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「アイデア」はこの時代の貨幣。クリエイティブな頭を鍛える練習帳

「アイデア」はこの時代の貨幣。クリエイティブな頭を鍛える練習帳
Photo: 印南敦史

私たちは流動的かつ国際的でなければならない。一つの分野に留まらず、複数の分野にまたがることが求められる世界に対して、私たちは備えなければならない。専門という概念はぼやけ、重複していく。そこには地図のない巨大な渦。かつて変化というのは2から3世代の間に起きるものだった。グーテンベルグの活版印刷技術を西洋文明が吸収し終わるまでには何世紀もの時間を要した。

現在、変化は瞬時に起きる。コンピュータ、インターネットその他のテクノロジーが、心配になるほどの頻度で世界の秩序を変えていく。新しい製品やサービスを創出するクリエイティブな頭の持ち主が、経済を回すのが今という時代なのだ。(「イントロダクション 生きていますか?」より)

「クリエイティブ」の練習帳ーー発想力をとことん鍛える100の難問』(ロッド・ジャドキンス 著、島内哲朗 訳、フィルムアート社)の著者は、こう主張しています。

世界有数の芸術大学であるセントラル・セントマーティンズ・カレッジで、15年にわたりクリエイティブな思考法を教えているアーティスト、作家、教授として活躍する人物。

しかし、そのような未来でうまくやっていきたいのであれば、気づかなければならないことがあるのだともいいます。

この時代に流通する貨幣はお金ではなく、データでも、注意力でも時間でもなく、「アイデア」だということ。

つまり、映画、書籍、音楽、建物、ファッション、ありとあらゆるビジネスなど、文化のなかに存在するものはすべて、最初は誰かの脳内に生まれたひとつのアイデアだったわけです。

だとすればそれは、アイデアには革命が起こすことができ、社会が向かう方向を変えることができると証明していることになるでしょう。

「アイデアの人」になるためにすべきこと

そしてもうひとつのポイントは、世の中を変えるようなアイデアは、世の中を変えそうもない普通の場所で生まれるということ。

世の中を変えそうにない普通の誰かが、寝室や、車庫、事務所、教室、カフェなどの場所にいたとき、突然湧いて出るものだというわけです。

製造業の時代には、一つ技術を身につければ一生安泰だった。製造業後の今、一つの技術は身につけた途端に古くなる。重要な物事に関わるために必要なのは何か。自分の人生を、そして自分を取り巻く世界を自ら導いていくために必要なのは何か。

もはやそれは熟練した技術ではない。アイデアの人、それは適応力があり、物事を決めつけず、問題解決に長けた、コミュニケーションの達人。発明家/芸術家。そしてエンターテイナーなのだ。(「イントロダクション 生きていますか?」より)

そうした確信があるからこそ、著者は本書を通じ、読者が「アイデアの人」になるために必要な跳躍を手助けしようとしているのです。

その根底にあるのは、オリンピック・アスリートが身体を鍛えるのと同じように、クリエイティブな人も鍛えなければならないという考え方。(もちろん身体ではなく、想像力を鍛えるという意味ですが)。

「アイデアの人」は充足しないものだと著者は主張しています。充足せず、常に新しい方向へと道を拓こうとする。知的で挑発的で斬新な問いを投げかけ、新しい機会を生み出そうとするということ。

よりよい服を、自動車を、病院を、そして世界をつくりたいと、常にうずうずしているものだというのです。

「クリエイティブ」とはなにか?

ところで、クリエイティブを説明することばとして、セントラル・セント・マーティンズでは「知的で楽観的」という表現が頻繁に使われるそうです。

でも、それは一見すると矛盾しているようにも思えます。いうまでもなく、「知的」と「楽観的」は正反対のものだから。

知的な人は現実的であるはず。ものごとを見たままに受け取り、自分の感情的な反応が判断の邪魔をしないように気をつけるわけです。

一方、楽観的な人は妄想的。著者のことばを借りるなら、「春に生まれたばかりの子羊のように跳ねまわり、探検を楽しむためだけに探検する」ということ。

つまり遊び心にあふれる熱意を動力として、不可能を可能にするのが楽観的な人だということになるのでしょう。

しかし、解決不可能に見える問題も少なくない世の中において、果たして知的な人は楽観的であり得るのでしょうか?

クリエイティブな人は、知的でしかも楽観的だ。自分の力でより良い未来が拓けると信じているが、そこには強固なまでの知的な裏打ちがある。

ユーモアと現実に根差した視線と想像力をうまく混ぜながら、クリエイティブな人は文化をより良く変えていこうとする。疑いもせずに消費する代わりに、疑いもせずに創造するのだ。(「イントロダクション 生きていますか?」より)

こうした考え方に基づき、著者がセントラル・セント・マーティンズで教えてきた方法を煮詰めてつくったのが本書だということ。

著者が教えた経験のなかから、特に出来のよい課題を厳選しているのだそうです。

つまり、本書が知的で楽観的な人になるための手助けをしてくれるということ。

読者は本書を通じて目を開き、ピントを合わせ、想像力のスイッチを入れることができるようになるわけです。

デザインの制約をはずす

未来を発明するという行為は、特定の方法に縛られ得るものではないと著者は言います。そこで本書では、あえてデザインというものに制約がないとみなしているのだとか。

本書の練習問題の内容は、広告、包装、イラスト、建築、タイポグラフィ、家具デザイン、遺伝子操作をはじめ、あらゆる分野をまたいでいくことになる。あなたの専門が何であっても、あなたが3歳でも90歳でも大丈夫。

テクノロジー、時間、身体、パワー、そして未来という重要な側面から現代の文化を探求していくために、10のテーマを用意した。

各テーマには10問の問題があり、あなたが複雑な事象を概念化する能力を開発する手助けになるように、デザインの常識を揺さぶるように作られている。(「イントロダクション 生きていますか?」より)

こう言われると、果たしてどのような問題があるのかが気になるところ。そこで例として、いくつかの問題をランダムに抜き出してみましょう。

個性的なチーズおろし器をデザインしてください(19ページより)


『相対性理論』の表紙をデザインしてください(51ページより)


自分の指紋をデザインしてください(143ページより)

これらを目にしてだけでも、予想をはるかに超越していることがわかるはず。

つまり著者は本書を通し、常識を覆して新たなアイデアを生み出すことの価値を動的に訴えかけているのです。


著者が週2回、過去15年にわたって勤務しているセントラル・セント・マーティンズは、ファッション・デザイナーのステラ・マッカートニー、画家のルシアン・フロイド、ミュージシャンのジョー・ストラマー(ザ・クラッシュ)など錚々たる人々を輩出してきたそう。

彼らのような「クリエイティブな人」になるために、本書のユニークすぎる諸問題にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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Source: フィルムアート社

印南敦史

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