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「恥」の意識と行動の関係。他人の行動を変えるのに有効な手段は?

author 訳:春野ユリ
「恥」の意識と行動の関係。他人の行動を変えるのに有効な手段は?
Illustration: Elena Scotti (Photos: Getty Images)

新型コロナウイルスのパンデミックにより、9カ月で29万人以上の死者を出したアメリカは、未曽有の危機に瀕しています。

感染力の強いウイルスの蔓延に伴い、病院は混雑し、医療スタッフは過労になっています。

その上、未だにこのパンデミックを現実のこととして捉えていない人々がいて、マスクを着けるといった公衆衛生の戦略に協力することを拒んでいます。そういう人たちと折り合いをつけながら生活していく必要があります。

最近やっと有望なワクチンが登場しましたが、ワクチンを接種する機会が一般の人に巡ってくるまでに数カ月はかかりそうです(また、摂取できるようになっても接種を拒否する人もいそうです)。

いずれにしろ、今からワクチン接種ができるようになるまで、年末年始の休日と風邪やインフルエンザが流行る季節を何とか無事にやり過ごさなければなりません

状況は日ごとに悪化しており、次にどういう手を打つべきかわかりようがありません。

公衆衛生担当当局、科学者、医療従事者は、ソーシャルディスタンスを保ち、マスクをつけることに関してガイドラインに従うように何カ月も世の中に訴えてきました。それでも、毎日記録的な数の新型コロナウイルス感染者が亡くなっています

ほとんどの人は、パンデミックの現実をすべての人に理解させる義務を負っていませんが、「年末年始の休暇は家で過ごす」など、最も基本的な予防策を講じるように友人や家族を説得する状況に陥るかもしれません。

科学やデータを持ち出しても説得できないとき、「」という別の戦略に目を向けたくなるかもしれません。

しかし、恥を感じさせることは、他人に行動変容を促す方法として効果的でしょうか?

SNSでは常に目にするので、つい「恥」の意識に依存しているかもしれませんが、実際には本当に効果があるのでしょうか? あるとしても、どの程度長くその効果は続くのでしょうか?

米Lifehackerは、これについて数人の専門家から話を聞きました。

恥を感じると、人はどう反応する?

他人に行動の改善を促す方法として「恥」の意識を用いるという考えは、古代から、特に公の場で屈辱を伴う罰の形で存在してきました。

もちろん、自分の父親にマスクを着けるように説得したいとき、公の場で恥をかかせることは選択肢になりませんが、歴史的な観点から見ると、どれほど長い間「恥ずかしい」というネガティブな感情が人間の行動変容を促す手段として利用されてきたかがわかります。

そして、家族や友人間で恥をかかせることも、同じような原則から効果があります。しかし、公衆衛生対策の遵守を強化するとなると、果たして効果はあるのでしょうか?

恥を感じさせることが「効果的」かどうかという問題は、それ自体が複雑です。

相手の反応を引き出すという意味では「効果的」かもしれませんが、健康を守る行動に有意義な変化をもたらすという意味で「効果的」な戦略かどうか、そして、理想的には、利益以上に害がないかどうかとなると、まったく別の話しになります。

アリゾナ州立大学の「人間の進化と社会の変化」の研究科の生物文化人類学者であり、『Lazy, Crazy, and Disgusting: Stigma and the Undoing of Global Health』の著者であるAlexandra Brewis-Slade博士には米Lifehackerに次のように語っています。

恥は強烈な感情であり、社会の期待に反すると恥ずかしいと思わせると、社会規範に従いたいと思わせることができます。本当の問題は、恥が汚名に変わるときです。

恥が脳に与える影響とは

人間が恥の感情に反応する理由について理解を深めるために、神経科学者兼精神科医のTara Swart博士に話を聞きました。

博士は、マサチューセッツ工科大学スローンマネジメントスクールの上級講師であり、『The Source: The Secrets of the Universe, The Science of the Brain』の著者でもあります。

Swart博士は、意思決定において感情が果たす役割を考慮することが大切だと語っています。

人間には、8つの基本的な感情があり、それぞれが特定の神経伝達物質のさまざまなレベルに相関しています。この範中に、5つの生存感情、すなわち、恐怖、怒り、嫌悪感、悲しみ、恥があります。

こうした感情は、ストレスホルモンであるコルチゾールを活性化するため、感じたり経験したりしたくない感情です。

ですから、実際に身体に悪い感情であり、結果として頭痛、筋肉痛、不眠症、消化不良といった症状が出ることもあります。

ですから、当然、人間はそうした感情を抱くことを避けるためにあらゆる努力をします。そのため、恥は人間に簡単にモチベ―ションを与える戦術になり得るとSwart博士は言います。

だからと言って、恥を活用すべきだという意味ではありません。

恥は、他人を説得する技術としては簡単に使えますが、恥を利用するとネガティブなアプローチで行動変容を促すことになると博士は説明しています。

神経科学者兼メンタルヘルスの専門家で、近々上梓予定の『Cleaning Up Your Mental Mess』の著者でもあるCaroline Leaf博士もこれに同意しています。

恥は、人間のアイデンティティを脅かす非常にネガティブな感情であり、人間を自己防衛的にしたり攻撃的にするか、自分自身を守るために引きこもりにさせる傾向があります。

恥は本質的に、「自分は悪い結果になることをしているのかもしれない」と感じさせるのではなくて、「悪いのは自分だ」と言われるのと同じです。

恥は、しつこい不安を招く可能性があり、論理的に物事を考える能力を妨げる可能性さえあります。

恥を利用すると益より害が多い

身近な人たちにパンデミックを真剣に受け止めるように説得する場合、ポジティブな理由を持ち出して説得を試みることがおそらく安全でしょう。

私たちは、友人や家族が安全で健康であり続け、誰もが公衆衛生対策を推進するために各人の役割を果たすことを望んでいます。

人間は、恥をかかされると強い反応を示すかもしれず、コミュニケーション戦略として、短期的には行動を改善することができても、害も与えてしまう可能性があります

それは、Brewis-Slade博士が指摘した通り、恥はすぐに汚名に変わる可能性があるからです。

「つまり、それは単なる一時的な感情ではなく、その人の社会的アイデンティティの一部になってしまう」として、博士は、「タバコを吸う人」と「喫煙者」の違いを例として挙げています。

後者には不健康な人という意味合いがあり、もしかしたら嫌な人という意味合もあるかもしれません。

アイデンティティにネガティブな烙印を押された人は落胆しますし、社会から疎外されます。

疎外されていたり社会的に弱い人ほど、このプロセスが酷に働き、落胆疎外がますますひどくなります。

パブリックセクター、プライベートセクター、非営利セクターで災害への備えと管理の仕事に長年従事した経験があり、現在は認定緊急マネージャーDisaster Hawk(災害への対策と対応のアプリの会社)の社長を務めるPatrick Hardy氏は、恥の意識は緊急事態の際に人々の行動変容を促すために数え切れないほど頻繁に使われてきたと言います。

しかし、Hardy氏は、そのやり方では効果がないと言います。

人間には認知的不協和の実績があることを考えてみましょう。たとえば、健康に悪いとわかっていても喫煙を続ける人がいることがそれに該当します。

別の例としては、嵐のときに洪水になって危険な中、車を運転する人は安全ではないことをわかっていても、「悪いこと」が起こるわけがないと考えています。

そういう人に限って誰よりも洪水のことをよくわかっていると思い込んでいるため、どれほど厳しい統計を突き付けられても、洪水の中を運転することをやめません

Hardy氏は、このような方法で恥の感情を利用しても、効果がないだけでなく、やめさせようとしているネガティブな行動を増長し、相手は恥の感情に伴う不快な気持ちを回避する方法を積極的に探すようになると言います。

Hardy氏は、このような状況で恥を感じた人は一般的に、次の2つの戦略のどちらかに目を向けると言います。

  1. 自分の視点を裏付ける情報を見つける(たとえば、マスクをつけても言われているほどの効果はない、または自分に不都合な情報に「フェイクニュース」のレッテルを貼る)
  2. 自分の行動にそれほど害はないと軽く考える(ジムに行くのをやめているし定期的に手も洗っているので、マスクをつける必要がないと考える)

いずれにせよ、そんな会話は誰にとっても生産的ではありません。

恥の感情は人間の行動を操作しているのか?

どれほど善良な意図があっても、恥の感情を利用して他人に行動を変えさせることは、他人を操作する1つの形態と見なされます。

Brewis-Slade博士は次のように説明します。

他人から言われて行動を変えることは、ほとんどの場合、行動を操作されていることになります。

それは、社会的な理想や従うべき規範に従い、「善良な人」と思われたり、社会的な名声を手に入れたいという人間の願望を利用したソフトな強制です。人間には根本的にそういう願望があります。

同じ流れで、Leaf博士は、恥は人間の行動を操作するだけでなく、破壊的でもあると言います。

自分が人より劣っていると感じさせたり、少なくとも会話をしている相手より人間としての価値が低いと感じさせることによって、他人をコントロールしようとしているのです。

しかし、恥の感情を利用する戦略の特に難しい点は、人々が時として無意識にその戦略を使っていることです。

Swart博士は次のように説明しています。

恥を感じさせることは、間違いなく一種の操作ですが、まったく無意識のうちに行われる可能性があります。

ソーシャルディスタンスを保つことや、家族がホリデーシーズンに旅行するか家にいるかを決めるときの会話で恥を感じる人は、自分が新型コロナウイルスに感染するのではないかと不安を感じるかもしれませんが、それは規制とは関係ない感情と言えます。

これには反論もあるかもしれませんが、この感情は必ずしも意図的でもなければ悪いわけでもありません。行動操作にまつわるネガティブな意味合いがあるだけです。

「○○と休日を一緒に過ごすには、マスクをしないと恥ずかしいと○○に思わせるしかないけれど、私は本当に○○に会いたいからそれも仕方がない」と言うと、これもまた操作になります。

ですが、この場合は誰かに必ずしも悪意から恥を感じさせようとしているわけではありません。

誰が発言するかで効果は異なる?

恥を感じさせる行為がどれも同じ重みを持つわけではありません。

これは、家庭や友人のグループ内で、恐らく多くの人が既に気づいている力学です。他のメンバーより影響力が強いメンバーがいるものです。

たとえば、あなたがマスクをつけることを拒否していて、おばあさんと年下のいとこが揃ってあなたに恥を感じさせることで考えを変えるように説得を試みているとしましょう。

おばあさんは経験豊かだし、この年齢まで長生きしているということは、正しい行動をしているからに違いないと考え、あなたはおばあさんから言われた方が受け入れやすいかもしれません。

恥を感じたときの反応は、その感情を抱かせた人とどれだけ近い関係にあるかその人との感情の絆がどの程度強いかにもよります。

Swart博士は次のように説明しています。

関係が近い人の方が帰属意識を脅かす力が強いので、「恥を感じさせる」可能性が高くなります。

そして、この帰属意識は、人間が生きていくために脳が一番大事にしていることです。

恥の感情を利用せずに説得する方法

多くの人は、恥と罪悪感がコミュニケーションと説得のデフォルト戦略だった家庭やコミュニティで多くの人が育っています。

成長するにつれて、人間は恥を感じることが多くなり、恥の感情は非常に用途が広いことに気づきます。

子どもにお皿にある食事を全部食べなければならない理由を説明することに始まり、「○○しないと罰が当たる」と自分で自分を納得させることまで、あらゆることに恥の感情は利用されます。

他人の行動操作の弁解をするつもりはありません。時には、仕事を成し遂げるために恥の意識に依存し続けるより、自分の主張を伝えるための新しいアプローチを学ぶ必要があることを思い出して欲しいだけです。

そのためには、次のテクニックも試してみましょう。

1. まず相手を褒める

人と話すときは、非難から始めずに、相手とのつながりを強調するやり方で相手を褒めることをLeaf博士はすすめています。

たとえばこのような感じです。

デイブおじさん、おじさんとマギーおばさんとの関係は素晴らしいですね。

おじさんがいつも自分のことよりおばさんのことを優先するところが大好きです。

どうしたらそんなふうにできるのでしょうか? おじさんから習いたいです。

ここから、(できればあからさまでなく慎重に言葉を選んで)さらに褒めるべきだとLeaf博士は言います。

マスクをつけている人がマギーおばさんが感染することを防止してくれているなら、おじさんもそれと同じことを他人にしてあげられるように、マスクを着けることを考えてみてくれますか?

私たち全員が1つのコミュニティとしてマスクを着けることでお互いを守ろうとすれば、このウイルスに感染する可能性が低くなりますから。

2. 主語を変えて話す

Hardy氏は、相手に恥を感じさせることを避け、代わりに人間の自律性に焦点を当てることをすすめています。

現在の状況でこれを実践する方法の1つは、「災害にコントロールされる前にこちらが災害をコントロールできるので」、マスクをつけてソーシャルディスタンスを保ち、新型コロナウイルスに対する主導権を握りましょうと人々に伝えることです。

このアプローチを取ると、次のような効果があるとHardy氏は説明しています。

新型コロナウイルスが、あなたやあなたの家族をコントロールしてもいいですか?

感染してしまうと、もう選択肢はありません。100%隔離する必要がありますし、ヘタするとICUに入る可能性もあります。

子どもやペットに会えなくなり、好きなこともできなくなり、このウイルスに人生を乗っ取られるかもしれません。

マスクを着けましょう。そうすれば、あなたがウイルスをコントロールする立場になり、ウイルスはあなたをコントロールできません

3. コミュニティの意識を持ち出す

パンデミックに関して最も残念で苛立たしいことは、公衆衛生対策を有効にするためには(そして結果的に人命を救うためには)、誰もが(一般的には小さな)犠牲を払わなければならないと言われたときの人々の反応です。

本気で対策を取らず、自分が快適である方が他人の命より大切だと本気で思っているようです。

こうした状況では、公衆衛生対策を取った方がより大きな利益を得られると主張しても、どうにもならないかもしれません。

しかし、この考え方にポジティブに反応しそうな人と話しているときは、「コミュニティの利益」の論理を使うことをLeaf博士は奨励しています。

人々を説得する遥かに優れた方法は、人と人との深く有意義な結びつきや、人間はコミュニティに帰属することが必要だということを訴えることです。

多くの調査によると、人間がコミュニティの意識を身につけるときは、周囲の人々と深く関わっているため、自分だけでなく、コミュニティにとって最善のことをするために協力することがわかっています

Brewis-Slade博士は、これを「変化の理由として、道徳的に『悪』より『善』を呼び起こす」と説明しています。

4. 当事者意識を持たせる

コミュニティのマインドセットを利用するアプローチもうまくいかない場合、Swart博士は、会話相手を論点や懸念の当事者にすることをすすめています。

たとえば、休暇中は自宅で過ごすように説得しようとしているときは、次のように言ってみましょう。

あなたに新型コロナウイルスに感染してほしくないわ。

わかっていると思うけど、私たちはものすごく気をつけていて、他人にも感染させたくないと思っているの。

だから、それを実現する方法とすべての人の安全と幸せを守る方法について、一緒に合意点を見つけましょう。

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Source: Johns Hopkins University, npr, Michigan State Law Review, Amazon(1, 2, 3), Arizona State University, Tara Swart, Dr. Leaf, IAEM, Disaster Hawk, Al Manhal Platform, Creative Commons

Elizabeth Yuko – Lifehacker US[原文

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