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印南敦史の「毎日書評」

交渉上手になるには? 手強い相手を動かし、提案を押し通すコツ

author 印南敦史
交渉上手になるには? 手強い相手を動かし、提案を押し通すコツ
Photo: 印南敦史

交渉上手: 質問する、誘導する、傾聴する』(嵩原安三郎 著、三笠書房)のタイトルに冠された「交渉上手」という4文字からは、「賢くて口がうまい人」を思いつくかもしれません。

もちろん、賢くて口がうまいことで、交渉を有利に選べる人もいるでしょう。しかし、弁護士として年間100〜150件ほどの交渉をしているという著者によれば、それは交渉上手の必須条件ではないというのです。

だとすれば、交渉上手の条件はなんなのでしょうか?

1つは「人をよく見ている」こと。もう1つは「自分をよく見ている」こと。 これが弁護士として長年、数々の交渉をまとめてきた私の持論です。

どのような交渉でも相手の本音や隠れた要望を見極めることが欠かせません。それには自分が話すよりも先に相手が話すことを聞きながら、よくよく相手を観察する必要があります。

また、交渉がうまい人は、自分のことをよくわかっています。

どんなことが得意で、どんなことが苦手なのか、それを知ったうえで、自分の持つ「才能」をもっと活かせる交渉スタイルを身につけています。(「はじめに」より)

つまり、自分と相手のことをよく理解し、その時点でいちばん効果的な交渉の進め方ができる人こそが、本書でいう「交渉上手」なのでしょう。

なお著者によれば、交渉の目的は大きく分けて3つあるそう。

それは、「自分も相手も満足させる」こと、「自分を満足させる」こと、「相手を満足させる」ことの3つ。目的が違えば、交渉の進め方やテクニックも変わってくるということです。

そこで本書では、3つの目的別に「合意形成を導くための交渉術(自分も相手も満足させる)」「要求を押し通すための交渉術」「自分を満足させる」「ニーズを引き出すための交渉術(『相手を満足させる』)を紹介しているのです。

きょうはそのなかから、3章「『提案を押し通す』技術に焦点を当ててみたいと思います。

ここで紹介されているのは、手強い相手を思い通りに動かし、全面的にこちらに有利に交渉を運ぶ技術です。

「時間を味方につける人」が勝つ

交渉は必ずしも「効率第一」ではなく、たとえばその最たるものが「時間」。

もしも効率第一であるなら、短い時間、短い回数で一気に進めればいいかもしれません。ところが現実的には、そうトントン拍子に進む交渉ばかりではないわけです。

むしろ、落とすのが難しそうな相手と交渉するときは、むしろ「効率度外視」で向き合った方が結果的にうまくいくケースが多いのだとか。

つまり「あえて時間をかける」ということ。とくに自分より立場が上の相手に対して、自分がデフォルトで優位に立てる点は「時間」くらいしかないというのです。

もちろん与えられている時間は、みな平等です。 しかし、立場が上の人と自分とでは「時間の仮想単価」が違うのです。

仮に自分の1時間は1000円、相手の1時間は1万円で、すでに交渉に3時間を費やしているとしましょう。

「3時間」という長さは同じですが、自分は3000円、相手は3万円を使ったことになります。 この3時間を「当該案件に対する投資」と考えれば、相手は、すでに3万円も投資したことになるのです。

そして投資した以上は、リターンが欲しくなるのが人間です。

交渉決裂は、投資した時間が丸々無駄になるということですから、相手は、それだけは避けたいという気になるはずです。

つまり、なるべく長い時間を相手に使わせることで、「合意というリターン」に向けて相手を動かすことができるのです。(107〜108ページより)

いうまでもなく、このテクニックで重要なのは相手に「たくさん時間を投資した」と感じさせること。そのためには、まとまった時間を使わせるよりも、細切れで時間を使わせたほうが効果的なのです。

長時間の交渉を1回や2回ではなく、短時間の交渉を数多く重ねる。1回あたりの時間は30分から、長くても1時間程度が妥当でしょう。

「短時間×多回数」になればなるほど、相手の気持ちは合意に向かうというわけです。(109ページより)

相手には「かけた時間を無駄にしたくない」という思いがあるだけに、こちらにとって有利な内容であったとしても、案外、通りやすくなるのだといいます。(107ページより)

「小さな成功体験」を積み重ねる

「大きな目標を達成するには、小さな成功体験を積み重ねること」が大切だといわれますが、それは契約などの交渉でも同じ。

とくに、まだ100パーセント確定ではなく、途中で破棄される可能性が残っている場合には、とにかく決められるところから話を詰めていくことが重要。

それも契約の根幹に関わらないこと、すなわち「どうでもいい些末な条項」から詰めていけばいいというのです。

どんな契約にも、多くの細かい条項があるものです。

単純な売買契約1つをとってみても、そうでしょう。

「いくらで、どれだけ買うか」というのがメインですが、その他、支払いサイトはどうするか? 支払い方法は? 納品後のサポートは? 違約時のペナルティ条項は? 品質保証は? …などなど、細かいサブ的な事項があるはずです。

これらもきっちり詰めなくては、最終的に契約締結はできません。

順当に考えれば、「まず、もっとも重要な条項を決めてから、細かい条項を詰めていく」というのが効率的ですが、そこで、あえて逆を行く。

「仮に契約締結するとして、この条項はどうしましょうか?」と、細かい条項から詰めていくのです。(111〜112ページより)

このように「どうでもいい、些末な条項」を持ち出したら、相手は多くの場合、「別に重要なところではないから」と簡単に考えるため、比較的スムースに決まっていくはず。

それこそが狙いだということ。

些末な条項といえども、数があればそれなりの時間がかかるものです。

そのため相手のなかで、「ここまで時間を費やしたものを、そう簡単に潰すわけにはいかない」という心理が働くことになります。

だからこそ、いよいよ重要な条項を詰める段になったときには、こちらに有利に働く状態になっているということです。

いわば小さな交渉を重ねることで、いつの間にか相手は「破棄する」という選択肢を取りづらくなってしまう。こちらからすれば、まず外堀から埋めていくことで必勝パターンに持っていけるわけです。(111ページより)

本書では交渉に関するさまざまなテクニックが紹介されていますが、交渉上手になるために、必ずしもそれらすべてを身につける必要はないそうです。

当然ながら、自分に合うテクニックもあれば、合わないテクニックもあるはず。そこで、いろいろ試したうえで、自分だけの交渉術をつくっていけばいいということです。

交渉に苦手意識を持っている方は、手にとってみてはいかがでしょうか?

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Source: 三笠書房

Photo: 印南敦史

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