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ニューノーマル時代の生活に、メタバースやバーチャル空間はどう変化するのか

ニューノーマル時代の生活に、メタバースやバーチャル空間はどう変化するのか
Photo: KOBA

withコロナによって、誰もが意識せざるを得なくなったニューノーマル。リモートでの働き方や人との接し方、スポーツやエンターテインメントのあり方など、全ての分野で新しい日常が模索されています。

そんななか、注目を集めているのが「バーチャル渋谷」。バーチャル空間に渋谷の街を再現。イベントを実施したり、実際の渋谷とリンクしたコンテンツを楽しんだりすることができます。

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Image: 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

この「バーチャル渋谷」を推し進めるのが三浦伊知郎さん。新卒でNTTに入社。その後、世界規模の広告・マーケティング企業であるOgilvy and Mather、ファッションブランド、DIESEL JAPANの広報宣伝室マネージャーを経て、PRコンサルティング会社を起業。2017年からKDDIの革新担当部長を務めています。

三浦さんは「バーチャル空間が進化すれば、自ずと個の力が重要になる」と語ります。今回は、バーチャル渋谷の目的やニューノーマル時代におけるバーチャル空間のあり方や進化について、三浦さんの見解をお聞きしました。

公共性を持つ「バーチャル渋谷」は、これまでのバーチャル空間と決定的に異なる

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Photo: KOBA

——「革新担当部長」とは、ユニークな役職名ですね。どういったミッションを担っているのですか?

三浦:革新担当部長の肩書きをもつ人間は、私だけではありません。基本的には、特定の分野に優れたスペシャリストが任命される役職です。ユニークなのは、KDDIの社員ではなく、外部人材を有期雇用すること。ミッションは、新しい事業や企画の立ち上げです。

僕の場合、イベントの事業化とそこに付随するマーケティングです。DIESEL JAPANに在籍していたころは、幕張メッセを借り切って1万人規模のフェスを開催していたので、イベントを創り出すのには慣れています。

——三浦さんは、革新担当部長に就任して以来、電子音楽 × デジタルアートの祭典「MUTEK.JP」やxR(VR・AR・MRなど全ての仮想空間技術の総称)で楽しむことができるアート展「INVISIBLE ART IN PUBLIC」を開催したり、音のARサービス「Audio Scape by au」でColdplayの新曲を渋谷の街に響かせたり、さまざまなイベントを手掛けています。

三浦:これらは、2019年9月から始まった「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」で実施しました。手掛けたイベントは、3カ月で7つにも及びます。この「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」は、2020年3月には、「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」へと発展しました。

——大元である、「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」が立ち上がった経緯を教えて下さい。

三浦:KDDIと渋谷区の外郭団体である一般財団法人渋谷区観光協会、一般社団法人渋谷未来デザインの三者が共同で立ち上げました。一義的な目的は、5GやxRなどKDDIの技術を活用しながら、渋谷区が推進する創造文化都市事業へ貢献することです。

さらに突き詰めれば、渋谷区が抱える困りごとも解決していきます。例えば、渋谷は人が集まるわりには、お金を落としていく人が少ない。ハロウィンは、その最たる例です。人が集まると、ごみの処理や警備などさまざまなコストが発生します。そのコストを区民税だけで賄うのは、税負担の公平性から納得がいかない区民もいるでしょう。

そこで、渋谷でさまざまな文化的イベントを開催し、集まった人を上手く周遊させて街でお金を使ってもらう。そういった現実的なマネタイズも、ミッションのひとつです。

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Image: 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

——4月には「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」の主催で、攻殻機動隊とコラボしたイベントを実施する予定だったそうですね。

三浦:はい。Netflixで「攻殻機動隊 SAC_2045」が独占配信されるタイミングで、リアルな渋谷の街と攻殻機動隊の世界が合成される拡張体験を予定していました。しかし、ご存じの通りコロナによる自粛で、リアルでの開催は頓挫。

そこで生まれたアイデアが、「バーチャル渋谷」です。バーチャル空間に渋谷の街を再現することで、自宅に居ながらにして街歩きをしたり、様々なイベントに参加できたりします。この「バーチャル渋谷」のなかで、攻殻機動隊のイベントを開催しました。

——「バーチャル渋谷」の概要を教えていただけますか。

三浦:ざっくり言うと、二つの機能があります。ひとつは、自宅などに居ながらにして、アバターを通じて、バーチャルイベント会場で開催されるさまざまなオンラインイベントに参加すること。

もうひとつは、将来的に、アバターでバーチャル渋谷を歩き回りながら、さまざまなxRコンテンツを楽しみつつ、リアルな渋谷とバーチャルがつながっていくことです。逆もあって、リアルな渋谷にいながら、バーチャルの世界に入っていくこともあります。

——自粛期間にヒットした「あつまれ どうぶつの森」なども、ある意味ではバーチャル空間です。古くは、「セカンドライフ」などもありました。「バーチャル渋谷」の特徴は、どこにあるのでしょうか。

三浦:渋谷区という、れっきとした自治体が公認しており、公共性があるということです。区の公認だからこそ、安心してビジネスもできます。いずれ、バーチャル渋谷とリアル渋谷はシームレスにつながるはず。つまり、リアル空間でのビジネスと同じ可能性が、バーチャル空間にも生まれるわけです。

渋谷区の公認なので、将来的には、行政サービスとの連携も可能になるでしょう。この仕組みを活かせば、バーチャル大阪や福岡、それどころか、バーチャルパリやロンドンも展開できます。新しい概念のビジネスモデルとして、渋谷区がほかの自治体に売り込めば、面白いことが起きそうです。

「バーチャル渋谷」に参加することで、自分自身と向き合って欲しい

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Photo: KOBA

三浦:今話したのは、ビジネス的な視点から見た、「バーチャル渋谷」のメリット。実は、どうしても実現させたかったもうひとつの理由があります。

——それはなんでしょうか。

三浦:コロナ渦における今、公共性がある「バーチャル渋谷」を提供することで、一人ひとりが自分自身を考えるきっかけになればいいと考えたのです。

バーチャル空間では、自分自身の分身となるアバターで行動します。リアルの自分に忠実でもいいし、全く異なった理想の自分でもいい。どんなアバターにするのかを決めるときには、ある意味、自分と向き合うことになります。

また、アバターの行動は、本当に自分がやりたいことにも通じるでしょう。もし、作ったアバターやそのアバターの行動が、リアルの自分と乖離していればしているほど、自らに満足していないかもしれないことに気づかされると思います。

意識が高い人は、禅や瞑想で自分と向き合っています。ただ、大多数の人は、そこまで行き着きません。アバターの場合は、もう少し手軽に自分と向き合い、本当にやりたいことを見つけることができるのではないでしょうか。

これがゲームだと、今度は軽く考えすぎる。それが、自治体が公認した公共性のある空間だと、みんな真剣に考えてアバターをつくるはず。「バーチャル渋谷」は、そういったことを考える空間にしたかったのです。少し哲学的ですけどね。

——「バーチャル渋谷」に参加することで、本当の自分と向き合って、やりたいことを見つけて欲しいと考えているわけですね。

三浦:そうです。本当の自分を知り、やりたいことを見つけるのは、「個」(=アナログな人間力)を磨くことにつながります。これからの時代を生き抜いて、後悔のない人生を送るには、この「個」が重要になってくる。

勘違いして欲しくないのは、バーチャル空間でアバターを作るだけで、個が磨かれる訳ではないということ。バーチャル空間は、あくまでツールであり、きっかけに過ぎません。逆説的かもしれませんが、バーチャルやデジタルが進むほど、リアルなコミュニケーションや体験が重要になってきます。

結局最後は、直接会ってコミュニケーションを取りたくなるのです。なぜなら、それが人間の本能だから。直接的なコミュニケーションによって、人類は繁殖し、進化してきたのです。

では、リアルで個を磨くには、どうすればいいのでしょうか。個は、コミュニケーションによって磨かれます。恋愛や飲み会など、生のコミュニケーションならなんでもいい。僕の場合は、旅と転職でした。世界60カ国を巡ったり、複数の企業に勤めたりすることでさまざまな経験を積み、その経験が人間力につながった。

人間力があれば、他者との関係も上手くいき、そこには信頼が生まれます。今はコロナ禍で難しいのですが、終息したら是非、世界を旅してみて下さい。異文化に触れ、さまざまな経験をすれば、確実にコミュニケーション力が上がります。

「個」を磨く人が増えれば、日本の働き方や組織は変わる

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Photo: KOBA

——多くの人が「個」を磨くことで、組織のあり方や働き方も大きく変わるような気がします。

三浦:まず、組織では、平社員・課長・部長といった、従来のピラミッド型はなくなるでしょう。その形にこだわる会社には、未来はありません。例えば、僕が今やっている「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」は、個が磨かれたメンバーが集まっています。部署に縛られておらず、上下関係はありません。

今後、組織の縦割りを超えて、複数の組織を横断するフラット型のプロジェクトは確実に増えてきます。そのときに生き残るのは、個の力で縦横無尽に動ける人間。もっと厳しいことを言えば、個の力が足りず、ピラミッド型組織で指示を待ち、言われることを考えずにこなす会社員は不要になるはずです。

逆に言えば、能力があれば、ひとつの会社にさえ固執することはありません。個と組織は対等な関係になるはずです。すると、雇用形態も変わるし、雇用流動性も高まる。日本の活性化につながります。

——組織との関係や働き方が大きく変わるなか、若手はどういったことに意識を向けるべきですか。

三浦:若いうちは、興味ある仕事に熱中することでしょう。営業が好きなら営業を、マーケティングが好きならマーケティングを追及すればいい。そして、そこで死ぬほど失敗すること。失敗からは、大きな学びがあります。

20代は訓練中みたいなものです。そのなかで、師匠として尊敬できる、良き先輩、上司に出会えればラッキー。もし、自分に合わない会社だったり、尊敬できる先輩や上司が居なかったりしたら、次を探せばいい。

昔は「就職は会社と結婚するようなもの。一社と添い遂げる」という考えもあったかもしれませんが、僕は会社=彼女だと思っています。過去に遡れば、彼女は複数いる場合もあるかもしれないし、必ず結婚しなくてはいけないものでもないですからね。

自分の成長によっても、付き合う相手は変わるでしょう。会社も同じ、自分の成長や考えの変化によって変えていけばいいのです。

——今回は、バーチャル渋谷の取り組みや誕生のきっかけに始まり、バーチャルの進化と個の関わり方、そして、個によって変わる働き方など、話が多岐にわたりました。最後に、メタバース(仮想世界)やバーチャル空間の未来について、どのように進化していくかお聞かせください。

三浦:そもそも、バーチャルとリアルを分けるべきではないと思っています。例えば、デジタルとリアル。これは、もはや垣根がありません。SuicaやPASMOで電車に乗り、Spotifyを聴きながら通勤する。生活のなかに当たり前にデジタルが入り込んでいます。

バーチャルという言葉は、まだまだ新しいのでリアルと分けられているだけ。4GでYouTubeやInstagramなどが日常になったように、5Gやメガネ型のスマートグラスが普及すれば、おそらくバーチャルも日常生活に溶け込んでいくでしょう。

いずれは、写真や動画を見る感覚で、パリのカフェでお茶をしている疑似体験ができるようになるはず。要は、脳に錯覚を起こさせればいいので、視覚や聴覚だけで無く、嗅覚や触覚、味覚も再現できるかもしれません。

しかし、やっぱりそこはパリじゃなんです。究極的に違うのは、人と人との関係。実際にパリにいる人と会いたいという欲求が出てくるんですね。会ってコミュニケーションを取りたいと思うのは人としての本能で、バーチャルにおける永遠の課題。そこに、ビジネスとしての鍵があると思っています。


Source: 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

Photo: KOBA

Image: 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

(林田孝司)

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