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「収益モデル」から逆算してつくる。ビジネスデザインという考え方

「収益モデル」から逆算してつくる。ビジネスデザインという考え方
Photo: 印南敦史

ビジネスの武器としての「デザイン」』(奥山清行 著、祥伝社)の著者は工業デザイナー。

これまでにフェラーリ・エンツォ、マセラティ・クアトロポルテなどの自動車デザインを手がけ、独立後は秋田、北陸新幹線に代表される鉄道デザイン、さらには鉄瓶や眼鏡といった地場産業の開発~販売までを担うデザインコンサルティングを行ってきた実績の持ち主です。

そして高齢化が進む現代においては、移動手段としてのモビリティの創出といった社会的な課題解決をデザインすることにも携わっているのだとか。

だからこそ、その経験を通して、デザインへの誤解を解いていきたい。 単なる「表面的なデザイン」ではなく、 実際に使える「デザインの考え方」とは何なのか?

「デザイン」の定義から ビジネスの最前線における「デザインの今」についてまで、 本書の中でお伝えしていきたいと思います。

つまり現代は、「自分はデザイナーではないから」と、デザインに対して無関心や無知でいることが許されなくなった時代だということ。

デザインへの理解なくしては、自らのビジネスにイノベーションを起こすこともできなければ、ビジネスシーンのプレイヤーとして生き残っていくことも不可能。

デザインを知らないビジネスパーソンは、淘汰されてしまう可能性すらあるのだといいます。

そのような視点に基づいて書かれた本書のなかから、Chapter 5「実際に『ビジネス』を『デザイン』するプロセスに注目してみたいと思います。

ここで取り上げられているのは、よいプロダクツを生み出すために、その裏側で自分のビジネスをデザインしていく(著者は「ビジネスデザイン」と呼んでいるそう)ためにはどうしたらよいのかについての知見です。

「ビジネスデザイン」に不可欠な「お金」の視点

「ビジネスデザイン」のためにまず必要なのは、「収益を生み出すモデル」への視点だと著者は主張しています。

というのも、私がやっているようなデザインコンサルティングの会社には、だいたいまず表面的なスタイリングとしてのデザイン依頼が来る場合が多いのだが、スタイリングの仕事でかかわり、徐々に企業の中まで入っていって信頼関係が築かれると、結局はスタイリングだけでは解決されないような、依頼企業の収益モデルの問題点が浮き上がってくるからだ。(154~155ページより)

そのため、仕事をはじめてある程度の段階になったところで、「実は…」と切り出し、「これを出しても売れませんよ」「なぜって、御社には販路がないじゃないですか」「それに収益率が悪いなかでこれをつくっても、売れません」と伝えざるを得ないケースが少なくないというのです。

しかし、デザイナーである著者が、なぜそこまで指摘をするのでしょうか? それは、バランスシートや開発費、組織構造などの経営資料も読むからなのだそうです。

だから、「このまま望むようなスタイリングをすれば、コストが予想の3倍くらいになります」「この仕組みでやっていたらコスト体系が成り立たないので、そこから変えなければ収益の出る商品になりません」というようなことがわかるわけです。

つまり、そう考えていくと、「デザインはお金」だという現実に直面するということ。したがって著者はそれを隠すことなく、きちんと伝えているわけです。(154ページより)

「収益モデル」から逆算してデザインする時代

だとすれば、実際にはどうやって収益モデルをデザインしていけばいいのでしょうか?

この問いに対して著者は、ここで考えるべきポイントは、「利益率」と「収益源」のデザインだと断言しています。

たとえば著者が関わっている機械メーカーのヤンマーでも、昨今はトラクターなどの商品より、農業知識などのサービスを届けることに力を入れてきているというのです。

なぜなら、元々の主力商品であるトラクターは製造コストがかかり、高頻度で購入するものでもないため、利益率が苦しくなっているから。

そこで、お気づきの人も多いだろうが、ヤンマーだけでなくこれまで工業製品などの「モノ」を売ってきた製造業は、モノはネタとして、その周辺にあるサービスや体験といった「コト」を売る時代になってきているのだ。(157ページより)

たとえばカーディーラーであれば車を売ることではなく、アフターサービスとパーツで儲けを出しているわけです。

ハードとしての車ではなく、「継続して使える」「このディーラーに行けば、長期的に安心してメンテナンスをやってもらえる」というようなソフト面のサービスや、利益率のよい「パーツの販売」を重要視しているということ。

だから車の売り上げは下がっていたとしても、カーディーラーはいまだに立派な構えを保つことを重視しているところが多いというわけです。

ヤンマーの例でいえば、メカニックのよさを引き出すため、ディーラーの整備室の内装をガラス張りに変えていったそうです。

ディーラーは、用がなくても来てもらえる場所である必要があります。そこで、日常でただ通りかかったとき、メカニックの実直な仕事風景が見えるようにしたということ。

さらに著者は、ディーラーのカーポートの改修を指示したこともあったといいます。

車の修理をディーラーに依頼したとき、数週間前に持っていった車が、外に泥だらけのまま置いてあったとしたら、また頼みたいとは思えないはず。

そこで全拠点に洗車装置を入れさせ、屋根をつけさせたというのです。それも、ハード売りではなく、サービスを売ることのひとつだという考え方。

そればかりかヤンマーのディーラーは、パーツやサービスを顧客に届けつつ、農家の方を対象としたセミナーを拠点ごとに開いているのだそうです。

そこで農業知識や土壌改良の知識、来年なにを植えてなにが売れるか、そのためにどう販路開拓をすればいいのかなどの知識や情報を提供しているということ。

つまり、トラクターを売る企業でありながら、セミナー業も行い、さらには食材もつくっているんが現在のヤンマー。

かくしてトラクターを購入した農家の方は、故障の際にはアフターサービスを使い、困ったことがあれば農業技術の相談をし、坂路でも頼り、また農機具が必要になったらヤンマーで購入するということになるわけです。

これが最終的に目指すべき「ビジネスをデザインする」ということなのである。 これはつまり、「トラクターを売るためには……」という販路の面から考えていって、逆算して広がった流れなのだ。

だからこそ、そもそものビジネスで何を売りたいのか、があらかじめ設定できていなければ、その後に続く効果的な店舗のスタイリングや必要設備のデザイン、社内教育のデザインなどもできないのである。(161~162ページより)

そのため、この視点が欠けた状態で、下流の表面的なデザインの依頼が来たとしても、著者は「デザインしても、これだと売れませんよ」と答えることになってしまうというわけです。(156ページより)


いまこそすべてのビジネスパーソンに、デザインに対する認識を新たにし、デザインの本質を理解してもらいたい。そして、デザインとビジネスの関係を考えてほしい。著者はそう訴えています。

そこで、実際の経験と知見を元に書かれた本書を参考に、デザインをビジネスに活かすためのヒントを見つけ出したいところです。

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Source: 祥伝社

印南敦史

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