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HOW I WORK

SlackとTrelloを駆使して3つ以上の職場で働く。エンタメ業界の“現場”を選んだ弁護士・山辺哲識さんの仕事術

SlackとTrelloを駆使して3つ以上の職場で働く。エンタメ業界の“現場”を選んだ弁護士・山辺哲識さんの仕事術
Photo: Kenya Chiba

敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回は、弁護士の山辺哲識さんにお話を伺ってきました。

2009年に弁護士登録をして活動を開始し、その後、渡米。アメリカでは現地の体験型ゲームのプロデューサーをするなど、弁護士業以外でも活躍された山辺さん。2017年に独立し「アトリエ法律事務所」を設立しました。

Arts and Lawメンバーでもあり、現在は主にクリエイティブ系のクライアントを抱えつつ、「PARTY」「VALU」「SCRAP」と3つの企業の社員として働いています。さらに慶応義塾大学法科大学院非常勤教師、電通のアクセラレータープログラム「GRASSHOPPER」にもメンターとして参加。

一般的に想像する“弁護士”とは少し違った働き方を選択した理由や、クリエイティブ系の企業で働く魅力についてお話いただきました。

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Photo: Kenya Chiba

クリエイティブな世界の人を法律の分野から支えたい

ーーまず現在の働き方に至るまでの経緯を教えてください。

日本に帰国したときに独立し、自身の「アトリエ法律事務所」を立ち上げることになったんです。最初にリアル脱出ゲームを制作する「SCRAP」の社員として法務周りの整備をすることになったのは、独立とほぼ同時だったと思います。

以前からスタッフとして参加していたことや、「SCRAP」の社員が一気に増えて会社として急成長したタイミングと重なったんです。

自然な流れで「SCRAP」の社員として働きながら、法律事務所の仕事として、ほかのクライアントも担当していました。

もともと「PARTY」はわたしの顧問先で、フィンティックサービスの「VALU」が金融規制に苦しんでいるときに「SCRAPでしているような働き方をできないか」と誘っていただいたんです。思ったより、法務部的な働き方に需要があったんです。

それで、火曜に「PARTY」、金曜に「VALU」、月曜と水曜に「SCRAP」、木曜にアトリエ法律事務所の業務を行うという基本の形ができました。現在はさらに水曜の夕方に非常勤講師、木曜の夕方にグラスホッパーの業務が決まっています。

基本の形におさまらない仕事は、各日の夕方以降や週末に対応しています。

ーーそもそも弁護士を目指したのはなぜだったのでしょうか?

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Photo: Kenya Chiba

もともと映画や演劇が好きで、留学先のオーストラリアで学んだこともありました。だけど、本気でプロを目指していたかと言われると、勇気もなかったし、ハードルも高かった。

それに気がついたときに「クリエイティブな世界の人をサポートする弁護士もいる」と聞いたことがあったんです。なんらかのエンターテインメントに関わる仕事をしたいという気持ちは変わらずあったので、おもしろそうだと思いました。

ーー1日の働き方について教えてください。

朝は6時半に子どもたちと起きます。保育園に8時半には着くように送っていって、1時間ちょっとかけて通勤しています。

どの企業でも10時始業で16時に終業です。その後、打ち合わせや会食などの予定がなければ、基本はわたしが保育園へ子どもを迎えにいき夕食を作ります。18時くらいに妻が帰ってくるので家族団らんの食事をして、子どもたちの寝かしつけをどちらかが担当します。

妻がフルタイムなので家事育児の割合は多めですね。法律事務所のタスクが残っていたら自宅で仕事をするときもあります。就寝は平均すると0時〜1時ごろですが、子どもたちと一緒に21時には寝てしまって、朝4時に起きるということも。

それぞれの会社に対しては、出勤しているときはある程度専業して、ほかの曜日には対応しないという約束をしています。ただ「SCRAP」だけは法務部に部下がいるので、少しだけ働き方が違って、朝礼や部下のタスク管理などマネージメント業務を行っています。

アプリやツールでリモートワークはできる。それでも現場に出る理由

ーー仕事を進行するときに使っているアプリやツールを教えてください。

仕事に使うツールは、いつも持ち歩いているパソコン1台です。そのために、裁判は担当しないなど、弁護士としての業務の幅を制限している部分はあります。

裁判となると紙の資料や証拠物を取り扱わないといけません。そもそも週のほとんどを会社員として出勤しているので、日程をあわせるのが難しいんです。

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Photo: Kenya Chiba

アプリは、コミュニケーションツールの「Slack」ですね。現在勤務している企業はもちろん、法律事務所のクライアントとのやりとりも集約しています。やっぱりメールよりもSlackで、というお客さんが増えていますね。

そしてタスク管理は、パソコン上でひと目で管理できる「Trello」を使っています。海外のアプリをかませて、Googleフォームで依頼を出してもらうと自動でタスクに反映されるので便利です。

弁護士としてだけ働いていたときは、メールのインボックスでタスク管理ができていました。全てではありませんが、基本的には自分の業務を終えたら、その返事をいつ返すかは相手次第。進め方がシンプルだったんです。

だけど、企業内にいると返事がなければリマインドをしないといけないし、期限までに完了するところまで責任を追わなければいけない。作業がないから「待ち時間」なのではなく、誰がボールを持っているのか、何がネックになっているのかを企業の一員として把握していないといけないんですよね。その点が弁護士で働くことと、社員の違いかなと思います。

あと、スターバックスによくいくので、支払いや注文ができるアプリ「Starbucks Rewards」を使っています。

ーーリモートワークではなく、各企業に出勤する理由はありますか?

やっぱり「現場が好き」ということに尽きると思います。クリエイティブの現場が好きで、そこに近い人たちと話ができるのが楽しい。

もちろん、アプリやツールを使えばリモートワークは可能だと思います。実際に、仕事の状況や天候で自宅作業をすることもありますよ。

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Photo: Kenya Chiba

初の試みだったのですが、今年は1ヶ月ほどゴールドコーストへも行きました。わたしは花粉症の症状がひどいタイプで、とくに3月あたりは頭痛薬が手放せないほどなんです。だからいっそのこと国外へ逃亡してみようと(笑)。子どもを現地の保育園に預けて、花粉症に悩まされず、快適に働けました。

だけどオンラインでは、メールにしてもチャットにしても、きちんとスケジュール調整をして腰を据えないといけないという面があります。ちょっとした相談でも、きちんと文面を考えないといけなくなるのでお互いに少しハードルがあがります。

いまそこに相手がいれば「ちょっと5分いい?」と相談できる。働く上で、まだそういうチャンネルを残しておきたいです。出社しなくても仕事をまわせる体制にはしておきつつ、コミュニケーションの「質」を大事にしていきたいと思っています。

ーー複数の仕事場を持つ上で、心がけていることは?

自分が特殊な働き方をさせてもらっていることを忘れないことです。週に1回か2回しか出社していないと、わたしがいない時間が長い。会社に毎日出勤している人にとっては、その時間のわたしは「休んでいる」ように見えます

それは当たり前のことだと思うんです。だけど、実際のわたしには、休んでいる日は1日もない。例えば、月水に出勤している会社から木曜に依頼がきていて、わたしが月曜に出勤する。わたしにとっては第一営業日だけど、相手にとっては待っている時間があったから「あれ、どうなってますか」って催促がくる。

それにたいしてムッとして返すのは、コミュニケーションとしてよくない。だから、意識的に自分の働き方が特殊だと、慣れることがないようにしています。

勉強できて対価ももらえる。弁護士っておもしろい仕事です

ーーこれまで読んだ本の中でおすすめはありますか?

最近は漫画を読むことが多くて、年間でざっくり700冊くらい。購入もしますが、レンタルやアプリを使うことも多いです。最近読んだのは『応天の門』(灰原薬著/BUNCH COMICS)や『マスターキートン』(浦沢直樹、勝鹿北星著/ビッグコミックス)。

印象に残っている漫画は、『チェーザレ 破壊の創造者』(惣領冬実著/KCデラックス)です。ストーリーを通じて、ルネッサンスのあるアート作品についての新しい解釈を発表しているんです。もちろん監修の方がついているんですが、漫画というツールを使って分析結果を発表するというのが新しいと思いました。

ファイブスター物語』(永野護著/KADOKAWA)も好きです。ぱっと見、ロボットものなんですが、巻末に物語の年表、国家や人物についての設定がきっちりとあって…。漫画ではないですが、『十二国記』(小野不由美著/新潮社)とか、書かれていないものの背景がきちんとある物語が好きなのかもしれません。

通勤に1時間ほどかけているので、その時間が漫画を読むリフレッシュタイムになっていますね。

ーー今までにもらったアドバイスで、心に残っているものを教えてください。

弁護士事務所に所属していたときのボスにかけられた言葉で、なるほどと思ったのは「勉強してお金ももらえるなんて最高だよね」というものです。

弁護士って最初からなんでも知っている仕事というわけではなくて、法律や判例を読んで解釈ができるということが基礎能力なんです。あるとき、すごく難しいジャンルのリサーチが必要な案件で、何十冊も本を積み上げて調べものをしていました。

その仕事で疲労困憊しているときに上司からこう言われて、「その発想はなかった」と気付かされました。リサーチすることでわたし自身には知識が蓄えられていくので、プラスになっている上に対価も発生している。そんな風に勉強を前向きに捉えることが、この仕事で長く前線にいるための秘訣なんだなと。

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Photo: Kenya Chiba

ーーエンタメ業界での現場経験が現在の業務に活かされている部分はありますか?

現場経験として、ひとつめに「SCRAP」が日本で大きくなる前の時代。イベントの仕込みやチケットもぎり、会場誘導、そして司会など、なんでもやった時期があります。

これでイベントの現場を実際に見ているという強みができました。

イベントの流れやお客さんのリアクションを肌感覚で知っているので、新しい企画が立ち上がったときに、どんなところで事故が起こりやすいのか、どういったポジションが重要になるかを運営側の視点で意識して考えることに役立っていると思います。

今も、新しい企画があれば積極的に参加するようにしています。

もうひとつ、アメリカで現地法人のロサンゼルス支局長、プロデューサーという肩書きで日本の脱出ゲームのローカライズ展開をしたこと。またオリジナルのゲームをつくる制作進行も経験していました。

お金の流れも含めて制作進行に携わったことで、運営的なことや同じところを目指していても、部署ごとに説得される理由は違うんだということを意識するようになりました。例えば、契約書の戻しがあったときに、それが現場の理屈なのか法務なのかを判断して、それぞれが納得できる回答を模索できる。

それらの意識や判断は、やっぱり現場を肌で知っているからスムーズにできることだと思っています。

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