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Takram田川欣哉氏が描く、越境してユーザーと向き合うスキルセット

Takram田川欣哉氏が描く、越境してユーザーと向き合うスキルセット
Photo: 印南敦史

クリエイティビティは製品・サービスのデザインや広告コミュニケーションを含む広範な領域におよぶものだと主張しているのは、『イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き』(田川欣哉 著、大和書房)の著者。

そのため本書においても、イノベーションを生むためのスキルとして、「デザイン」にフォーカスしているのだそうです。

デザインは、テクノロジーと人間のあいだをつなぎ込む、境界線の潤滑油のようなものです。

(中略)デザインの力が注目を集めるようになったのは、インターネット以降、企業がエクスペリエンス(体験)を通してユーザーと向き合う必要が出てきたからです。そして、このエクスペリエンスをつくるのがデザインの仕事だからです。

人間とテクノロジーとの境界面にデザインが入り、良質なエクスペリエンスが実現されることで、人ははじめてテクノロジーを生活の中で活用できるようになります。(「はじめに」より)

たとえば、最先端のスマートフォンを例に考えてみましょう。

もしも基盤やバッテリー、画面、センサー類、スイッチなどがむき出しの状態になっていたとしたら、現実問題としてそこから満足感を得ることは困難ではないでしょうか?

いいかえれば、そこに良質なデザインがあるからこそ、有効なツールとして成立するわけです。

著者がデザインのことを「テクノロジーやビジネスの大切な伴走者」だと表現しているのも、そんな理由があるから。

いまやデザインなしでは成功できない時代であるだけに、ビジネスパーソンやエンジニアがデザインを理解し、活用することが重要だというのです。

そして、そのことを理解するうえで大きな意味を保つのが「BTC(ビジネス×テクノロジー×クリエイティビティ)トライアングル」なのだとか。

果たしてそれは、どのようなものなのでしょうか?

きょうは本書の根幹をなすその部分に焦点を当ててみたいと思います。

ビジネスモデルの地殻変動

アップルやグーグル、ネットフリックスなどの成功例に明らかなとおり、インターネット時代が実現した大きなビジネスの変化は、つくり手と消費者とのあいだのつながり方の変化です。

たとえばICレコーダーを買おうとした場合、ひと昔前であればユーザーは家電量販店に足を運び、説明を聞いたりしながら商品を選ぶ必要がありました。

そしてお金を払うことによって所有権を得て、あとは壊れるまで使ったわけです。

つまり単発の決済が終了した時点で、売り主と消費者の関係性が切れるということで、これが従来の「売り切り型」ビジネス。

この場合、提供者である企業にとっての目的は売ることですから、その目線は「ユーザーが商品を購入するまでのタイミング」に集中することになります

そしてお金を払った時点でメーカーとの接点が切れる以上、使ってみて多少の不満が残ったとしても、多くのユーザーはメーカーに不満を訴えるようなことはせず、「こんなものか」と気持ちを切り替えてとりあえず使い続けます。

したがって、ユーザーのリアルな声はメーカーに届きにくいわけです。

マイクロソフトのOfficeやアドビのPhotoshopのようなソフトウェアも、以前は大半のユーザーが量販店で購入していました。

しかし売り切り型は価格設定が高いため、ユーザーは元を取るまでソフトウェアを乗り換えずに使い続けたのです。

ところが、そんなソフトウェアでさえ、いまやSaas(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)化されています。

完成品を一括購入するのではなく、月額の使用量を支払う「サブスクリプション型と呼ばれるビジネスモデルに移行しているのです。

サブスクリプション型の大きな特徴は売り切り型と比べて圧倒的に乗り換えがしやすい(スイッチングコストが低い)ことです。乗り換えがしやすいということはインターネット以降のプロダクト・サービスの常識です。

それは、収益性を保つ上で「一度買ってもらうこと」だけでなく、「長く使い続けてもらうこと」が最優先課題になったということです。(15ページより)

ご存知のとおり、サブスクリプション型ビジネスはあらゆる産業に拡大し続けています。

そのため企業には、顧客の課題を解決し、使い心地がよく、かつ企業哲学を体現したようなプロダクトとブランドをつくることが求められているのです。

なぜなら、そうしたことを通じて初めて「長く使い続けられる」というゴールが達成されるからです。(12ページより)

BTCトライアングルとは?

このようなプロダクトとブランドを育てるために必要なのは、「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティビティ」の3領域を有機的に結合させること。

この3領域が結合した状態を「BTCトライアングル」と呼んでいるという著者は、これこそイノベーションを生み出す組織の理想型と考えているのだそうです。

そして、こうした分野の統合を担う人材が「BTC型人材」、そのような人材を有した組織が「BTC型組織」。

現代においては、ひとつひとつの専門領域では太刀打ちできないような、複雑で複合化した課題が増えてきています。

そこには、なにが課題なのかがわかりにくかったり、そもそも答え自体が存在しないような厄介な課題すら存在するでしょう。

そのため世界中のイノベーション企業は、そうした複雑な課題に挑むため必死にもがいているわけです。

こうした複雑な課題を解くためには、従来の経営にみられる要素分解的なアプローチではなく、分野越境型の総力戦が必要となります。

もしデザインの領域が弱いのであればそれを補う必要がありますし、専門領域のあいだにそびえる高い垣根を取り払い、新結合が起きやすい状況をつくる必要があります。(16~17ページより)

事実、これまでにも世界中の研究者や実践者が、「どうやったらイノベーションが起こせるのか?」という問題に対してのさまざまな方法論や考え方を、時代の流れに合わせて提示してきました。

そのいっぽう、デジタルとAI時代の到来によって、イノベーションについての考え方も目まぐるしく変化し続けています。

そんな状況だから、イノベーションを生み出す組織の理想型としての「BTC組織」、そしてその構成員である「BTC型人材」の役割が大きくなっていく。著者は本書を通じ、そう訴えているのです。(15ページより)


本書では、デザインを「課題解決のためのデザイン」と「スタイルやブランドをつくるデザイン」の2つに整理しています。

そうすることで、ビジネスパーソンやエンジニアが、デザインをどう理解し、身につけていけばよいのかを解説しているわけです。

テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通する著者は、さまざまなプロジェクトにおいてBTCの理想的な融合を実現してきた実績の持ち主。

そうしたバックグラウンドがあるからこそ、本書における主張には強い説得力があるのかもしれません。これからの時代を生き抜くために、ぜひ参考にしたい一冊です。

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Source: 大和書房

印南敦史

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