
現在私は、最新の学術研究に基づく社会人向けセミナーや企業研修を開発・実施する教育コンテンツのプロデュース業などを行っています。
その傍ら、個人経営の学習塾で大学受験の化学を教え、東京大学大学院では情報学や認知科学をベースにした「コトバ」が人に与える影響に関する研究もしています。(「プロローグ」より)
『人気NO.1予備校講師が実践! 「また会いたい」と思われる話し方』(犬塚壮志 著、朝日新聞出版)の著者は、自身についてこう記しています。
幅広く活動しているように見えますが、いずれにおいても成果を上げていくために欠かせないのは「話す」ことなのだとか。
たしかに予備校業界は、生徒から支持を集め、自身の講義に出席する受講生が増えれば増えるほど評価も年収も上がっていく世界。
つまり受講生を増やすためには、「『また会いたい』と思わせる話し方」のスキルが大きな意味を持つということです。
しかし当然ながら、それは予備校講師の仕事だけに限った話ではないはずです。どのような仕事であったとしても、「話し方」は大きな意味を持つということ。
そこで本書において著者は、自身が研究と現場での実践を通じて磨きをかけた「話し方」を紹介しているのです。
きょうはそのなかから、基本的な考え方を明らかにした1章「土台としての信頼関係を築く3原則」に焦点を当ててみたいと思います。
根底にあるのは、「相手に信頼されなければ、なにを言っても伝わらない」という考え方。聞き手と話し手を結ぶ信頼関係が大切だということであり、意識しておきたい3つのポイントが紹介されています。
原則1:「聞き手」のニーズに興味・関心を持つ
私たちは誰かに話をする際、「話せば、伝わる」「話せば、相手は耳を傾け、理解してくれる」と考えてしまいがちです。
ところが、そう思い込んだまま、どれだけ熱心に語りかけたとしても、聞き手の心は動かないと著者は指摘しています。理由は簡単で、つまりは相手の「ニーズ」に合っていないから。
一方的な「おトクな話」「おもしろい話」「必要な情報」はどれも、話し手にとっての「おトク」「おもしろい」「必要」にすぎず、聞き手が求めているものかどうかはわからないわけです。
にもかかわらずぐいぐい語りかけたとしたら、敬遠されてしまったとしても無理はありません。
こうした行き違いを避けるために必要なことが、「『聞き手』のニーズに興味・関心を持つ」こと。
あなたがこれから話をしようとしている相手は、どんな価値観を持ち、何を求めてこの場にいるのかについて解像度を上げながら推測していきます。
これが信頼を築くための1つ目の原則です。(38ページより)
聞き手の“話を聞く目的”をおろそかにし、一方的に話し手の価値観を押しつけてしまうと、「この人はわかってくれない」という印象を持たれる可能性があるということ。
だとすれば次回以降、どれだけ挽回しようとがんばって話したとしても、そのことばは相手の心に届くことなく空回りしてしまうわけです。(36ページより)
原則2:「自分」をわかりやすく説明する
ところで聞き手と話し手を結ぶ信頼関係は、なぜ重要なのでしょうか? 著者によればそれは、「なにを言われたか」ではなく、「“誰に”なにを言われたか」が重視されるから。
聞き手となったとき、誰もが無意識のうちに「どんな人が話しているのか」によって話の価値を判断しているということです。
特に初対面の相手から話を聞く際、聞き手は「この人は誰なんだろう?」「どんな人なんだろう?」という疑問や不安を感じているもの。だとすれば、聞き手の感じている不安と警戒を取り除き、話を聞く体勢を整えてもらうことが必要になってくるはず。
そこで著者は、「話し手である自分がどんな人なのか」を聞き手に対してコンパクトでわかりやすく伝えるためのポイントとして、次の2つを挙げています。
①キャラクター(人間性)
→ あなたの人間性であり、あなたが信頼に足る人物かどうかのアピールになる
②コンテンツ
→ 知識やスキルに直接ひもづくものであり、あなたの話が聞き手にとってどんな「トク」になるのかを伝える役割を担う
(51ページより)
大切なのは、誰かに話をする前に付け焼き刃で準備するのではなく、事前にこれら2つのポイントを抑えた自己紹介文をつくっておくこと。
具体的には、箇条書きでもOKなので、300〜1000文字の自己紹介文をまとめておくといいのだそう。
そうすれば、実際に話し手となったとき、聞き手や状況に合わせて自己紹介にまとめなおすことができるからです。(49ページより)
原則3:「聞き手」と「自分」の間に架け橋をかける
これは、聞き手の心との間に「誠実さ」という架け橋をかけていく作業。聞く準備を整えてもらう仕上げのステップであり、目指すのは「この人の話に嘘はなさそう」というような印象を抱いてもらうこと。
そして「誠実さ」を伝えるには、3つのポイントが重要な意味を持つようです。
●話し手の「誠実さ」が伝わる3つの要素
①事実を伝える
→ 数字や固有名詞、情報源を明らかにする。憶測は憶測であることを示す
②相手にとってのデメリットやリスクを考える
→ 耳の痛い不利(デメリット、リスク、コスト)を隠さずに伝える
③逃げない
→ どんな場面でも、真摯にコミュニケーションを取る
(65ページより)
この3つは「誠実さ」を伝えるための重要な心構えであり、これらを成り立たせるための前提条件は、話し手自身が聞き手を信用し、本心を話すこと。
こちらが「自分は本心から話しているのだ」という意識を持ち、聞き手と向き合うこと、それが「誠実さ」を感じ取ってもらう第一歩になるという考え方です。(64ページより)
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先にも触れたとおり、本書に書かれているコミュニケーションの手法は、著者が予備校講師を続けるなかで身につけ、その後もさまざまなビジネスシーンで実践したものばかり。
それは、多くのビジネスパーソンにとっての武器、そして自身の本来の価値を100%伝えるための技術でもあるそうです。スキルアップを目指すためにも、参考にしてみてはいかがでしょうか?
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Source: 朝日新聞出版
Photo: 印南敦史
印南敦史