人間関係をよくする「カルチュラル・インテリジェンス」の磨き方
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まもなく4月になりますね。新しい出会いが増える時期ですから、今回は人間関係構築に欠かせないスキルと言われる「カルチュラル・インテリジェンス」について紹介します。
カルチュラル・インテリジェンスの定義
BBCの記事で、カルチュラル・インテリジェンスについて「The ‘Hidden Talent’ That Determines Success(成功を決める「隠れた才能」)」と、どきりとするようなタイトルで取り上げられています。
カルチュラル・インテリジェンスは、IQ(知能指数)やEQ(感情指数)とともに成功に必要な要素と考えられるようになり、これらに倣って CQ(文化指数)という表記もよく見るようになりました。
David Livermore氏は、『Cultural IQ The Cultural Intelligence Difference: Master the One Skill You Can't Do Without in Today's Global Economy』の著者であり、ミシガンにあるCultural Intelligence Centerの所長です。
彼はToastmasterの記事で、ある調査結果について触れています。Economist Intelligence Unitの調査では、68カ国からのトップエグゼクティブの9割が「CQは21世紀のリーダーシップには不可欠」と答えたそうです。
その理由として、市場と労働者がより一層多様化していることが挙げられています。日本でも、この点を実感している人は多いのではないでしょうか。
BBCによると、この分野の第一人者であるシンガポールの南洋理工大学のSoon Ang氏がカルチュラル・インテリジェンスについて「さまざまな文化的なコンテキストにおいて、効果的に機能する能力(the capability to function effectively in a variety of cultural contexts)」と定義しているそうです。
Ang氏は、1990年代に2000年問題(懐かしいですね!)のために、世界中からトッププログラマーを集めて解決策を模索しました。ところが、チームはなかなかうまく協働できませんでした。
調べてみると、スキルやモチベーションが高くても、アイデアを実践する方法などが異なっていて、人間関係に支障があったことが判明しました。
そして、当時ロンドン・ビジネス・スクールに在籍していた組織心理学者のP. Christopher Earley氏と一緒に、カルチュラル・インテリジェンスの研究を始めることにつながったそうです。
カルチャーを幅広く捉える
さて、「カルチャー」という言葉を聞くと、何が思い浮かびますか?
美術や文学、日本文化やアメリカ文化などがまず思い浮かぶのではないでしょうか。カルチャーの違いのわかりやすい例には、日本では家の中で靴を脱ぐけれど欧米では脱がない、日本では麺類をすする音を出してもOKだけれど欧米ではNG、などがあります。
著者にとって「カルチャー=美術や習慣などの文化」を再定義することになったきっかけは、アメリカの大学院の映画研究方法論の講義で取り上げられたCultural Studiesでした。
カルチュラル・スタディーズというのは、1960年代にイギリスで始まった研究方法です。その講義から理解したのは、カルチャーというのは自分が考えていたよりももっと幅の広いもので、日常生活のあらゆる面が含まれるということでした(あくまでも一学生としての個人的な理解です)。
それ以降、私はカルチャーを広義に捉えるようになりました。
コトバンクでは、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説として次のように記されています。
人間の知的洗練や精神的進歩とその成果、特に芸術や文学の産物を意味する場合もあるが、今日ではより広く、ある社会の成員が共有している行動様式や物質的側面を含めた生活様式をさすことが多い。このように定義される文化は、言語、思想、信仰、慣習、タブー、掟、制度、道具、技術、芸術作品、儀礼、儀式などから構成される。
私が講義を取る前に理解していた「文化」は「芸術や文学の産物」という狭義で、大学院での学びやアメリカ生活で体感している「文化」は広義の定義にあてはまるようです。
自分の生まれ育った文化との違いに気づく
文化を幅広く捉える視点は、私がアメリカで生活し、アメリカの会社で働く上で役立っています。
また、同時に、自分の持っている思い込み、偏見、ステレオタイプなども意識するようになりました。厳密に言えば、意識せざるを得ないと言ったほうが正しいかもしれません。
それは、多種多様な人々が住むアメリカという国で生活していることに加え、多様な社員と顧客が存在するアメリカ企業では、宗教や言語、人種や性別などによる差別を禁止することが明確に示されているからです。
航空会社社員として国際空港で働いたときには、ダイバーシティや障がいのある人への対応などのトレーニングを受けましたが、これらのクラスでは自分が持つ偏見やステレオタイプを認識する作業も含まれていました。
偏見・思い込みの認識が高いCQにつながるのかどうかはわかりません。ただ、自分が生まれ育った文化とは違うカルチャーに気づき、それを学び、配慮するためには、自分が持っている思い込みや決めつけ、無知をまず認識することが役立っていると感じています。
そして、国、地域、宗教、LGBT、障害、世代の違い、菜食主義など、あらゆる要素をカルチャーとして捉えるようになりました。
自分の思い込みに気づいた体験
ほんの少しですが、思い込みに気づかされた体験には次のようなものがありました。
・名前(たとえばジョン・ミラーさん)から白人男性を想像していた人と、初めて電話で話したらアクセントの強い英語を話すインド系と思われる人だった。
・同様に、名前からあるタイプの人だと思っていたら、対面したら違っていた場合もありました(男性だと思っていたら女性だった、白人だと思ったらアジア系だったなど)。
障害者関連のクラスでは、障害には目に見えないものもある点が強調されました。このとき、それまでは自分が「障害=目に見えるもの、他人にすぐわかるもの」と漠然と思い込んでいたことに気づいたのです。
障害には、強度のアレルギーや、嗅覚や味覚がないなど、一見しただけではわからないものがたくさんあります。そして、もちろんそのような人たちもADA(障害を持つアメリカ人法)で保護されています。
そのため、本人から障害者だと告げられたら、その証明などを要求せず、できる限りの対応をする義務については、会社の業務だけではなく非営利団体の仕事などを行なう上でもみっちりと指導されます。
逆に、自分に対する相手の発言から、日本人に対する思い込みのようなものが垣間見えたこともあります。
「日本人にしては背が高い」「日本人ぽくない」など。その発言の裏には「日本人は背が低い」「日本女性はばっちりメークをしている」という思い込みがあったのかなと想像しますが、本当のところは相手に聞かないかぎりわかりません。
また、自分がスーパーバイザーをしていた職場(空港)で年上の男性の部下と一緒にいたとき、お客さんから私が彼の部下だと思われたこともありました。
CQ向上のための4つの側面
上記は私の海外での経験ですが、場所にかかわらず多かれ少なかれこのような経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
前述のLivermore氏はこう述べています。
ある文化に理解があることは有益ですが、それによって新しい環境において効果的に従事する能力が予測できるとは限りません。実際のところ、私たちの研究では、複数の場所で長い間過ごしたことのある人は、海外のある場所で何十年過ごした人よりも高いCQ知識を持っている可能性が判明しています
ですが、複数の場所に住まずとも、CQを高めるためには4つのステップがあると、Livermore氏はToastmasterの記事で述べています。
1.CQ Drive(CQ推進)
異文化への関心を持つことが最初のステップです。
私の体験を例に挙げます。数年前にハラール物流という言葉を目にしました。
文脈からそれが何を意味するかはわかるのですが、それだけでわかったものとして読み流してしまうのではなく、「ハラール」とは何だろう、調べてみようと関心を示すステップです。
2.CQ Knowledge (CQ知識)
関心の次は、知識を得るステップです。
文化的な相違点について理解します。ハラール物流について調べてみたことがこのステップに該当します。
日本通運のサイトではハラールとは、イスラム法において合法なもののことで、イスラム教徒が日常生活で使う原材料、医薬品、化粧品、加工品などもイスラム法で規定され、また品質や安全性も重視されているそうです。
「ハラール物流とは、そうした製品や商品を安全に輸送する物流であり、特に高いトレーサビリティ(輸送経路・経歴の追跡)が要求されます」とサイトで述べられています。
ハラール物流についての知識が増え、また、その反対にイスラム法の規定に沿っていないものはハラームということもわかりました。ハラールの歴史的、宗教的な背景もインターネットで調べました。
物流にもハラールがあるなら、レストランはどうだろうと思って調べてみると、ハラール対応のレストランが地元にいくつもあるではないですか。
そうなると、自分の生活には直接関係ないものの、それまでまったく知らなかったハラールが少し身近に感じられるようになりました。
3.CQ Strategy (CQ戦略)
次は戦略のステップです。
物流関係の仕事をしているなら具体的な戦略がすぐに必要になるかもしれませんが、私の場合は、機会があればハラールを実践する人に対して理解を示し、必要に応じて対応することです。ムスリムの人と交流するときにはこの点を念頭に置きます。
4.CQ Action(CQ行動)
最後は、異文化交流の際に言語的・非言語的な行動を、柔軟かつ適切に行なう実践のステップです。
Toastmasterの記事で、Livermoreさんは、実行ステップで忘れてはならない最も重要な点はいつCQアクションを適用し、いつ適用しないかの判断だと述べています。
ハラールの例では(このステップはまだ起こっていませんが)、持ち寄りパーティなどの機会にムスリムの参加者がいるか確認し、必要ならハラールの料理や飲み物を持っていく、またはハラームのものを避けるという行為が該当するでしょう。
外食ならハラール料理の選択肢があるレストランを選び、贈り物をするならハラールに遵守している製品を選ぶことができます。
国や民族による文化、地域による文化、LBGT、障害、宗教的・政治的な信条など、私たちの文化はとても幅広いものです。
日本人といっても、ひとりひとりが抱える文化は少しずつ違っている部分があります。文化には共有している要素もあれば、違っている要素もあるはずです。
このように多様な人たちが交流する社会で、相手に対する理解や配慮を双方が少しずつ増やしていければ、人間関係はもっと良好になり、やりとりは心地良いものになるでしょう。
出会いのたびに、交流のたびに、それを意識して行動していけば、人間関係の向上や仕事の成果にきっとつながると信じています。
Source: BBC, Toastmaster, コトバンク, 日本通運
ぬえよしこ