連載
特集
カテゴリー
タグ
メディア

リモートワーク中の社員をデジタル監視すると、生産性はどうなる?

リモートワーク中の社員をデジタル監視すると、生産性はどうなる?
Image: Shutterstock

Basecamp社の共同設立者兼最高技術責任者のDavid Heinemeier Hanssonさんに、ソフトウェアを使用してリモートワーク中の社員を監視している企業についてどのような意見かを聞く機会がありました。

ですが、これからする話にはあまり肯定的な話はありません。

ワシントンポストナショナル・パブリック・ラジオニューヨークタイムズが揃って報じているように、新型コロナウイルスのパンデミックにより在宅勤務が奨励される中、リモートワーク中の社員を監視したい企業の間で、InterguardやTime Doctorなどのコンピューター監視ソフトウェアが大人気になりました。

この種のプログラムをインストールすると、社員がどのようなウエブサイトにアクセスしたか、どのようにマウスを動かしたか、キーボードでどのようにタイプしたかまでトラッキングできるようになります。

COVID-19の流行により、リモートワーク中の社員をデジタルで監視することが、これまで以上にトレンドになる(英文)のでしょうか。

リモートワーク中の過剰な監視は逆効果

ソファに横たわる女性
Image: Shutterstock

Hanssonさんはリモートワークの普及を大いに支持する1人ですが、このような監視体制は良しとしません。

企業が本気で社員の生産性を向上させたいと思うなら、社員を見張るのはやめるべきです。

Hanssonさんの言う通りかもしれません。こうしたソフトウェアを提供する企業は、当然のことながらその必要性を主張していますが、デジタル監視は明らかにプライバシーの侵害であり、むしろ逆効果だということを実証する学術研究もあります。

これは、リモートワークを擁護する人々が常識として主張していることと一致しています。

特に無差別なやり方でPCを介して社員のしていることをトラッキングすると(英文)、これはこれで社員の注意散漫や士気の低下を招き、離職率が高くなる危険性があります。

企業は、もっと良い方法で社員の成果や業績を評価していかないと、在宅勤務の環境に害を及ぼすだけかもしれません。

社員が出す成果で評価すべき

デジタル監視ソフトInterguardを提供しているAwareness TechnologiesでCEOを務めるBrad Millerさんは、監視ソフトウェアに批判的な人たちは、オフィスで働くことを基本にしている企業の成り立ちを理解すべきだとしています。

オフィスで社員のデスクの間を歩き回って監督する習慣があるマネージャーは、監視ソフトウェアがあれば、社員が今していることをチェックできます。

「オフィスは偶然の産物ではなく、存在理由があります」とMillerさんは言います。

「マネージャーや監督者にも存在理由があります。それは、オフィスで自分の目の前に座っている社員を管理・監督することです」

しかし、Interguardを使って監視すると、通常オフィスで行うよりずいぶん細かいレベルまで監視することになります。

このソフトウェアは、社員のPCのスクショを絶え間なく撮り続け、社員がしていることを全部ビデオに撮ることさえできます。また、社員が特定のキーワードをタイプすると監視のアンテナにひっかかるように設定することもできます。

そこまでするのは、社員がハラスメントや機密情報の誤用をしていないか監視することが目的であったり、就職活動のサイトにアクセスした社員に目をつけたりすることが目的だったりします。

Millerさんは、「タチの悪い社員がいるのと同じように、タチの悪いマネージャーもいる」として、こうしたツールが悪用される可能性も認めてはいますが、たいていの企業は社員がしていることを細かく見ていません。

ほとんどのマネージャーは、社員が仕事関連のアプリにどの程度の時間を費やしたかといったことをざっくり把握したいだけです。

そのため、Interguardは、社員が使用しているソフトウェアの種類とアクセスしたサイトを社員ごとにスコアにして提供することができます。

会社が知りたいのは、社員が普段仕事をすべき時間帯に仕事をしているのか概ね生産的か、といった一般的な情報です。そしてネガティブな情報が入ってきた場合に限って、その社員の状況をさらに掘り下げて確認することになります。

このような機能は、パンデミックで在宅勤務になった社員が今、何をしているかオフィスで直接見ることが突然できなくなったマネージャーには魅力的かもしれません。

しかしHanssonさんは、これはリモートワークに対するネガティブなアプローチだと言います。

マネージャーは、社員がデスクにいる時間や特定のプログラムに費やす時間を監視するより、社員がアウトプットする仕事の質と量に着目するべきです。

社員のインプットを監視することしかできないマネージャーはダメなマネージャーです。

優秀なマネージャーは、社員のアウトプットを評価します。そのアウトプットがオフィスからされようが社員の自宅からされようが、関係ありません。

Millerさんは、カスタマーサービスや保険金請求処理などの業務は、社員のアウトプットでは評価できないと反論しますが、Hanssonさんはその点で議論するつもりはありません。

データ入力やカスタマーサポートなどの「やるべきことが非常にはっきり制限されている」仕事は、最も監視しやすいと言えます。

社員が自分に割り当てられた分をこなしてミスもしていない限り、マネージャーは社員が勤務時間中にちょっとFacebookやYouTubeのビデオを見ていても、気にしなくていいでしょう。

多くのマネージャーが、ムチを振るうのをやめたとたんに社員は仕事をさぼるのではないかという深い不信感を抱いていることが根本的な問題だと思います。そもそも、ムチを持つ必要があるのでしょうか。

デジタル監視は想定外の悪影響を及ぼす

パソコンに足跡
Image: Shutterstock

監視ソフトは、なるべく使わない方が良いことは、次のような研究で実証されています。

2017年にベイラー大学が行った研究は、アンケートに基づいて社員の離職の可能性を予測しています。監視ソフトを使用すると、社員の緊張感が高まりますが、それと反比例して仕事で得られる充実感は低下するので、離職したい気持ちが高まることがわかりました。

「この研究は、会社が社員の行動をデジタルで監視できても、それをする必要はないことを示唆しています」と研究班は論じています。

2019年にフィンランドのユヴァスキュラ大学の研究班が行った調査では、インターネット監視ソフトの使用が招いた予期しない結果に着目しています。

その調査によると、監視を導入すると、社員のモチベーションは、褒賞の獲得や処罰の回避に関してはわずかに高まりますが、本質的な仕事のモチベーションは大幅に減退し、結果として創造性の喪失につながる可能性があります。

さらに重要な点は、社員はインターネットの使用状況を監視されているとわかると、会社が期待する以上のことをしたがらなくなることです。

言い換えれば、デジタル監視は社員が仕事と無関係のインターネット使用を減らす効果はありますが、それが必ずしも組織にプラスの影響を与えるわけではなく、別の形で社員のパフォーマンスに影響を与えることがあるのです。

監視ソフトの使用に肯定的な意見を示す研究でさえ、使用に制限を設けるべきだとしています。

たとえば、スリリランカのモラトゥワ大学がスリランカで働く人々を調査したところ、会社が監視ソフトを使用しても仕事の満足度は低下しませんでしたが、それは会社がデジタル監視ソフトを使用することを社員に率直に知らせ、社員も仕事の質を改善するために必要だと感じた場合に限ってのことです。

この研究に携わった研究者の1人であるViraj Samaranayakeさんは、社員はFacebookなどのサイトにアクセスしていることを会社にトラッキングされてもそれほど気にしないと言います。

「それがプライバシーの侵害に当たるなら… 社員は受け入れないでしょう」とSamaranayakeさんは言います。

同氏は現在IT業界のコンサルタントをしています。

上述したすべてのことが、「人間は、常に不信感をちらつかされるより、大切に扱われていると感じたときの方が良い仕事ができる」というリモートワークの擁護者が常識としていることを明確に裏付けています。

社員を信用しないというスタンスを取ると、その時点ですでに試合に負けていると思います」と、タスク管理ソフトウェアのTodoistの開発に従事するDoist社の創設者兼CEOであるAmir Salihefendicさんは言います。同社は全社にリモートワークを導入しています。

健全なリモートワークカルチャーとは

Salihefendicさんのような立場にある人なら、そう言うのは簡単です。

長年にわたり、Doist社は健全なリモートワークの社内カルチャーを作る(英文)ために多大な努力を払ってきました。

社員は十分な給料をもらっており、仕事をする時間帯は自由で、1日8時間以上仕事をしてはいけないと会社は強調しています。Doist社では、顧客サポート担当者以外のすべての社員は週末に仕事をしないことになっています。

Salihefendicさんは次のように語っています。

社員を大切に扱い、良い制度と給与を約束すれば、ほとんどの社員はまじめに良い仕事をしようとします。

Doist社やBasecamp社のような企業も、リモートワークを生産的にするために必要なあらゆるツールを駆使して、その恩恵を享受しています。

両社とも、ソフトウエアを収集することをビジネスにしており、集めたソフトウエアを自社で使用しています(英文)。また、ソフトウエアの開発を目的とするGithubのようなツールも利用しています。

監視ソフトウェアを使用している企業に理解を示す意見があるのは、まったく新しい働き方を余儀なくされ、リモートワークに対処する無数のソリューションをつきつけられているせいでしょう。

もちろん、すべての会社が社員を大切に扱い、正当な給料を払う方針にしているわけではありません。そうした企業には、常に社員を監視ソフトで常に監視することが、その場しのぎの便利な対策なのです。

ただし、そんな対策を取っていること自体が、大きな問題が顕在化する兆候だと言えます。

こうした企業も徐々にこれまでのやり方を改めて、別の方法で社員の生産性を評価していく方が賢明でしょう。最初は難しい気がするかもしれませんが、Hanssonさんも言う通り、常に方法は見つかるものです。

社員は、何かを生産したりサービスを提供することを前提として雇用されています。席に座って忙しそうに見せることは本質的に求められていないのです。

あわせて読みたい

新たなビジネスパーソンの心得「ESG」とは何か?徹底解説|ニューノーマル時代の働き方

フリーランスライターが実践する。自宅仕事の効率の高め方

Image: Shutterstock

Source: ワシントンポスト,ナショナル・パブリック・ラジオ,ニューヨークタイムズ,Interguard,ベイラー大学,ユヴァスキュラ大学,モラトゥワ大学,Doist

Originally published by Fast Company [原文

Copyright © 2020 Mansueto Ventures LLC.

訳:春野ユリ

swiper-button-prev
swiper-button-next