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HOW I WORK

仕事で大切なことは、早いレスポンスとオーバーコミュニケート。アドビ神谷知信さんの仕事術

仕事で大切なことは、早いレスポンスとオーバーコミュニケート。アドビ神谷知信さんの仕事術
写真提供:アドビ株式会社

敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回は、アドビ株式会社 デジタルメディア事業統括本部 統括本部長 専務執行役員の神谷知信さんにお話を伺いました。

神谷さんは、2014年にアドビシステムズ(現アドビ)に入社。それまで日本ではパッケージ販売が主流だった「Photoshop」や「Illustrator」などのサブスクリプションサービス「Adobe Creative Cloud」の普及に尽力しました。

現在は、新型コロナウイルスの影響で業務のデジタル化が進み、需要が加速している電子サインサービス「Adobe Sign」の拡販や、多くの人が自己表現を楽しむことができるモバイル向けのアプリケーション開発などに取り組んでいます。

ひとりひとりが創造性を発揮できるような社会を目指したい

ーーご経歴について教えてください。

青山学院大学法学部国際私法学科を卒業後、最初に入った会社がドイツに本社を構えるBOSCHでした。

そこでルート営業をしていましたが、その後、転職し、複数の大手外資系企業でアジア事業やグローバルセールスの統括、国内のマーケティングなどを率いた後、2014年10月にアドビに入社しました。

ーー現在のメインのお仕事は?

アドビの事業は「デジタルメディア事業」と「デジタルエクスペリエンス事業」の2つがあるのですが、現在、「Adobe Creative Cloud」や「Adobe Document Cloud」 からなる「デジタルメディア事業」の日本の責任者として、国内製品や販売戦略、その方向性を統括しています。

「Adobe Creative Cloud」には、「Photoshop」や「Illustrator」、動画編集ができる「Premiere Pro」などのアプリケーションがありますが、それらはこれまでプロが使うイメージがありました。

しかし、今ではYouTubeやTik Tokなどのソーシャルメディアが拡大し、自己表現をする機会が増えているので、1人でも多くの人が「Adobe Creative Cloud」のアプリケーションを使って創造性を発揮できるような社会を目指しています

最近リリースしたのは、無料のカメラアプリ「Adobe Photoshop Camera」です。

今までのカメラアプリは写真を撮った後に画像を編集していましたが、「Photoshop Camera」は人工知能が撮るシチュエーションを瞬時認識して、テーマに合わせて自動的に写真編集がされます

ビリー・アイリッシュなどのアーティストやインフルエンサーが選んだ、さまざまな効果のレンズやエフェクトのライブラリが搭載されていますので、ぜひ使ってみてください。

「デジタルメディア事業」が手がけているもうひとつのクラウドサービス「Adobe Document Cloud」では、特に力を入れていることが2つあります。

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Image: Adobe

1つ目が「電子サイン」です。

アドビが実施したテレワーク調査では、テレワーク経験者の実に約65%が「捺印やサイン、書類の確認」などで出社したことがあると回答しました。

新型コロナウイルスの中、捺印のために出社を余儀なくされた人は問題になりましたよね。

それを電子化し、承認のサインまでしてしまおうというのが電子サインの世界ですが、アドビは「Adobe Sign」という電子サインサービスを展開し、その拡販を進めています。

2つ目が、モバイルでドキュメントをどこでも簡単に見て編集できる世界にするということです。

例えば、Adobe Acrobatは今まではデスクトップユーザーが多いアプリケーションになっていました。でも今は「モバイルでもPDFで作業をしたい」という声が多いので、その強化を行っています。

今後もこうしたモバイル系アプリに力を入れ、新しいユーザー層を獲得していきたいと考えています。

ーー「Adobe Sign」はどのような場面で活用されているのでしょうか?

アドビでは、数年前から大半の承認フローが「Adobe Sign」になっています

また、数年前までは不動産や弁護士など、限られた業種からの引き合いが多かったのですが、今は業種問わず利用が増えていますね。

人事の採用に関する契約書まわりの問い合わせや、最近多いのは広告業界の「入稿データの電子化」です。

クリエイティブ業界では入稿データを何度も印刷しクライアントに見せて、修正して、またそれをクライアントに戻して…というやりとりがあり、途中経過の紙データをすべて保存しておく必要があります。

そのワークフローをデジタル化して、チェックプロセスも電子化するという引き合いも増えています。

仕事を進める上で重要なことは「レスポンスの早さ」

ーー仕事の1日のスケジュールを教えてください。

週頭の月曜日は売り上げ報告や、マネジメントチームが前週にどのようなことを行ったか、今後どうするかなどの会議を行います。

火曜日以降は連日、US本社と朝早い時間から会議が続きます。

「デジタルメディア事業」は「Photoshop」や「Adobe Sign」など幅広く展開している上に、ユーザーも小学生から大手企業・官公庁まで多岐にわたるため、特性が異なるマーケットに合わせたトピックスの打ち合わせが増えている状態です。

特にコロナ禍以降、リモートワークになってからは朝7時〜18時頃までびっしりミーティングが入っていることが多いので、昼間はミーティングを入れないとか、午前中はメールチェックのために1時間ほど空きを作るなどアシスタントと密に調整しています。

それから、事業の幅を考えると私1人では仕事をまわせないので、どうやって部下の能力を引き出すかも重要になっています。そのため、1日の多くを部下やチームメンバーと会話する時間を取るようにしています。これがなかなか難しいんですけどね。

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写真提供:アドビ株式会社

ーーコロナ以前・以後で働き方に変化はありましたか?

アドビは職種によって働き方が違うため、営業職は直行直帰になることも多く、コアタイムが採用されています。

月曜は全メンバーが出社して打ち合わせを行っていたのですが、コロナ以降はそれが全てバーチャルに変わりました。お客様との打ち合わせも、原則すべてバーチャルで行ってます。

それから、今まで年間に8〜10回くらいあったUS出張がなくなりましたね。

ーー仕事を効率的に進行するための仕事道具、ツールを教えてください。

「これ!」というものが特にないのですが、強いて言うならスマホですね。

デジタル化が進み、マーケットが劇的に動く今、メールでもメッセンジャーでもレスポンスが遅いのは仕事をする上で話にならないと思っています。

海外を含めたメンバーとやりとりする上で意識しているのは、とにかくレスポンスを早くすること。そういう意味で、スマホを使う頻度が高めです。

何か特別なアプリを使っているわけではないですが、意識的にレスポンスを早くして、特別な回答がなくてもとりあえずレスポンスだけはするようにしています。

アドビでは基本的なコミュニケーションツールとして「Outlook」を使うことが多いですね。

また、特にこういう状況になってプロジェクトベースで動かさなくてはいけない場合、「Teams」などを使うケースもあります。

ーーアドビ製品の中で、知られていないような小技があれば教えてください。

たとえば「Photoshop」ひとつとっても、分厚いマニュアル本が出版されるくらいですから、小技や裏技はいっぱいあるんです。

もともとアドビ製品はプロユーザーが多く、彼らの声を聞きながらアプリ開発を進めてきました。でも今はプロ以外の人にも使ってもらおうと、そのハードルをいかに下げるかに力を入れています。

「Photoshop」の切り抜き機能でいうと、昔は細かい作業が必要でしたが、今はAIを使ってワンボタンで完了するなど、初心者でも使いやすくなっているんです。

今の流れとしては、特に若いモバイル世代に向けて、新しいモバイルアプリを開発してローンチしているのが実情です。

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Image: Adobe

例えば、iPadやiPhone向けに作り込んだアプリ「Adobe Premiere Rush」というビデオ編集ツールは、「Adobe Premiere Pro」というプロ用のアプリをものすごくシンプルにしたものですが、それを使うと「結婚式の動画を作りたい!」というとき、「Adobe Stock」にある動画用のテンプレート素材をダウンロードして、自分の動画にはめこむだけで、それなりに良いものができちゃうんですよ。

「Photoshop」も昨年、iPad版を出したんですが、プロからするとこれは「Photoshop」じゃないという意見もあって…一方でプロじゃない人からすると使いやすい!と、評価が高いんですね。

プロも初心者も、両方のニーズに対応していきたいので、“誰でも使えるアプリ”が今後のキーテーマになります

ハイインパクトのものに時間を使うことが重要

ーーToDo、スケジュール管理の方法を教えてください。

基本的にはアシスタントにサポートしてもらい、自分がどうしても空けておきたい時間やミーティングなどの時間は調整しています。

ToDo、スケジュールなどは全てOutlookで管理しているので、自分でチェックして調整することもあります。

もともと、あまり仕事を複雑にしたくないというか、できるだけシンプルにしたいので、スケジュール管理などに使うツールも、極力最小限にしているんです。

ーー仕事において、役に立った本があれば教えてください。

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写真提供:アドビ株式会社

MULTIPLIERS メンバーの才能を開花させる技法」(リズ・ワイズマン 著、 グレッグ・マキューンほか)です。

2年ほど前にエグゼクティブコーチングをやったり、スタンフォードにも勉強しに行ったりしていました。

ビジネスの共通テーマは、「チームメンバーの能力を最大限に発揮できるか」。そこに限るのですが、この本のタイトル「MULTIPLIERS」という言葉通り、どうやって力のある人をMULTIPLYできるか、この本を読むと参考になります。

僕の部下、メンターしている人、全員にこの本を読むように伝えています。日本のビジネスシーンにありがちなこととして、責任のある人が会議に出ると、みんな黙っちゃうんですよね。

そうなるとインタラクティブにならなくて、ただの報告会になってしまう。どう活発に議論を引き出すかなども、TIPSとして書かれています。

以前、自分のスケジュールを見直したとき、僕が出なくてもいいミーティングがたくさんあったので、そういうミーティングを極力減らす、部下にまかせる体制を作ろうと思うようになりました。

そういう意味では、どうやって部下のリーダーシップを育てるかという点で非常に役に立つ本です。

ちなみにこの本は、可能であれば英語版を読むことをおすすめします。

ーー神谷さんは幅広い業務を抱えていらっしゃいますが、頭の整理はどのようにしているのでしょうか?

色々なことが起きる中、おさえておかないといけないものは100あったら10くらい。その中でも、ハイインパクトのものに時間を使うことが重要だと考えています。

全てを見ることはできないので、ハイインパクトのものにチェックポイントを設けて、見ていくことが非常に重要だと思います。

コミュニケーションは多くて構わない。「オーバーコミュニケート」という意識

ーー「これ、自分だけでは?」という仕事方法や、仕事中に行っていることがあれば教えてください。

意識しているのは「オーバーコミュニケート」。コミュニケーションは多くて構わないと思っているんです。

例えば、10を言っても、伝わることは 2~3つ程度なので、なんでもオーバーコミュニケートするようにしています。

特にアドビや外資系で成功する上で非常に重要だと思います。

日本で起こっているさまざまな課題をオーバーコミュニケートしていかないと、どうしても日本よりも市場の大きいアメリカやヨーロッパの状況が優先されてしまうんです。

ツールに課題を抱えている日本のお客様のことを考えると、我々がオーバーコミュニケートすることが非常に重要なのです。

あとは、レスポンスを早くすること。誰かのレスポンス不足でビジネスが止まってしまう…ということはよくあるので、早く動くように意識しています。

それから、弊社は特にクリエイティブツールの裏技など、社員よりお客様の方がよく知っていることが多いので、お客様の声を聞くことは非常に意識しています。

直接お客様を訪問することも多いですし(今はバーチャル)、日々カスタマーサービスにお客様から問い合わせがくるので、どういう問い合わせが来ているのか、意識的に聞くようにしています。

お客様の生の声を聞くことが重要だと思っているので、そこは意識的にしています。

部下とのコミュニケーションで大事なのは、逃げないこと

ーー仕事をする上でモチベーションが上がる瞬間を教えてください。

事業の責任者としては、日本の事業を成長させるのはモチベーションのひとつです。

あとは、お客様から誉められるとモチベーションが上がりますし、もちろん部下の業績が上がることも嬉しいです。

また、創造性のある社会を作ること、それを実現するのは全社員の思いなので、そこに対してのモチベーションは高いですね。アドビは教育事業も行なっていますが、将来の子供達がアドビのツールを使ってより創造的になると思うとモチベーションが上がります。

デジタルメディア事業に関わっている社員は皆、そういう思いで仕事していると思います。

ーーこれまでもらったアドバイスの中で、特に印象深いものを教えてください。

最初に入社したBOSCHの上司とのことは、非常に印象深いですね。

何かを言われたわけではないのですが、社会人としての常識をオープンに指導していただいたのが、今になって役立っている気がします。

BOSCHは、当時としては珍しく完全直行直帰型の会社で、リモートワークの先駆けのような会社でした。

入社した後に研修が1カ月くらいあって、その後に自宅に営業で使う車やカタログ、パソコンや分厚い携帯などが送られてきて、あとは自分で営業先を決めて回るスタイルだったので、毎日上司と電話で話していました。

コミュニケーションにおいて、お互いにオープンな関係を作ることが大事なので、その上司にはプライベートから仕事の悩みまで何でも話しました。そういう雰囲気を作ってくれていたんだなぁと思います。

当時はSNSもなかったので、嫌でも電話しないといけないですよね。だから、電話しやすい雰囲気を作ってくれたのかなと。

今思うと「オーバーコミュニケート」を大切にしているのは、その当時の経験が生きているのかもしれません。

リーダーは何かあったら間に入って解決してくれる安心感が大事ですよね。それがあって部下との信頼関係が築けると思うんです。

僕のように社会人1年目にいきなり車を渡されて営業に行って、その翌日に上司が謝りに行っている姿を見ると、必然的に部下は上司やリーダーを尊敬していくんだと思います。

逃げてしまう人って多いじゃないですか。その結果、対応が遅くなり、問題が大きくなって…ということが多々あるので、どうやってメンバーとオーバーコミュニケートして、どんなに小さい課題でも察知して早めに対応していくかが大切ですね。

そうすると、「この人ちゃんとこういうことをしてくれるんだな」という雰囲気になっていく。そんなことを最初の上司から学びました。

ーー今後チャレンジしてみたい「新しい働き方」があれば教えてください。

新型コロナウイルス以前からアドビはデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいますが、今後は特に紙や捺印主体のドキュメントワークフローを完全にデジタル化したいという思いが強くあります。

ビジネスは「この時がチャンスだった」というタイミングがあります。大げさな言い方かもしれませんが、アドビにとって今が一生に一度のチャンスかもしれません

新型コロナウイルス以降、ドキュメントをデジタル化する流れは、アドビにとって大きなチャンスだと考えています。

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岡本英子

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