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ダ・ヴィンチの好奇心ノートに学ぶ「知覚力」の重要性と磨き方

ダ・ヴィンチの好奇心ノートに学ぶ「知覚力」の重要性と磨き方
Photo: 印南敦史

知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(神田房枝 著、ダイヤモンド社)の著者は、法人教育コンサルタント/美術史学者。

ニューヨーク・メトロポリタン美術館でキュレーターアシスタントを務めたのち、ハーバード大学ポストドクトラルフェロー、ボストン大学講師を経て、ボストン美術館研究員になったという人物です。

そうした実績を軸として本書で訴えかけているのは、「知覚(perception)の重要性。先の見えない時代において、思考は本来の力を発揮できなくなるもの。

そこで、思考の前提となる認知、すなわち知覚がものをいうのです。

知覚とは、眼の前の情報を受け入れ、独自の解釈を加えるプロセスーー。 あらゆる知的生産の“最上流”には、知覚があります。

「どこに眼を向けて、何を感じるのか?」 「感じ取った事実をどう解釈するのか?」 すべては、この“初動”に大きく左右されます。

「思考力」だけで帳尻を合わせられる時代は、もはや終わろうとしています。 いま、真っ先に磨くべきは、「思考“以前”の力=知覚力」なのです。 (3ページより)

本書の目的は、「眼」と「脳」の能力を引き出す絵画観察トレーニングや、その背景にある考え方を通じ、知覚力を磨く方法を伝えること。

著者はそれを、「絵画を観察するように世界を見る技法」と名づけているそうです。

「わざわざ絵画を観察する必要があるのだろうか?」と感じる方もいらっしゃるでしょうが、まずは絵画という「フレームで区切られた小宇宙空間」のなかで観察技法を身につけると、学習効率が高まるというのです。

絵を対象に「眼のつけどころ」を磨いていけば、観る対象がどれだけ変ろうとも、みなさんの脳は「固定観念・認知バイアス・情報過多」から解き放たれ、これまでにない視点で世界を知覚できるようになっていきます。

知覚力が高まった結果、仕事や日常生活のあらゆる知的生産プロセスが加速するのも、同時に実感していただけるはずです。(19ページより)

そんな本書の第2章「観察する眼――知覚力の源泉」のなかから、きょうはレオナルド・ダ・ヴィンチに関するトピックを抜き出してみたいと思います。

「独学者ダ・ヴィンチ」は、なぜ業績を残せたのか?

ルーブル美術館に所蔵されている《モナ・リザ》で知られるダ・ヴィンチは、非凡な画才に恵まれていたにもかかわらず専業画家に収まらず、建築。発明・エンジニアリング。医学などへの貢献者としての実績を残しました。

アーティストとしてだけでなく、サイエンティストとしても歴史的な構成機を積み上げていったわけですが、彼は基本的な読み書きと算術以外には、当時の学校教育を受けていませんでした。

そんなこともあり、近年のイノベーション需要の高まりのなかで、「なぜダ・ヴィンチは独学だけで、今日にまで影響力を持つ創造を成し遂げられたのか?」に注目が集まっているというのです。(70ページより)

『手稿』から見えてくる「知覚重視」の痕跡

そして、そんな疑問を解き明かしてくれるのが、ダ・ヴィンチの『手稿(ノートブックス)』。

1994年11月、現存する21の手稿(約4100シートと断片)のうちのひとつ「レスター手稿」(1506-08年ごろ、1510-12年ごろ)が、ビル・ゲイツによって3080万ドル(当時の円換算で手数料を含み約30億320万円)で落札され、大きな話題を呼びました。

この手稿は、26歳から67歳ごろまでの間にダ・ヴィンチが記したもの。

テーマはアートからサイエンスまでの幅広い分野におよび、日常生活や研究、旅行で観たこと・考えたことが素描やドローイングを交えてこと細かにメモされているそうです。

その趣向を分析すると、「ダ・ヴィンチが知覚を重視していた可能性については疑う余地がないといっても過言ではない」と著者。

なぜなら彼のノートには、

  1. 知識を増やす
  2. 他者の知覚を取り入れる
  3. 知覚の根拠を問う
  4. 見る/観る方法を変える

という「知覚を磨く4つの方策」すべてを実践していた痕跡が見られるから。

よく知られているようにダ・ヴィンチは、多くの分野を横断しつつ、多彩な知識を集めています。

アートから越境し、人体解剖学・光学・植物学・流体力学・地質学・建築学・地形学・数学などを学び、知覚の領域を広げているわけです。

また各方面の専門家たちと交流しながら彼らの知覚を尊重し、それらを積極的に取り入れ、なかなか得られない希少性の高い知覚は、書物で補っていたそう。

晩年までに、彼の蔵書には、動物学・宗教学・天文学・哲学・歴史・文学・数学・医学・物理学・農学などの多彩なジャンルの書物が200冊以上含まれていたといいます。

少なく感じるかもしれませんが、書斎に30冊の本を所蔵するのが珍しかった当時にしてみれば、これは圧倒的な蔵書数だと著者。

そればかりか手稿を確認すると、そこには好奇心に満ちたダ・ヴィンチの問いが散りばめられているのだそうです。

「なぜある星は、ほかの星よりもキラキラしているのだろうか?」

「なぜ眠っているときに見る夢のほうが、起きて見る空想よりも鮮明なのだろうか?」

(74ページより)

こうした純粋な疑問こそが、ダ・ヴィンチの知覚の源泉なのでしょう。(72ページより)

「よく観ること」への異常なこだわり

しかし、ダ・ヴィンチが最も重視したのは4つ目の方策。

つまり彼は、脳に間接的に働きかけるよりもむしろ、見る・観る方法を変えることによって知覚を磨いたというわけです。

ダ・ヴィンチ流の見る/観る方法――それをひと言で表現するなら「観察」です。ダ・ヴィンチは、「観察」モードに切り替えた人間の目に底知れない潜在力があることを、はっきりと自覚していました。(75ページより)

ダ・ヴィンチが「観察=よく観ること」に高い価値を見出していたのは、手軽で応用性が高いからだろうと著者は推測しています。

目が覚めてさえいれば、いつでも「よく観ること」は可能で、自分自身の目以外にはなにもリソースが必要ないわけです。

彼自身も「コンスタントに観察して、書き留めて、考えることは役立つ」と語っていたそうで、実際、外出するときは常にベルトから紙をぶら下げ、いつでも世界を克明に観察しようと備えていたといいます。

対象を集中的に観察することで、「見えないものを観る力」が高まるのだと著者は記しています。オカルトやスピリチュアルな意味ではなく、「眼では見えないものを脳で見る」ということ。

本書ではそんな脳で観る機能を「マインドアイ」と、そこで観られる像を「メンタルイメージ」と呼んでいます。

ただ受動的に観るのではなく、好奇心に導かれて視覚的刺激を集中的、能動的に受容しながら、脳を最大限に活性化させるーー。

そういった「観察」という行為はマインドアイ、すなわち「アイデアを観る眼」の機能を高め、知的生産を強力に後押ししてくれるというのです。つまりダ・ヴィンチは、それを理解していたということです。

たとえばこのように、本書では知覚力を高め、それを生かすために役立つ知見が凝縮されています。ビジネスの質を高めるため、また、視野を広げるためにも役立つ良書だといえます。

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Source: ダイヤモンド社

Photo: 印南敦史

印南敦史

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