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愛社精神なんて持たなくていい。伝説の経営者に学ぶ「すてる勇気」

愛社精神なんて持たなくていい。伝説の経営者に学ぶ「すてる勇気」
Photo: 印南敦史

ぜんぶ、すてれば』(中野善壽 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の冒頭には、著者の経歴について以下のような記述があります。

中野善壽(なかのよしひさ)、七十五歳。 伊勢丹、鈴屋で新規事業の立ち上げと海外進出を成功させる。 その後、台湾へ渡り、大手財閥企業で経営者として活躍。 二〇一一年、寺田倉庫の代表取締役社長兼CEOに就任。 大規模な改革を実施し、老舗の大企業を機動力溢れる組織へと変貌させた。 (4ページより)

その手腕と独自の考え方、人柄から、各界の著名人に慕われる人物。しかし、メディアにはほとんど姿を表さない存在でもあります。

その生き方の根底にあるのは、「なにも持たない」ことなのだとか。

家も車も持たず、お酒もタバコも嗜まず、お金も生活に必要な分を除き、若いころからすべて寄付しているというのです。

なにも持たないからこそ、過去に縛られることなく、未来にも悩まず、きょうを大切に生きられるということ。

本書は、そんな著者による「現代を前向きに、楽しみながら生きるためのヒント」をまとめたもの。そのなかから、いくつかを抜き出してみたいと思います。

会社はただの箱でしかない。 愛社精神なんて持たなくていい

自分はなんのために働くのか。この問いに対する答えはただひとつ、自分のため。「会社のため」ではないと著者は断言しています。

自分が好きで、楽しいから、目の前の仕事をやっているのだと。

会社というのは、人間が仕事を楽しくするための手段であり、ただの“箱”でしかない。 会社は自然界に最初からあったものではなく、 人間によってつくられたシステムなのだから、 人間が会社に使われるようでは、逆転現象もいいところ。 だから、「会社のため」と身を犠牲にして働くのは、ちょっと変だと僕は思う。 愛社精神を強いるのもおかしい。 (24~25ページより)

決して仕事に対してドライであれ、といいたいわけではなく、「働く主(あるじ)は、あくまで自分である」と考えるべきだということ。

もちろん、仕事に没頭したい時期があれば、どれだけ遅くまで残って働いてもいいでしょう。著者も若いころは、徹夜で会社に残ったこともあったそうです。

しかし、そんなときにも苦痛と感じなかったのは、「どうしても今日中にやり遂げたい」「自分がやりたいからやっている」という感覚が大きかったから。

つまり、がんばっていたのではなく、夢中だったということです。

だからこそ、「人が中心で、会社が道具」という関係性を間違えないようにするべきだと著者は主張しています。(24ページより)

とにかく進め、だけでは危険。 いつでもやめられる勇気を持って

車にアクセルとブレーキがあるから安全に走れるのと同じように、 人間も「進む」と「止まる」をバランスよく使い分けないといけない。 (26ページより)

若いうちは、「とにかくなんでもやってみなさい」と助言を受けることが多いはず。しかし、進んだら進みっぱなしというのもよくないといいます。

大切なのは、常にまわりに吹く風の変化を感じつつ、「あれ?」と思ったらすぐに立ち止まること。

「これ以上進んだら危険だ」と察したら、迷わずブレーキを踏むことが大事だという考え方です。

なにをいつ始めたとしても、成功する確率は100個に1個くらいのもの。だから、「止まる力」こそが安全維持のためには重要なのです。

したがって、「進みなさい」と「いつでも止まっていい」はセットであると考えてみるべき。

そのほうが、かえって気軽に挑戦しやすくなるからです。(26ページより)

目標はいらない。 がんばりすぎたら、やめていい

始める勇気と同じくらい、大事なのは“やめる勇気”。 じゃあ、どうやって“やめどき”を見極めるのかと聞かれたら、 「がんばり過ぎている」と気づいた時じゃないかと答えます。 (28ページより)

こだわるべきでは細部ではなく、大きく自然な流れをつくること。

不自然な力みが生じたり、「どこか自分らしくないな」と感じたとしたら、「そろそろやめる時期だ」と思ったほうがいいというわけです。

しかし、やめるときには、「過去の自分」が最大の邪魔者になることも少なくありません。

「ここまでやったんだから」という蓄積が、重い足かせになってしまうということ。

著者が「それをずっと引きずって未来はあるのか?」と一度考えてみたほうがいいと主張するのは、「ここまでやったんだから」と思いながら苦しんでいる人をたくさん見てきたから。

「目標を高く持って、目標に向かって突き進め」というのは、明治時代の欲を前提にした富国強兵の精神。

しかし、そんな目標を持たなくたって、人は目の前の幸せや楽しみのために生きていけるもの。

「それが成熟した国に生きる、摂理ある人のあり方ではないでしょうか」という著者のことばには、大いに共感できるものがあります。(28ページより)


不確実で変化が激しく、個人の力が試されるのが現代。そればかりか、新型コロナウイルスの影響で先行きはさらに不透明になっています。

そんな時代だからこそ、短くシンプルな文章にまとめられた著者のことばは強い説得力を感じさせます。

氏の名前を知らなかった人にとっても、重要な意味を持つ一冊になるはず。一度、手にとってみてはいかがでしょうか?

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印南敦史

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