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印南敦史の「毎日書評」

「天才部下」をその気にさせるルールのひとつは、黙って耳を傾けること

author 印南敦史
「天才部下」をその気にさせるルールのひとつは、黙って耳を傾けること
Photo: 印南敦史

リーダーにとって難しいのは、優秀なメンバーにチームワークを構築させること

なぜならほとんどの天才は、自分が誰よりもものごとをわかっていると考え、ひとりで好き勝手にしたがるものだから。

しかし、それではなにも成し遂げられないからこそ、従来のリーダーシップとは異なる、もっと複雑な手法で天才を管理する必要がある。

EINSTEIN'S BOSS アインシュタインズ・ボス 「天才部下」を率いて、最強チームをつくる10のルール』(ロバート・フロマス、クリストファー・フロマス 著、三輪美矢子 訳、TAC出版)の著者は、そう主張しています。

なお天才部下を率いるために重要なのは、次の10のルールだそうです。

1 鏡と向き合う

2 邪魔をしない

3 黙って耳を傾ける

4 石をひっくり返す

5 化学よりも錬金術を使う

6 過去を未来の事実にしない

7 リスを無視する

8 心と頭を調和させる

9 問題で気を引く

10 危機とうまくやる

(「はじめに」より)

これら10のルールで天才部下を率いれば、彼らはきっと常識を超える発見を成し遂げ、複雑な問題を解決してくれるだろうと著者は記しています。

きょうはそのなかから、5「黙って耳を傾ける」に注目してみたいと思います。

話の真意を汲み取る

天才の可能性を伸ばすために重要なのは、邪魔をしないこと。つまり、黙って天才の話を聞くのがいちばんの方法だという考え方です。

ただし、そうであるにもかかわらず、話を聞くことを苦手とするリーダーは思いのほか多いのだと著者は指摘しています。

だれかの話を聞くことと、その人の話にじっくり耳を傾けることは違う。

(中略)われわれはともすれば、相手の発言をじっくり吟味することなく、全体の状況を無視して言葉だけを抜き出しがちだ。(131ページ)

単にことばを聞くだけではなく、そこに込められたいとを理解することこそが重要だということです。(129ページより)

相手の話を聞かないコスト

コダックの技術者スティーヴ・サッソンに話を聞いたニューヨーク・タイムズ紙は、彼が1975年に最初のデジタルカメラを開発し、コダックの上層部にそのアイデアを伝えたときのことを記事にしているそうです。

「フィルムを使わない写真だとわかると、彼らはこう言いました。『いいアイデアだな、でもだれにも言うなよ』」。コダックはフィルムの売り上げが落ちるのを恐れて、そのアイデアを封印したのだ。

予見は見事に当たり、デジタル写真はやがてフィルム産業そのものを食い尽くした。(132ページより)

つまりコダックのリーダーは、技術者の提案を聞きはしたものの、その真意を汲み取ろうとはしなかったわけです。

イノベーションを見極める力よりも自己保身の意識を優先してしまったため、結果的には会社を潰してしまったということ。

著者が「もしあなたの会社が現状維持の技術に頼って事業計画を立てていたら、会社の未来はかなり危ういと言わざるを得ない」と警告しているのは、こうした事実があるから。

さらにもうひとつ、CEOに聞き耳がなくて巨大破綻を招いた例として、レンタルチェーンのブロックバスターのエピソードが紹介されています。

まだビデオレンタルが盛んだったころ、ネットフリックスの共同創業者であるリード・スティングスが、ブロックバスターのCEOジョン・アンティオコに5000万ドルで自社を売却しようとしたというのです。

ネットフリックスの元CEOバリー・マッカーシーは、ヘイスティングスとテキサスへ行き、アンティオコやそのスタッフに会ったときのことを語っている。 「リードは……わが社がブロックバスターのオンライン展開を手がけ、ブロックバスターが(ネットフリックスの)店舗展開を手がけてはどうかと提案しました。すると彼らは、部屋の外に響くほどの大声でその提案を笑い飛ばしたんです」 ブロックバスターの幹部は、ネットフリックスを単なるニッチビジネスと見なし、市場を破壊する新技術だと考えていなかった。そんなものに自分たちのビジネスが潰されるはずがないと高をくくっていたのだ。(133~134ページより)

しかし、それが間違いだったことはいうまでもありません。

結果的にブロックバスターは破産し、数千人の従業員と小口投資家がその損害を被ることになったのですから。(132ページより)

リーダーはなぜ話を聞かないのか

それにしても、リーダーはなぜ話を聞こうとしないのでしょうか?

著者によれば、もっとも本質的な理由は、リーダーが相手の心を読めると思っているから。相手がなにをいおうとしているのか、いう前からわかっているつもりでいるということです。

ある調査で、人はふだんから「自分は他人の考えていることがよくわかる」と、自分の聞く力を過大評価していることが判明した。自分の基準で相手を解釈しているわけだ。

だが、この調査の参加者は、他人の考えを読み誤っていたうえに、自分が思い違いをしていることにも気づいていなかった。

他人の考えを読み誤るのは、自分と他人の心が違うのを忘れてしまうことに原因がある。

われわれは相手が何かを言う前に、「きっとこういうことを言うだろう」と想像する。自分が言いそうなことを相手も言うはずだと思い込んでいるためだ。(136ページより)

ニューヨーク大学経営大学院(当時)のケリー・シー助教授はフォーブス誌で、「(人が話を聞かない)理由のひとつに、情報の提供者とその状況の責任者に与えられた力の差がある」と述べているそうです。

そしてシーのこの解釈は、歴史学で使われる「従属的諸集団(サバルタン)」の考え方に近いと著者は記しています。

これが示しているのは、新しいアイデアは現状維持の力の働きによって既存の枠組みより軽視されやすいということだと。つまり新しいアイデアは、従属的な集団=オルタナティブボイスだということ

サバルタンを研究する歴史学者は、期待の外側にあるアイデアに耳を傾けることがどれだけ難しいかを指摘しているといいます。

自分の属している文化や経済の観点から少しでもずれた情報を示されると、人は相手の言葉に耳を傾けるのをひどく苦痛に感じる。

期待の限界まで達するイノベーションの話にいたっては、聞くのをやめてしまう人も多い。(138ページより)

たとえ聞いても、話を歪めて自分の期待値にはめ込もうとするということ。そして悲劇に見舞われて初めて、サバルタンの声に耳を澄ませ、それが認識と違っていたことに気づく。

しかし、イノベーションという観点からすれば、それでは遅すぎるわけです。(136ページより)


多くの事例を引いた本書は、天才部下の導き方のみならず、リーダーに求められるべきものを再確認させてくれます。

そういう意味で、多くのリーダーに読んでいただきたい一冊だと断言できます。

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Source: TAC出版

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