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印南敦史の「毎日書評」

トヨタはなぜ、テレワークに素早く対応できたのか?

author 印南敦史
トヨタはなぜ、テレワークに素早く対応できたのか?
Photo: 印南敦史

トヨタの描く未来 トヨタ式 新しい時代の働き方』(桑原晃弥 著、リベラル社)の著者は経済・経営ジャーナリスト。トヨタ式の実践現場や、多くのトヨタマンを幅広く取材してきた実績を持つ人物です。

そんな著者が本書で注目しているのは、トヨタの危機管理能力。

緊急事態宣言下におけるテレワークへの移行、解除後の対応、そして業績への影響を最小限に食い止めるという点で、トヨタ自動車(以下「トヨタ」)は見事に危機管理能力を発揮したというのです。

しかし、なぜトヨタにはそれほどの対応ができたのでしょうか?

「3年間、何も変えなければ会社は潰れる」はトヨタに受け継がれてきた言葉の1つです。

実際、トヨタは常に「変わる」ことを意識し、それも「景気のいい時に改善を」という言葉が示すように、順境にあっても常に健全な危機意識を持つことで「変化を日常に」してきました。

さらに、過去に何度も訪れた危機にあっては、「危機をチャンス」ととらえることで自らを変え、より強くなってきました。(「はじめに」より)

コロナ禍のいま、トヨタに限らず多くの業界が転換期に差しかかっています。

だからこそ、危機を迎え撃ち、常に変化し続けることで成長してきたトヨタのやり方や考え方、行動の仕方を知るべきだと著者は主張しているのです。

きょうはprologue「トヨタはなぜ迅速に新しい働き方への移行を決めたのか」のなかから、テレワークに関するトヨタの基本的な考え方を抜き出してみたいと思います。

トヨタはなぜテレワークを拡大するのか

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークが急速に拡大したことはご存知のとおり。とはいえテレワークへの移行の度合いについては、業界によって、あるいは企業によって大きな差があるのも事実です。

IT業界のように早々にテレワークを実施していた企業もあれば、なんの準備もないままテレワークへの移行を迫られた企業もあるわけです。また業務的にも、オフィスワークなどテレワークに対応しやすい業務がある一方、現場作業など対応しづらい業務もあることでしょう。

いずれにしても、企業のあり方自体が大きく変わっているのです。そんななか、これからの企業のあり方について大きな影響を与えるのが、名実ともに日本のリーディングカンパニーであるトヨタなのだと著者は主張しています。

トヨタはコロナ禍以前の数年前から、社員の仕事と育児や介護などとの両立を図るためもあり、在宅勤務の環境を整備してきたのだそうです。

希望者にはパソコンを貸与し、週に2時間以上出社すればよいという制度も設けていたのだとか。いわば、テレワークに関しても先を行っていたわけです。

今回、新型コロナウイルスの感染拡大への対応としてのテレワークへの移行をスムーズに進めることができたのも、そうした先進的な取り組みがあったからこそ。

事実、トヨタは2020年3月20日からは名古屋オフィスで、同26日からは東京本社で、原則として在宅勤務の態勢をとっていたといいます。

また豊田市など東京以外の本社のある地域でも、4月13日以降は公共交通機関の利用者は原則的に在宅勤務としたそうです。

社長の豊田章男氏も非常事態宣言への対応の例外ではなく、発令された2020年4月7日以降、愛知県外への移動を避けるため、県内の研修センターに身を置いて仕事をしていました。

こうした経験を踏まえて、豊田社長はオンライン決算説明会でこんな発言をしています。

「移動時間80%減、接触人数85%減、会議時間30%減、資料50%減ということ。そのリソースを、未来への投資に割ける」(7ページより)

テレワークを実施することにより、移動時間や会議時間、資料作成時間などを大幅に削減できるとわかったため、今後もテレワークを強力に推し進め、そこで浮いた時間や人、お金を「未来への投資」に振り向けると宣言したわけです。

その発言どおり、9月から正社員向けの在宅勤務制度を拡充するという方針が発表されたのは7月1日のこと。

そこでは「週2時間以上出社」といった一定程度の出社義務も撤廃。新型コロナウイルスの感染拡大を受けての「特例として在宅勤務」から、「恒久的な在宅勤務」へと大きく舵を切ったのでした。

当然ながら、工場勤務者や開発部門、営業部門など、在宅勤務が困難な業務も多く、それらは今後の検討課題となっているようです。

しかしトヨタがテレワークを恒常的に取り入れると宣言したことで、他の日本企業にもテレワークの本格的導入を検討する必要性が出てきたわけです。(6ページより)

テレワークは「手段」である

どんな企業にとっても、テレワークは単なる「手段」。そして、その「目的」は社員にとって働きやすい環境をつくるとか、生産性を上げるといったものである必要があります。

「政府がやれというから」「テレワークが時代の要請だから」というように、明確な目的なしに流行に乗るだけなら、テレワークをすること自体が「目的」となってしまいます。

すると、「テレワークにしたらかえって生産性が下がり、業績が悪化した」という結果を招きかねません。

これからの時代、どの企業にとってもテレワークの拡充は避けて通ることはできませんが、そこには「何のためにテレワークを進めるのか?」「テレワークを導入することでどういう働き方を実現するのか?」といった明確な目的を欠くことはできません。

「目的と手段を間違えるな」はトヨタ式の大切な教えの1つですが、テレワークを拡充するにあたっては「何のためにテレワークを進めるのか?」という「目的」をしっかりと持ち、「手段」としてのテレワークを上手に導入していくことが大切です。(9〜10ページより)

現在、トヨタがテレワークを推進している目的は2つ考えられるそうです。

まず1つは、社員自身が働く場所や働く時間を自由に選べるようにすることで、多様な働き方を可能にし、それによってこれまで以上に多様な人材を集め、各人の力を100%引き出すこと。

その点において成功しているグーグルの例を出すまでもなく、「働きやすい会社」という評価は、今後、採用などでも大きな武器となっていくだろうという考え方です。

そしてもう1つは、上記の豊田社長の発言にもあるように、これまでの働き方を続ける限り簡単には改善できない「たくさんのムダ」を省き、それらを「未来への投資」に振り向け、熾烈な競争に勝ち残ること。

こうした目的を明確化しているからこそ、トヨタのテレワークは成功しているのだということです。(9ページより)

冒頭でも触れたように、社会はいま、大きな変革の時期を迎えています。

そんなときだからこそ、トヨタのメソッドを知ることには重要な意義があるはず。マイナスをプラスへと転化させるために、是非とも本書を参考にしたいところです。

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Photo: 印南敦史

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