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1on1ブームの意外な背景と思わぬ弊害

BUSINESS INSIDER JAPAN

1on1ブームの意外な背景と思わぬ弊害
撮影:今村拓馬

インテルやグーグルなど、シリコンバレーの有名企業が導入しているとして、日本でも近年、取り入れる企業が増えている1on1ミーティング。

上司が部下と1対1で定期的な対話の時間をもつ人材育成の手法だが、「1on1に時間が取られて仕事ができない」「面談と何が違うの?」といった戸惑いの声も、現場から聞こえてくる。

そんな中、いっそ1on1を外注してしまうというサービスも登場。

近年、広まる1on1ブームの背景には、日本の職場で起きたある大きな変化が関係しているという。

多い時で週10人に1on1、自分の仕事は残業に

1on1
毎週設定される1on1も、苦手な上司だと苦痛という声も(写真はイメージです)。
shutterstock.com

「人間関係や上司とのコミュニケーションに悩む若い人が多いので。毎週必ず全員と1on1をしていますが、実務もあるので正直、時間も精神力もかなり削られます」

都内のIT企業で働くマネージャー職の男性(40代)は、多い時で週に10人もの1on1ミーティングをしていたという。

1回あたりは10〜15分程度とはいえ、これが毎週、この人数分で決まった時間拘束されるとなると、かなりの重みだ。

もちろん1on1以外にも自分の仕事は、多々ある。

1on1に充てる時間分は、残業するなどしてこなした。某大手企業では「1日中、1on1が仕事」という人もいる。

この会社の場合、1on1ミーティングの1回あたりの所要時間は30分〜1時間。

「それだけやっていればいいなら問題ないが、現場の仕事を抱えている名ばかり管理職の場合は、相当キツい」(30代男性会社員)との声も。さらには

「上司から1on1の時に(Twitterで)転職の話をしただろ、評価下げるからと言われた」

「今日、上司との1on1の日、いやだ……」

とのつぶやきもネット上に飛び交い、こうなるとそもそも1on1は何のためなのか。

目的が迷走している向きも否めない。

もとは人材争奪戦のシリコンバレー文化

Google
シリコンバレーの有名企業で1on1文化が定着していることも、日本では「魅力」。
Reuters Staff

1on1ミーティングの手法は、人材重視のシリコンバレー発祥のカルチャーとされる。

優秀なエンジニアはじめ人材争奪戦となっているシリコンバレーでは、テクノロジーが発達した現代だからこそ、顔をつき合わせたFace to Faceのコミュニケーションを大切にする風潮があるという。

グーグル、インテル、マイクロソフト、アドビシステムズなど、名だたるシリコンバレー企業が1on1導入で知られていることも、日本企業の1on1ブームの一因であることは間違いない。

日本企業の導入で早かったのがヤフーだ。

同社は2012年、経営陣の刷新のタイミングで1on1を導入した経緯がある。

同社コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部で、1on1導入にも携わった吉澤幸太さんはこう振り返る。

「ヤフーで1on1は、すでに当たり前くらいに定着しています。

かつては大きな組織体制変更のタイミングで、オンラインのコミュニケーションは発達したが、対面はどうか。上司と部下の関係はどうか。などと、人材育成を見直す目的で導入しました」

さらに、日本でも1on1のような、こまめな上司部下のミーティングが必要となった理由にはもう一つ、時代の変化があるとの指摘もある。

職場から消えた上司と部下の飲み文化と喫煙所

飲み会
kai keisuke/shutterstock

「職場から喫煙所と飲み会が減ったからです。かつて、上司は部下と定期的に話をする場をタバコや、就業後の飲み屋で持っていました。その代替として今、1on1が必要になっています」

そう話すのは、クラウド1on1サービスを提供するエール代表の櫻井将さんだ。

エールは、企業の管理職やリーダー層向けに「クラウドサポーター」が定期的な1on1を提供する、1on1の外注サービスだ。

「経済が右肩上がりで終身雇用が前提の時代には、部下は上司の言うことを聞いていればよかった。叱られても喫煙所や居酒屋でフォローができました。そのため、1on1のような習慣は不要でした」(櫻井さん)

エールが「1on1の外注サービス」の提供に目をつけたのは、日本企業を取り巻く環境の変化と共に、上司と部下のコミュニケーションが、単純に「上の言うことを聞いていればいい」ではなく複雑化していること。

さらに、こうして1on1のニーズが高まっているにも関わらず「今の日本企業では必ずしもその仕組みが機能していない」と見るからだ。

「今の上司世代には、良質な1on1を受けた体験がありません。体験のない人に1on1をやれといきなり言っても無理があります」(櫻井さん)。

他社の役員や育休中女性が1on1の相手に

資料
企業向けに1on1を外部サポーターが請け負う「エール」のサービスで、1on1を受けるクラウドサポーターは、大半が副業という。
出典:エール資料

そこで、エールは2013年から「上司世代」に1on1を実施して、1on1文化を企業に根付かせるためのサービスを法人向けに売り出している。

サービス導入企業の社員の1on1を請け負う「クラウドサポーター」には、一線で活躍するビジネスパーソンの副業目的の人や、経営やマネージャーなどの経験をもつ育休中の女性、経営者層が登録。

AI(人工知能)で相性のいいサポーターを選出し、週1回30分、電話での1on1を実施。

社員1人あたり1カ月3万円で提供している。

現在、野村総合研究所(NRI)、日清食品、ライフネット生命、グロービスなど大手企業も含めて約20社が導入しているという。

しかし、そもそも1on1は、社内事情を知らない外部の人とでも機能するのだろうか。

これについて櫻井さんはこう説明する。

「1on1で対話する目的には、業務やスキルにまつわる相談と、仕事やキャリアをめぐる悩みや相談の2種類に大別されます。前者は事情の分かっている社内でやるべきですが、後者は共感や傾聴と言ったコミュニケーションが有効」

同じ会社で1on1サービスを一定期間利用した社員と、していない社員とではエンゲージメントスコア(会社に対する愛着度)で、1on1利用者が高くなるとの結果も出ているという。

変わる日本の職場事情、上司と部下の関係

「強く言いすぎたかなと思って若手をその後、飲みに誘ったら、きっぱり断られた」(50代管理職)

「もっと相談したいのに職場がドライで、上司とランチに行くこともない」(20代会社員)

など、すれ違いがちな現代日本の職場の人間関係。外注サービスまで受けるかは、見方も分かれるところかもしれない。

ただ、1on1をめぐる試行錯誤も、新たな関係づくりを模索する現代の職場事情の、一つの象徴なのかもしれない。


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Image: 今村拓馬, Reuters, shutterstock.com

BUSINESS INSIDER JAPANより転載(2019.10.04)

(文・滝川麻衣子)

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