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クリエイティブな人はリーダーに向いていない?「先入観」の上手な扱い方

クリエイティブな人はリーダーに向いていない?「先入観」の上手な扱い方
Photo: 印南敦史

「自分をどうやって人に正しく理解してもらうか」について悩んでいる方は、決して少なくくないはず。逆に言えば、正しく理解されることはそれほど難しいことだということかもしれません。

そこでご紹介したいのが、『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学』(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン 著、高橋由紀子 訳、ハヤカワ文庫)。

著者はコロンビア大学ビジネススクールのモチベーション・サイエンスセンター副所長であり、モチベーションと目標達成分野の第一人者です。

この本には「人にいい印象を与えるコツ」が書かれているのかと聞く人がいますが、そうではありません。それよりももっと本質的でまっとうな、「自分の本当の意図を相手に正確に伝えること」について書かれています。

この世の中は人間関係がすべてで、人間は一人では何一つできません。意図を正しく伝えることは何より重要です。(「はじめにーー他人があなたを見る目は歪んでいる」より)

残念ながら私たちは、自分が「こう見られたい」と思うようには、他人から見られていないもの。

なぜなら人間は、自分を完全に客観的に見ることも、他者を客観的に見ることもできないからです。

しかも人には、他者の自分に対する反応を、自分の見方に合うように歪めてしまう傾向もあります。

そのため、私生活でも仕事上でも、さまざまな問題が引き起こされるわけです。

そこで本書では、他の人が自分を実際にはどう見ているのかを理解し、ことばや行動を(必要なら)変化させることにより、自分が本当に送りたいと思っているシグナルを発信するための方法を伝えようとしているのです。

きょうは第二章「人は認識のエネルギーをケチる」のなかから、「ステレオタイプを有利に使いこなそう」に焦点を当ててみたいと思います。

ステレオタイプは使いこなせる

いうまでもなくステレオタイプとは、「思い込み」「先入観」「偏見」「レッテル」などを指すことば。

そのためネガティブなものと捉えられがちですが、そうとも限らないと著者は主張しています。

童顔の人が信頼できると思われるのと同様、アジア人は数学と科学に強いと思われ、女性はやさしくて世話好きと思われ、黒人は運動神経が優れていると思われています。ステレオタイプは、人が他者をどのように見るかということで、いいものもあればよくないものもあります。

また、このグループの人たちはこうだと世間が思い込んでいる特徴にその人の行動や外見や話し方が合致していると、ステレオタイプはより強く適用されます。(56~57ページより)

たしかにそのとおり。でも、そんなステレオタイプを有利に使うことも可能だというのです。

しかも私たちはそのことを本能的にある程度知っていて、仕事の場にふさわしく身なりを整えたり、周囲の人に溶け込もうとするのだとか。

たとえば著者は大学生のころに研究員としての職探しをした際、スーツに身を包み、髪をきちんと後ろで束ね、薄化粧で面接に臨んだのだといいます。

それは研究員のステレオタイプ(知的で、真面目で、規律正しい)の特質を、自分も持っていると見てもらえるだろうと考えたから。

もしもフランネルのシャツやショートパンツ、野球帽のような格好で出かけていたとしたら、研究所は著者のことを、「研究者にはふさわしくない」「未熟で世間知らずの大学生」というような、まったく別のステレオタイプで見たかもしれないわけです。(56ページより)

どちらの管理職候補を選ぶ?

そうした場合は、どのタイプに属しているように見られたいかがはっきりしているため、まだ容易かもしれません。

しかし、ひとつのステレオタイプのなかの両立が難しい複数の特徴を伝えたいときがそうであるように、うまく使い分けられない場合もあるはず。

管理職のポジションに二人の候補がいて、面接をするとします。二人とも優れた経歴を持っています。

一人は新しい思い切ったアイデアをどんどん出すタイプに見えるのに対し、もう一人は優秀であることは明らかですが、それほどクリエイティブに見えません。

この二人のうち、どちらがポジションを獲得するでしょうか? また、どちらが雇われるべきだと思いますか?(58ページより)

この問いに対して著者は、おそらくは、あまりクリエイティブでないほうの候補者が管理職のポジションを得るだろうと記しています。

クリエイティブな能力、すなわち問題に大して革新的なソリューションを生み出す能力は、ビジネスリーダーが成功するために必要なものであるはず。

調査の結果も、クリエイティブなリーダーは、組織にポジティブな変化を与え、部下たちをリーダーについていく気持ちにさせるとしているそうです。なのに、なぜなのでしょう?

問題は、人々が考える典型的な「クリエイティブな人」と、典型的な「優れたリーダー」が、まったく相入れないこと

「クリエイティブな人」と聞いて思い浮かぶのは、デザイナー、ミュージシャン、物書きのような人たちで、彼らは「社会規範に従わず、異端で、大企業が管理職にしたいと思わないような人たち」というステレオタイプで見られがち。

優れたリーダーは組織に秩序をもたらすべきで、ぶち壊しにかかるようでは困ると考えられているわけです。

そのため人々は無意識のうちに、「クリエイティブな人」はいいリーダーにはなれないと思い込んでおり、候補者のなかにクリエイティブな特質を見出すと、それを「リーダーとしての資質を損なうもの」だと考えてしまうわけです。(57ページより)

強い“負の連鎖関係”

ここで著者は、ある調査の結果を引き合いに出しています。約300人の社員が(匿名で)問題解決の課題に取り組んだ結果を、55人の同僚に評価してもらったというのです。

評価のポイントは、その解決法がクリエイティブか(そのアイデアが新しくて実効性があるか)という点と、その人にリーダーとしての資質が見られるかという点。

その結果、「クリエイティブな能力」と「リーダーとしての資質」との間には、強い“負の連鎖関係”があることがわかったのだそうです。

つまり、課題に対する答えがクリエイティブなほど、リーダーとしての資質は少ないと見られていたということです。

クリエイティブであることが今ほど高く評価されている時代はありません。

それにもかかわらず、いざリーダーを選ぶとなると、クリエイティブな人に対する明らかな無意識の偏見があるのです。これもステレオタイプによるものです。(60ページより)

企業はリーダーシップ能力のある人を選ぼうとするものの、こうしたバイアスのために、意に反して創造性に乏しい「現状維持型人間」をリーダーに選んでしまうものだということ。

この考え方は、適切なリーダーを選ぶ際の参考になるのではないでしょうか?(56ページより)


これはほんの一例で、他にも人の誤解や、理解することの難しさ、その原因と解決策などがわかりやすく解説されています。

コミュニケーションの本質を理解したいのであれば、本書は参考になるかもしれません。

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Source: ハヤカワ文庫

印南敦史

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