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印南敦史の「毎日書評」

逆境に勝つ。「ストア哲学」をよい人生を送るために生かすコツ

author 印南敦史
逆境に勝つ。「ストア哲学」をよい人生を送るために生かすコツ
Photo: 印南敦史

ストイック・チャレンジ: 逆境を「最高の喜び」に変える心の技法』(ウィリアム・B. アーヴァイン 著、月沢 李歌子 訳、NHK出版)の著者は、「ものごとがうまくいかないときは、それを試練ととらえるとよい」ということが経験上わかっていたのだそうです。

具体的にいえば、「ストア哲学」が自身の逆境に負けない力、すなわち回復力(レジリエンス)と問題解決能力を試そうとしていると考えているというのです。

そうすれば逆境から生じる感情を軽くし、解決策を見つけやすくなるということ。

まず、わたしは得体の知れないカルト教団のメンバーではないことを伝えておきたい。古代哲学、より正確にいえば、ストア哲学の実践者だ。

つまりマルクス・アウレリウス、セネカ、エピクテトスといったストア哲学者が2000年まえに説いた、よい人生を送るためのテクニックを用いてこの21世紀を生きるという選択をしている。(「序章 ある日空港で」より)

「禅」「マインドフルネス」に連なるかたちで、ストア哲学が注目を集めていることはご存知かもしれません。

この哲学は人生でなにを獲得するのが大切かを教えてくれ、それを実現するための策を授けてくれるのだといいます。

ただし宗教とは異なり、死後の世界ではなく、この世で過ごす時間について論じているもの。

単純化すれば、多くの人が「逆境」ととらえることを「ゲーム」に変えるという考え方。そうすれば、いらだちも、憤りも、落胆も感じることなく逆境に対処できるわけです。

フレーミング効果とは?

多くの人は、自分の思いどおりにならなかったとき、いらだったり、憤ったりするもの。

それは自然な反応でもあるでしょう。

だから怒るわけですが、ありがたいことに他にも対応の仕方があるのだとか。しかも簡単にでき、効果も大きいそうです。

それをわたしは「ストイック・テスト戦略」と呼んでいる。

逆境に見舞われたときは、自分の回復力や問題解決能力を創造上のストア哲学の神々に試されている、つまりテスト化されているのだと考える。

そうしたカーブボールが投げ込まれるのは、日々をより厳しいものではなく、よりよいものにするためだ。(16ページより)

「ストイック・テスト戦略」は、古代のストア哲学者(ストイック)によって考え出されたもの。いうまでもなく哲学者は思想家ですが、古代世界ではさまざまな役割を担ってもいました。

現代において哲学と考えられているものに加え、物理、生物、数理、論理、心理についても研究し、それらの分野に大きく貢献したわけです。

著者によれば、とりわけストア哲学者の貢献は大きいのだそうです。

「ストイック・テスト戦略」は、今日の心理学者たちが再発見し、「フレーミング効果」と名づけた現象を評価することが基本となっている。

フレーミング効果とは、状況をいかにとらえるかが、その状況に対して抱く気持ちに大きな影響を与えることをいう。(17ページより)

ストア哲学者が気づいたのは、体験する状況のフレーム(枠組み)はかなり柔軟にとらえることが可能なこと。

つまり、さまざまなかたちで人を悩ませ、苦しませる逆境も、「人間性に対するテストだと考えれば、気持ちも大きく変わるといいます。

なかでも重要なポイントは、大きな不幸に直面したときにも平静でいられるようになること。そのため結果的に、人生の質を劇的に改善することができるのです。

不変の楽観主義者

ただしストア哲学者は、誤解されることが多いものでもあるといいます。

感情を持たず、どんなことも冷ややかに受け止めることを第一の目標にしていたかのように思われているわけです。

しかし、そうした考え方を著者ははっきりと否定しています。彼らは感情を消そうとしたのではなく、いらだち、怒り、悲しみ、ねたみといったマイナスの感情を減らそうとしたからです。

その証拠に、喜び、楽しみなどプラスの感情を経験することにはまったく反対していないそうです。

ストア哲学者は冷徹なのではなく、出来事を前向きに解釈する能力を持った不変の楽観主義者と考えるべきだろう。

逆境に対していらだったり、憤ったりするのではなく、そうした試練にうまく対処することで大きな喜びを得る人たちだ。(18ページより)

そういう意味では、辛抱強い人であると考えることもできるかもしれません。

とはいえ辛抱強いとは、不満をもらさずに逆境に耐えること。しかし、ストア哲学者がやったことはまた別。

逆境を耐え忍んだのではなく、苦しまずに経験しようとしたということです。だとすれば、たしかにその差は大きいといえます。(16ページより)

現代によみがえるストア哲学

本書のことを著者は、「21世紀のストア哲学の実践の書」と位置づけています。20世紀後期の心理学の研究と、21世紀のストア哲学者の助言を融合させているのだと。

伝統あるストア哲学をこのような形で扱うことに腹を立てる学者もいるかもしれない。

彼らはストア哲学を貴重な古代遺産のように考えていて、密閉ケースに収め、さわらずに眺めていたいのだろう。

けれども、わたしはストア哲学をツールとして使う。

時の流れに合わせて磨きあげる必要はあるが、今でも役に立ち、現代の生活に大きな効用をもたらすものだと考えている。(18〜19ページより)

古代のストア哲学者はおそらく、自分たちが生み出したストア哲学を「現代風にする」ことに反対しないだろうと著者。

それだけでなく、ローマ帝国の哲学者であるセネカは、特に賛成してくれるはずだとも予測しています。

なぜならセネカは、「ストア哲学者のだれかひとりの教えに縛られるつもりはない。わたしにも独自の意見をもつ権利がある」と述べているから。

さらには「ストア哲学をセネカのように深く理解していると主張するつもりはない」と前置きしたうえで、著者はセネカにはなかったものが自身にはあることを認めています。

それは、エイモス・トベルスキーやダニエル・カーネマンなど現代の心理学者から得た人間の心理に対する知見。

ここではそれらを吸収したうえで、逆境に対処するために「ストイック・テスト戦略」を探求し、解説しているわけです。(18ページより)

まず明らかにされているのは、私たちが影響を受けやすい逆境と、それに対する典型的な反応。

次いで逆境に対する心理を探り、自分自身の回復力や創意工夫を試されていると捉えなおすためにはどうすべきかが示されています。

コロナ禍の影響もあって多くの人が逆境に直面している時代だからこそ、ぜひとも読んでおきたい一冊です。

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Source: NHK出版

Photo: 印南敦史

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