連載
特集
カテゴリー
タグ
メディア

WORK FAST, LIVE SLOW. 「好き」だけ残して、シンプルに生きる

英語できなくてもポートランド移住「暮らしの中に、仕事がある」

author 三浦一紀
英語できなくてもポートランド移住「暮らしの中に、仕事がある」
Photo: SHINO

ライフハッカー[日本版]は2021年、「WORK FAST, LIVE SLOW.」という新しいコンセプトを掲げました。

ニューノーマル時代を迎え、世界的に働き方も暮らし方も見直されていく中で、より豊かに、より幸せに生きるためにどうすればいいのか。仕事をより効率化し、スマートに働きながら、暮らしは余裕を持って心豊かに生きていくには、何をすればいいのか。

そのための方法やノウハウをライフハッカーでは伝えていきたいと考えています。

そして、今月から毎月の特集をスタートすることになりました。4・5月は『「好き」だけ残して、シンプルに生きる』特集をお送りします。「WORK FAST, LIVE SLOW.」を体現するようなビジネスパーソンのインタビュー集です。

第1回は、 元カヤックLiving代表取締役で現在は米ポートランドに家族で移住し、環境ビジネススタートアップ「おかえり株式会社」の代表を務める松原佳代さんのインタビューです。

海外移住に踏み切った経緯を聞きながら、松原さん自身がより幸せに生きるために心がけていることについて聞きました。今回は前編です(後編はこちら)。


松原佳代 おかえり株式会社&みずたまラボラトリー代表

profile2
Photo: SHINO

お茶の水女子大学を卒業後、コンサルティング会社、編集ライター職を経て、2005年面白法人カヤック入社。広報部長、新規事業の事業責任者を担当。2015年に独立しスタートアップのPR支援を行うハモニア(現みずたまラボラトリー)を設立。2017年より2020年6月までカヤックLiving代表取締役を兼任。2019年夏に鎌倉からポートランドに移住し、 おかえり株式会社を起業。トイレットペーパーの定期便「BambooRoll」を展開している。

海外に移住したのは、私が移住してみたかったから

長男を妊娠していたとき、「子どもには海外での暮らしを経験させてあげたいな」とぼんやり考えていたんですけど、「あれ? 私も海外で暮らしてみたいんだけど、子どもだけズルくない?」って思ったんです(笑)。

それで夫に相談したら、「だったら家族で行けばいいじゃない」って言われて。そりゃそうだと思って、どこかのタイミングで、家族で日本以外の場所で暮らそうと心に決めました。

夫の仕事はフリーのエンジニアだし、私も自分で起業をしていたから、仕事に関してはリモートでなんとかなるんじゃないかと楽観的に考えていましたね。まあ、実際に移住するとなると色々大変でしたが……。

移住に関わるビジネスを手がけたこともきっかけに

もともと「面白法人カヤック」という会社で2005年から10年間PRを担当していました。そのかたわら、新規事業の立ち上げ期を任せてもらうなど、好きなことをたくさんさせてもらいました。

カヤック在職中に結婚・出産を経験し、その後、独立してスタートアップ企業のPR支援をする事業を始めました。

数年後に次男を出産して、少し仕事のペースを落としていたときに、カヤックの代表から「子会社の代表になって新規事業を立ち上げないか?」と声をかけてもらったんです。

そのテーマが「移住」でした。先ほどお話ししたように、この時点で私は海外移住を考えていて、私自身もターゲットだなと思って「カヤックLiving」の代表を引き受けました。これが2017年のことです。

そして2019年、ついに家族でポートランドへ移住しました。この時期はリモートでカヤックLivingの経営をしていましたが、2020年に代表を辞任。

現在は、ポートランドに住む私と、日本、エストニアにいるメンバーの3人で「おかえり株式会社」を立ち上げて、竹でつくったトイレットペーパーの定期便サービスを展開しています。

英語はできない。だけどポートランドを選んだ理由

話を戻して、「なぜポートランドなのか」についてお話しします。

目標は「家族で海外で暮らす」だったので、まずはビザの取りやすい国を探しました。また、子どもを連れて行くので、きちんと教育を受けられて、英語圏の国、と条件を考えていくと、北米かヨーロッパかなと考えていました。

そうこうしていたら、夫がビザの抽選に当選して、それがアメリカだったんです。「これはアメリカに行けということだな」と勝手に解釈して、まずアメリカ移住が決まりました。

アメリカの中でも、ポートランドは地域やコミュニティを大切にする文化があって、クラフトや独自のカルチャーも魅力的。タイニーハウス(小さな家)で暮らすなど、オルタナティブな価値観が出てくる街でもあり、もともと興味を持っていました。

夫の都合もあってアメリカでは西海岸を希望していたのですが、日本では鎌倉に住んで自然が近い暮らしに慣れていた私たちにとって、サンフランシスコは都会過ぎました。初めての地なので、 自然豊かで、かつ不便すぎないところに住みたいと考えていました。

そんな中でポートランドを下見に来てみたら暮らしやすそうだったし、カルチャー的にもひかれるものがあったこと、そして知り合いが住んでいたこともあり、ポートランド移住を決断したんです。

こんなことを言っていると、まるで私は英語堪能のようですが、実はあまり得意ではありません。現在も小学生の子どものオンライン授業を横で聞いて、一緒に勉強しているくらいです(苦笑)。

しかも、こういうご時世で家族以外の人と外で話す機会があまりなく、仕事では日本とオンラインでつないで会議をしているから、なかなか英語が上達しないんですよね。逆に日本語のコミュニケーション能力が上がったかもしれません(笑)。

移住で価値観が揺さぶられた。直に感じた「多様性」と「差別」

移住して最初の半年間はコロナ禍ではなかったので、いわゆるポートランドでの普通の生活だったわけですが、何をするにもとにかく大変でした。買い物をするにしても、 単位や購買の仕方が日本と異なるし 、棚を作るために木材を買おうと思っても、インチで表示されているのでよくわからない。

終始そんな感じなので、何をやるにも時間が数倍かかるという感じでした。

少しずつ慣れてきたところに、新型コロナがどかんときて(苦笑)。これはもう予定外過ぎて、受け止めるだけで精いっぱいというような状況でしたね。

でも、海外移住自体はしてよかったと思っています。一つは「多様性」に本当の意味で触れられたからです。

ポートランドでは2020年にBlackLivesMatterの運動が起こって以降、プロテスト(抗議運動)が盛んに行なわれました。2020年は大統領選もありました。政治や人種差別などの問題に対して、日本にいた頃の自分がいかに無知であったかを実感した1年となりました。

また、今は全米でアジアヘイトが問題になっていて、ポートランドの身近では起こっていませんが、ニューヨークやサンフランシスコではその頻度が上がっているような状況で。「自分が差別の当事者になる」という状況を経験しています。

私の人生の価値観や考え方がすごく揺さぶられた、そういう1年半だったんです。

こういった経験がなかったら、今の会社を起業していなかったと思います。

「暮らし」は仕事より上位概念

コロナ禍になってからは、学校も保育園も行けなくなったので、1日中子どもたちが家にいるという生活でした。今春になってやっと少しずつ対面授業が始まってきたという状況です。

ポートランドに引っ越してきたときは、異文化の中で子どもたちも苦労するだろうと思って、子どもとの時間を少し大事にしようと決めていました。だけどコロナは想定外で、とにかく育児家事に追われた1年半でした(笑)。

ポートランドに来てからは、生活リズムに慣れるのが大変でした。私は日本とビジネスをしているので、仕事は夜の時間がメイン。昼間は育児家事、夜は仕事という感じです。

時差があるおかげで家庭と仕事を完全に切り分けることができているのはメリットですが、逆に生活のリズムが不規則になるというデメリットもあります。

ただ、暮らしの部分を大事にできるというのはとてもいいことだと思っています。ポートランドを選んだのも、それが一つの理由です。仕事によって住む場所を選ぶ必要はない、とずっと考えていました。

私は、仕事は暮らしの一部だと思っているんです。だから、仕事にすべてを支配されることはおかしい。暮らしのほうが上位概念のはずです。

人とつながること、しっかり暮らすことを大切に

私は、モノへの執着や興味がまったくありません。唯一興味があるのは人間。だから、人とつながることはすごく大切にしていることの一つです。

また、「ちゃんと暮らす」ということも私の中でとても重要なことです。家族でごはんを食べるとか、なるべく家族で一緒に時間を過ごすとか、そういった普通のことを大事にしたい。ですが、仕事で忙しかったり、さまざまな理由でおざなりになってしまうことはよくあると思います。

私も20代は仕事ばかりで東京の文化にどっぷりつかっていたんですが、30歳くらいのときに鎌倉に引っ越して、そこで価値観が変わりましたね。夫とは結婚当初から毎晩一緒に夕食を食べているのですが、そういうことをすごく重要視するようになりました。

今は、仕事がいくら充実していても、暮らしがしっかりできていないと幸せとは感じません

ポートランドを選んだ理由もそこにあるんですけど、ちゃんとおいしいものを食べられる、お料理を毎日できる、街を散歩したときに四季を感じられる。そんな日々の生活を大切にしています。


続きは後編『「好きなことを仕事にした」けれど、8割にとどめる理由」をご覧ください。

swiper-button-prev
swiper-button-next