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自分がどんな人間なのかを知る。ホーキング博士から学ぶ2つの考え

自分がどんな人間なのかを知る。ホーキング博士から学ぶ2つの考え
Photo: 印南敦史

ご存じのとおり、『宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する』(若田光一 著、日本実業出版社)の著者は宇宙飛行士として、有人宇宙活動の現場での仕事に従事している人物。

本書の冒頭では、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中だった2014年に、地上にいる理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士と対話をしたときのことを回想しています。

英国BBCの企画によるもので、強く印象に残っているというのです。

番組の収録中、私は国際宇宙ステーションに滞在していたのですが、そこは窓の外をのぞけば、眼下に青い地球が浮かび、宇宙の闇に抱かれている場所です。

ホーキング博士が半生を費やしても、未だ解明できない多くの謎に包まれている宇宙。その宇宙空間の片隅で、今自分が漂い、ホーキング博士と対話していることに、不思議な縁を感じました。

(「はじめに」より)

そんな貴重な経験に基づく本書は、「ホーキング博士と対話の続きをしてみたい」という思いを形にしたもの。

2018年に76歳で逝去したホーキング博士が遺した数々の名言を手がかりに、そのメッセージから著者が感じたままの想いや考えを、宇宙飛行士としての経験に基づいてかかれているのです。

たとえるなら、「ホーキング博士の脳内の宇宙を、私が宇宙旅行した」と言えるかもしれません。(「はじめに」より)

きょうは第4章「人生についての対話」のなかから、2つのことばを抜き出してみることにしましょう。

なにをするかが肝心

どの学校を出たか、 誰と付き合いがあるかは関係ない。 何をするかが肝心だ。(『3分でわかるホーキング』より)

学歴や地位など、いわゆる“社会的ステータス”のようなもの以上に重要なのは、「いま、そして将来、なにができるか、どんな能力を発揮できるか」ということ。

ホーキング博士が言っている「何をするかが肝心」という点は、私たち一人ひとりに対して、常に問われていることであるように感じると著者は記しています。

社会的なステータスは、自分以外の第三者による評価の対象となる、名刺代わりの情報。自分が置かれた状況や、自分が持つネットワークなどは、当然のことながら自らが実現する価値創造に一定の影響を与えることでしょう。

しかしホーキング博士は、自分を取り巻く「殻」にとらわれることなく、その殻を打ち破って物事を成し遂げるために挑戦することの大切さを伝えようとしているのだといいます。(96〜97ページより)

できることに集中する

人生はできることに集中することであり、 できないことを悔やむことではない。(オフィシャル・ウェブサイトより)

ホーキング博士がALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されたのは、ケンブリッジ大学の大学院生だったとき。

当時、ALSは発症してから5年程度で死に至る病気と考えられていたといいます。人生これからという時期に悲劇に見舞われたのですから、悲しみや絶望感は想像に難くありません。

しかしその一方、ホーキング博士は当時の心境について、

未来には暗雲が立ち込めていたが、驚くことに以前より人生を楽しめるようになり、研究も進むようになった。(『3分でわかるホーキング』より)

と振り返っているのだそうです。

事実、ALSと診断された2年後に結婚し、子どもができて家庭を持ち、やがてケンブリッジ大学の教授にもなっています。

そして「車椅子の物理学者」として広く知られるようになり、2018年に亡くなるまで50年以上の研究活動を続けてきたわけです。

難病と闘いながら生き抜いた人生ではあったものの、研究者としての目ざましい活躍を考えると、驚くべき展開に転じた大逆転の人生だったとも考えられます。

そんなホーキング博士の功績には、2つの重要な点があると著者は考えているそうです。

1つ目は、誰もが認めるサイエンティストとしての大きな研究成果と影響力。そして2つ目は、難病のALSというハンディキャップを克服し、見事に人生を好転させる偉大な実例を残したという点。

もちろん、病気が大きなハンディキャップとして博士の人生のさまざまな場面で立ち塞がったであろうことは間違いありません。当然ながら、筆舌に尽くしがたい苦労や悲しみも強いられたことでしょう。

しかしホーキング博士が素晴らしいのは、普通の人間であれば希望も勇気も喪失せざるを得ないような状況において、悲劇の部分にだけ自分の心を置かなかったこと。

事実、次のようなことばも残しているそうです。

「不運にも運動神経系の疾患にかかってしまったが、それ以外はほとんどすべての面で幸運だったーーとくに理論物理学を学んだのは幸運だった。

理論はすべて頭の中のことだからだ。おかげで病気は深刻なハンディキャップになっていない」(『ホーキングInc.』より) (100ページより)

たしかに、宇宙の謎や成り立ちについて脳内で想像を巡らせることは、ALSになんの影響も与えません。

しかも結果的にホーキング博士は、自分に残されている力と可能性を信じ、見事に成果へとつなげ、偉大な科学者としての人生を開拓したわけです。

もちろん、ホーキング博士に科学を探究するための類稀なる資質があったことは間違いないでしょう。

しかし、それ以上に大きな意味を持つのは、逆境のなかにあっても自分の可能性を信じる強靭なメンタリティ。それこそが、重要な「才能」であったと考えることもできるのです。

私たちはしばしば、自分ができない物事について悔やみ、自分にないものを欲し、他人にそれを見つけてはうらやむものです。自分に足りないものについては敏感なのに、手の届くところにある幸運には鈍感だったりするということ。

でも結局のところ、ひとりひとりを取り巻く状況や才能は千差万別。

すべてにおいて“人それぞれ”だということですが、それは必ずしも不幸なことではないはず。各人が持っている種はそれぞれ異なり、花を咲かせる方法も道筋もまた千差万別なのです。

ひとつだけ共通するポイントがあるとすれば、「自分がどういう人間なのか」を知り、自分の才能を伸ばす方法を見つけ出し、それを信じて徹底的に努力すること。

たとえ逆境のなかにあったとしても、それこそが自分の人生を輝かせる生き方だということです。ホーキング博士がそうであったように。(98〜99ページより)

このように、ホーキング博士のことばに著者が解説を加えたシンプルな構成。1テーマが数ページでまとめられているので、どこからでも読むことが可能。

ぱらっとページをめくってみれば、思いがけないことばや知見と出会えるかもしれません。

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Source: 日本実業出版社

Photo: 印南敦史

印南敦史

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