや不可欠。なにしろ商品を選んで決済し、あとは届くのを待てばいいだけなのですから。

とはいえ洋服や靴など、微妙なサイズ合わせが必要な商品や、色や風合いなどによって好みが分かれる商品である場合は、購入前に商品を確認できないと不安でもあります。

そういった不安を解消するために便利なのが、「返品無料」のサービス。サイズが合わなかった商品などを買いなおすことができ、商品を取り替え、送るための費用も無料であるなら、当然それは買い手に相応の影響力を及ぼすことになります。

米国デューク大学のダン・アリエリーは、この影響力を確かめる実験をおこなっています。通りに出したテーブルに、チョコレートを2種類並べて販売したのです。

一つは高級なトリュフのチョコレート、もう一つはごく普通のキスチョコです。高級チョコを定価の半額の15セントで、キスチョコを1セントで売ると、73%のお客は高級チョコを選びました。

次に、それぞれを1セントずつ値引きし、高級チョコを14セントで、キスチョコを無料で提供しました。すると、60%のお客が、無料のキスチョコを選んだのです。(29ページより)

格安で食べられる高級チョコよりも、無料のチョコレートを選ぶ人が多かったということ。値下げの額も価格差も同じままなのに、結果は逆転したわけです。つまり、この結果からもわかるとおり、「無料」にはインパクトがあるのです。

ここからも、買い物において「返品無料」が注目される要素のひとつになりうることがわかります。

しかし、それは万が一、商品が合わなかった場合の不安を解消してくれる仕組み。積極的に商品を買う理由にはならないようにも思えるわけですが、じつは「返品無料」は、買いたい気持ちにさせる仕組みでもあるのだとか。(28ページより)

「保有効果」により手放すことが惜しくなる

返品無料であれば、迷った商品を一度送ってもらうことも簡単。届いたら試着し、家族や知人にチェックしてもらうこともできます。そればかりか、すでに持っている自分の洋服と合わせて見ることも容易です。

その結果、商品をあたかも自分の所有物のように手に取り、検討することができる。そうしていると徐々に愛着が湧いてくるもので、その愛着の強さは「保有効果」によるものと考えられるのだそうです。

これは、自分が保有するものに高い価値や愛着を感じ、手放したくないと感じる心理現象。人は無意識のうちに、「手放すことは損」「手に入れることは得」ととらえ、「損失回避」によって手放すことを避ける。すなわち、保有するものの価値を高く感じるということ。

返品無料だからという理由で「とりあえず買う」洋服や靴にしても同じ。買うときは返品することを前提にしていたとしても、手もとにあるあいだは自分の保有物なので、無意識に愛着がわいてきます。

いわば「取り寄せて手もとにおく」という自らの行動を通じ、自分自身の購買意欲を高めていることになるわけです。(30ページより)

「返報性の原理」で返品を申し訳なく思う

しかし、「返品無料」による買い物がはたして「いい買い物」といえるかどうかは気になるところでもあります。

たしかに、自分が望むサイズやデザインを確認したうえで買えるという点は、買い手にとって魅力的な仕組みでしょう。ただしそれは、売る側が返品されるリスクを負っているからこそ成立するサービスでもあります。

必要なのは、このとき買い手の心理に、「返品が無料であることの影響力、保有効果」が働く可能性を認識しておくこと。

さらには「返報性の原理」が働く可能性もあるのだといいます。これは、人が他人からなんらかの施しを受けた際に、「お返しをしなければ申し訳ない」などと考えてしまう心理作用だそう。

たとえば、スーパーで試食をした後に、なんとなく買わなければいけない気がするのは、返報性の原理によるものです。この心理によって、返品無料にしてもらうのが申しわけないから買おう、と考えてしまう可能性があります。(32〜33ページより)

そのため、「ダメな買い物」を避けるためには、自分の心理に影響する要因を把握しておくことが大切。そのうえで、気に入った商品や必要な商品を買えばいいわけです。つまり、感謝すべきは感謝し、買うべきものだけを買うのが「いい買い物」だということ。(32ページより)

本書で紹介されているのは、行動経済学の理論。といっても難しい内容ではなく、人間心理の弱点をわかりやすく解説し、“悪い買い方”や“いい買い方”を例示しているわけです。

具体的にとるべき行動も提案されているだけあって、とても実践的な内容。いい買い物をするために、参考にしてみてはいかがでしょうか?

Source: 秀和システム

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