時間と心の余裕を生む!ドイツの食事「カルテスエッセン」と日本の食事の違いは?
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最近は、ドイツ人の働き方に注目が集まっています。
これは、ほとんど残業はしない企業風土(そもそも法律で厳格に規制されている)、長時間労働はしないのに高い生産性、国全体として経済が好調といった点が、日本人を惹きつけるからでしょう。
昔から、日本人とドイツ人は「真面目」「勤勉」といった共通する気質があるといわれてきました。ですが、実はさまざまな相違点もあり、働き方はその1つにすぎません。
ドイツ人の働き方は?
食生活の考え方も異なるドイツ人
ドイツ人は、食生活に対する考え方も、日本人と大きく違います。そして、そこには日本人が生活の質や精神的な豊かさを向上させるヒントが隠されています。
そう指摘するのは、書籍『食事作りに手間暇かけないドイツ人、手料理神話にこだわり続ける日本人』(ダイヤモンド社)を著した、東京理科大学の今村武教授です。
本書の副題が「共働き家庭に豊かな時間とゆとりをもたらすドイツ流食卓術」とあるとおり、夫婦共働きで仕事も家事もこなす人たちに役立つ秘訣がこめられています。
はたしてそれは、どういったものでしょうか。かいつまんで、紹介しましょう。
ドイツの家庭は「冷たい食事」が当たり前

ドイツも日本と同じく、1日3食が基本。
ただ、昼食が正餐(せいさん)で、朝食と夕食は軽めのものが中心です。これは、学校・企業の始業時間が日本より早いため、朝は慌ただしく、夜は就寝が早くてあまり食べる必要がないから。
そして、大きな特徴が、煮炊きするなど手間のかかる食事が少ないこと。今村教授は、ドイツではどこの家庭でも「カルテスエッセン」=「冷たい食事」が普通だと述べます。
私がこれまでにドイツ人家庭で見た夕食カルテスエッセンは、ざっくりいってしまうと、パンとバターがあれば準備完了。
家庭によってはそれにプラスしてハムやチーズ、サラダなどをボウルや大皿、カッティングボードの上にのせて用意します。
そして各自がパンを取ってバターを塗り、好みでハムやチーズ、野菜など好き勝手に取り、パンにのせて食べたりするのです。(本書41~42pより)
日本人の感覚からすれば、これは「料理」というより、お店で買ってきたものを切って並べただけ。
今村教授も、ドイツに留学した若い頃はたいそう驚き、ホストファミリーに「私は歓迎されていないのか」と意気消沈したそうです。
ですが、ドイツ人にはカルテスエッセンこそ、通常の食事。それなりに手のこんだ食事をとるとすれば、正餐となる昼食の時くらいで、それも毎日ではありません。
ドイツ人が「冷たい食事」を好む理由
ドイツ人が、「冷たい食事」を好むのはなぜでしょうか?
今村教授は、「食事に時間と手間をかけるより、自分のためのゆとりの時間が欲しい」という声をドイツ人からよく聞くそうです。
たしかに、調理から後片付け、洗い物まで含めれば、手をかけた温かい料理は、どうしても時間がかかります。
また、その役割は家事スキルの高い人に偏ってしまいます。それよりも、自分の時間や家族・夫婦でともに過ごすひとときのほうにプライオリティを置きたいというのが、ドイツ人の心情です。
ドイツではお父さんも、お母さんも、子どもたちも、全員が一緒に食卓について豊かな時間を過ごすのです。
ドイツでは家族が揃うことが大切なので、誰か1人に負担をかけてしまうようなことはしません。
ですから、どうしても必要な家事の準備である「食事の準備」はカルテス・エッセンによってなるべく簡略化しているし、洗い物などの“後片付け”は食器洗い機に任せているのです。(本書63~64pより)
そうは言っても、温かくて和洋中のバラエティに富んだ食事を理想とする我々日本人からみれば、ドイツ人の食事は冷たいだけでなく、質素に思えます。
ですが、ドイツの主食のパンは、「世界一種類が豊富」で、ソーセージ、ハム、チーズも実に多彩。それらをカッティングボードに並べ、フルーツやサラダを添え、ハーブで飾れば、見た目も楽しい食卓になるそうです。
手料理=愛情と考えてしまう日本人

一方で日本人が、それなりに手間暇かけた家庭料理にこだわるのは、グルメだからというより、別の側面があることを今村教授は指摘し、こんな例を挙げています。
今村教授の友人Aさんは、2人の子どもを持つ母親で、夫婦共働きです。
普段から手作りの温かい夕食を心がけていましたが、Aさんが繁忙期のときはそうもいかず、レトルト食品や冷凍食品を使うことがあります。
それを知ったお姑さんは、「冷凍食品を使うなんて! 息子は一生懸命働いているのに、かわいそうじゃない」と不満をあらわにしました。
今村教授によれば、この出来事に対する周囲の反応は、大多数が「夫婦が納得しているのならかまわない」「共働きなのだから、息子さんも分担して作ればいい」といった、Aさんに理解を示すものでした。
ところが、これが「子どもの運動会に冷凍食品を使う」となると一変。「冷凍食品は心がこもっていないから、愛情が伝わらない」「お弁当を手作りしないなんて手抜きです」などと、ほかの働く女性から厳しい声が上がったそうです。
「味の素」が1978年から既婚女性を対象に数年おきに実施している食生活の考えや行動についての全国調査(AMC調査)があります。その2012年の調査データでは、小学生の子のためにほぼ毎日お弁当を作るという母親たちは「弁当作りを通じて愛情を伝えたいか」という質問に、61.1%が「はい」と回答していました。
今村教授は、そんな結果も引き合いに出し日本では根強い「手作りこそ母親の愛情の証」という「手料理神話」があると論じます。
では、もっぱらカルテス・エッセンで済ますドイツ人の母親は、愛情が足りないのでしょうか?
今村教授は、こう否定します。
ドイツの多くの家庭で愛情不足による親子関係の崩壊が社会問題になっているという話は聞いたことがありません。現に、私の留学先のホストファミリー宅では夕食は冷たい食事でした。
学校の軽食タイム用に子どもたちに持たせるものも、バナナやりんごなど手間の要らないものばかりでしたが、とても家族仲のよい温かい家庭でした。(本書116pより)
そして、日本人が手作りの料理にこだわるあまり、時間や心の余裕がなくなり、家族へのやさしさと良好なコミュニケーションが失われてしまうリスクのほうを、今村教授は危惧します。
時間と心の余裕を生むドイツ人の食卓術

今村教授は、多忙すぎて心の余裕すら失われている日本人に対して、ドイツ流の「頑張り過ぎない食卓術」を提案しています。例えば、以下のようなものです。
調理を最小限にし、素材の味を生かした料理に変えてみる
カルテスエッセンは無理でも、調理を最小限にしたメニューを取り入れます。切っただけのサラダ、ゆでただけの野菜、器に出すだけの冷やっこのようなものでも、素材そのものの味を楽しめます。
肉や魚も、塩・スパイスを振りハーブを添えて、オリーブオイルを回しかけてグリルするだけでも、おいしくて立派なメインディッシュになります。また、お弁当も週に1回、カルテスエッセン風にします。
器や調理道具にこだわってみる
ドイツ人は、ちょっといい調理道具や食器を日常使いしていいます。これに習い、食事はシンプルにしつつ、お気に入りになる器を買い揃え、盛り付けも工夫します。
さらに、調理道具はデザイン性の高いものを採り入れてみます。
例えば、おしゃれなスキレット(鉄製の小さなフライパン)で作った料理をそのまま食卓に出せば、見栄えばかりでなく、洗い物を減らすこともできます。
家事のアウトソーシングを試してみる
日本でも利用率が高まっている家事代行サービスを時々活用します。ドイツでは、このサービスの料金相場は1時間あたり2千円だそうです。
日本でも同程度の低価格のサービスも出てきていますが、平均的に3千円程度とやや割高になります。
「“高い”と感じるか、それとも、ゆとりの時間を創り出すことができてストレスが軽減され、しかもプロの手によって家がキレイになるのであれば、むしろ“安い”と感じるか」。
まずは年末にでも試してみて、前向きに利用することをすすめています。
多くの日本人は働き方についてあれこれ考える反面、食生活にまでは考えが及びにくいかもしれません。
ですが、ドイツの異なる気質の持つ人々の食生活の知恵と工夫を一部でも実践することで、想像以上に生活の質が向上する可能性はありそうです。本書は、その一助となることでしょう。
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Image: Shutterstock.com
Source: ダイヤモンド社
鈴木拓也
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