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耳は、目よりも感情を汲みとる。活気を帯びる「音声メディア」の魅力と可能性|塚越健司×武田俊

耳は、目よりも感情を汲みとる。活気を帯びる「音声メディア」の魅力と可能性|塚越健司×武田俊
Photo: Yutaro Yamaguchi

音声メディアが存在感を高めています。

ラジオでは「radiko」の会員数は右肩上がり、また、Appleの「Podcast」以外にも、声のブログとも称されるボイスメディア「Voicy(ボイシー)」や、書籍の読み上げサービス「audiobook.jp(オーディオブック・ドット・ジェーピー)」など、新しいサービスも活発です。

なぜ今、音声に注目が集まっているのでしょうか。音が持つ可能性や未来について、編集者でありラジオパーソナリティの武田俊氏と、情報社会学の研究者で「Screenless Media Lab.(スクリーンレス・メディア・ラボ)」のリサーチャーでもある塚越健司氏の対談から読み解きました。

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塚越健司

1984年生まれ。拓殖大学、学習院大学非常勤講師。Screenless Media Lab. リサーチフェロー。専門は情報社会学、社会哲学。単著に『ニュースで読み解くネット社会の歩き方』(出版芸術社)、『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)。その他共著多数。他にメディア出演、記事寄稿等多数。

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武田俊

1986年、名古屋市生まれ。メディアリサーチャー、編集者・文筆家。法政大学文学部日本文学科兼任講師。JFN「ON THE PLANET」月曜パーソナリティ。大学在学中にインディペンデントマガジン『界遊』を創刊。2011年、代表としてKAI-YOU,LLC.を設立。同社退社以降カルチャー・ライフスタイル領域のメディアを中心にリニューアルや立ち上げを行い、編集長を歴任。メディア研究とその実践を主とし、様々な企業や自治体のメディアを活用したプロジェクトにも多数関わる。右投右打。

耳から情報を得る音声メディアは、「納得すること」と「ながら体験」に向いている

――最初に、お二人がどのように音声メディアと関わっているのかを教えて下さい。

武田:JFN系列の各局で深夜1時から全国生放送されている『ON THE PLANET(オン ザ プラネット)』という番組で、4月から月曜パーソナリティをやらせてもらっています。あとは、作品配信サービス「note」で音声の日記をアップしていますね。

――なぜ音声で日記を?

武田:周りに美大出身のアーティストが多いのですが、彼らは作業中によくラジオを聴いています。絵を描いたりデザインを考えたりするのに、音は邪魔になりません。そんな様子を見ていて、日記を声でつけたらどうなるか試してみようと思って。正直、書く方の日記はなかなか続かなかったというのもあります。noteのアプリを使えば、スマホのボイスメモからダイレクトにアップできるので、5分で完了するんです。

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武田俊
Photo: Yutaro Yamaguchi

塚越:ぼくは情報社会学を研究していて、大学の非常勤講師です。縁があってTBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』(2019年3月に終了)や『荻上チキSession-22』『文化系トークラジオLife』などの番組にも関わらせてもらっています。またこの度、TBSラジオが設立した「Screenless Media Lab.(スクリーンレス・メディア・ラボ)」にもリサーチャーという肩書きで参加しています。

「Screenless Media Lab.」は、音声メディアの可能性を探求し、その成果を広く社会に還元することを目的とした研究所です。スマホの普及で、目から入る情報はかなり増えており、脳に負荷をかけています。しかし、なかには、本来、耳を使った方が適切なものもある。耳で代替できるものは代替したほうが、クオリティ・オブ・ライフが充実するという観点から、音声の可能性を探っています。

――目からの入力に比べて、耳からの入力、つまり音が優れているのは、どういったところでしょうか。

塚越:たくさんありますが、ひとつ挙げるなら、本を読むより納得感があると言えます。これまで、人の印象を形成する情報は、聴覚よりも視覚の方に優位性があると思われていました。しかし昨今の研究では、聴覚の方が人の印象を理解できると指摘されるようになっています。聞こえてくる声のトーンやスピードから、その人が信頼できるかどうかを判断したり、納得感を得ることができると思います。

武田:先ほど、アーティストが作業中にラジオを聴く話をしましたが、ながら体験ができるのも音声のメリット。今は、あらゆるメディアサービスの可処分時間争奪戦のなか、ながら体験には優位性があると思います。

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塚越健司
Photo: Yutaro Yamaguchi

塚越:ながら体験は、確かにメリットです。テレビにかじりつくのとは異なり、聴覚は聞き流しながら別の作業に集中することもできるし、ほかの作業を行わずにしっかりと音だけに集中することもできると思います。

武田:ラジオで言えば、ユーザーが聞き方に濃淡つけられるということですね。

塚越:ぼくはそう理解しています。

ラジオが持つ親密さは1対1の擬似的なコミュニケーションにある

――音声メディアの代表格といえば、やはりラジオです。お二人ともラジオに関わっていますが、メディア特性としてどのような印象をお持ちでしょうか。

武田:よく言われることですが、より双方向性や親密さを感じました。ぼくは元々、編集者だからかもしれませんが、書籍にも似ている部分があると思っています。書籍は、著者を通して作品世界に触れる1対1の擬似的なコミュニケーション。ラジオは、それをパーソナリティが代替している。

もうひとつ重要なのが、「検索が不可能である」ということ。もちろん、文字起しをして記事にしている媒体もありますが、基本的にぼくの番組は生放送で、radikoのタイムフリー機能を除けば、その時間、そこにいる人間しか聞いていない。そこでしか伝わらない話題や空気感を伝えることは、ラジオが持つ温かさにつながっている気がします。

――そこでしか伝わらない空気感といえば、深夜放送が顕著ですよね。パーソナリティにはもちろん、同じ番組のリスナーだとわかると、その人にも親密さを感じます。

塚越:ラジオが親密さを生み出している理由には、音声だけという点も大きく影響しています。

あるビデオを「映像+音声」「映像のみ」「音声のみ」という3つのバージョンに分け、実験参加者にその中のいずれかを見せ、ビデオの登場人物の感情を当ててもらう…という実験を行ったところ、最も正しく感情を理解したのは「音声のみ」だったという研究結果(※1)もあります。

※1:参考記事 Screenless Media Lab. 音声では嘘をつけない?ーー音声による感情伝達について考える / note

笑いながら本当は怒っているように、表情(映像)からは感情がわかりづらい一方、音声だけの方が、微妙な感情を想像して汲みとることができたのです。つまり音声は嘘がつきづらいとも言えるでしょう。ラジオパーソナリティは当然、声だけ。リスナーはそこからいろいろなことを想像して、結果として親密度が高まっているのかもしれません。

武田:確かに、プロ野球の中継をテレビではなくラジオで聴くファンもいますよね。「打った~、伸びる~、いくか?フェンス直撃!」みたいな実況から想像する楽しみがあるのだと思います。

――武田さんは今年の4月からパーソナリティを始めましたが、難しいと感じたことはありますか。

武田:話し方ですね。深夜番組なので、落ち着いたトーンで話していたら「メリハリがなくて眠くなる」というメッセージが長距離ドライバーの方から送られてきて…。そこからメリハリを意識したら、徐々に話し方がFMっぽくなりました。

よく、AMっぽいとかFMっぽいしゃべり方とかいいますが、聴き取りやすく、眠くならないように抑揚や強弱をつけると、FMっぽくなっていく。そういう意味では、これはFMというメディアで話すマナー、機能美的なものかもしれません。しっかりと聞いてもらうための口調で、格好つけて話しているだけじゃなんですね(笑)。

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Photo: Yutaro Yamaguchi

塚越:聞いてもらうという観点では、選択的聴取(※2)という面白い話があります。これは、カクテルパーティー効果のようなもの。うるさいパーティー会場でも、自分の名前は聞こえます。これは、脳が無意識のうちに聞く音を判断しているから。自分が好きなモノや興味があるものは、聞こえやすいわけです。

※2:参考記事 Screenless Media Lab.私たちが聞かずにはいられない音とは何かーー「選択的聴取」を考える / note

ただ、それ以外に誰もが必ず耳に入る音があります。それは、赤ちゃんの泣き声。赤ちゃんの泣き声は、自分に迫る危険を知らせる信号音のようなものです。その音が誰にでも聞こえるというのは、種を残すためにDNAに組み込まれているからかもしれません。

こういった、人がつい聞いてしまう音を上手く使えば、意図的に音を聞かせることができますね。緊急地震速報などは、まさにそれにあたると思います。

音声メディアは学習や思考の手助けとして活用されるべき

――ラジオを始めとして、音声メディアが盛り上がっている風潮があります。なにか注目している音声メディアはありますか?

塚越:アメリカでは、Podcastなどの音声配信サービスが増えており、注目されています。日本と異なりラジオドラマも多く、コンテンツの幅も広いです。そもそも、アメリカでは昔からオーディオブックという伝統がありますからね。学習に使っている人も多い。

なぜ音は学習に向いているのか。これには理由があります。人は、無意識のうちに考えていることを頭のなかで再生しています。本を読むと、①まず内容を音に置き換えて②その音から文章の意味を理解して③文章について考える

つまり内容を理解して考えるまでに3ステップ必要なわけです。一方、音で聞くと、①の「内容を音に置き換える」ステップを省くことができる。その分、②の理解と③の思考に脳を使うことができます。

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Photo: Yutaro Yamaguchi

そういった意味では、本は音読したほうが頭に入ります(※3)。古代ギリシャでは、本は基本的に声に出して読んでいました。今のように理論的に分析されていなくても、音の学習効果が高いことを知っていたのかもしれませんね。

※3:参考記事 Screenless Media Lab.読解力向上には音声を聴くことが効果的だーーシャドーイングについて考える / note

武田:誰かと話しながらアイデアを生み出したり、考えを深めたりする人は多いですね。ぼくもそのタイプ。対話が音として入力される分、脳の処理負荷が減って、その分をアイデアシンキングに回せているのかもしれません。

塚越:それでいけば、ラジオを始めとした音声メディアは、テレビなどの映像メディアに比べると「対話」の意味合いが強い。学習や思考の手助けとしても、もっと有効に使われて良いと思います。それこそ、最近はスマホに本や記事を読み上げる機能があるし、ニュースを解説するコンテンツもPodcastに沢山ありますよ。

武田:Podcast以外にも、「Spoon Radio」や「Voicy」といった音声配信プラットフォームが増えていますね。これは、誰でもラジオのパーソナリティになれるようなもの。個人がメディアの受容者から発信者になったということです。

我々世代は、青春時代に2004年頃のブログ元年を体験し、本を出版する以外に意志や思想を文章で表明する場を得ました。その後、2008年頃からTwitterなどのSNSが流行りだし、キャズム(隔絶・壁)越えという声が盛り上がった。

ただ、今のTwitterをみると辛い状態と言わざるを得ない。ブログ、SNSは文章での発信でしたが、今は動画でも音声でも発信できる。この先になにが待っているのか、メディアに関わる人間としては興味がありますね。

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Photo: Yutaro Yamaguchi

視覚情報が飽和している今だからこそ考える、音声メディアのこれから

――音声メディアのこれからについて、どのようにお考えでしょうか。

塚越音響ARに注目しています。GPSや9軸センサーを活用することで、自分の位置情報を精密に計測。そうしたものを利用することで、さまざまな方向から音が聞こえるような仕組み(※4)が可能になります。

突飛な話ですが、TOKYO FMなら半蔵門、TBSラジオなら赤坂、文化放送なら浜松町の方向から音が聞こえてきたり、ハワイにいる恋人と遠距離通話をするとき、ハワイの方向から音が聞こえてきたりする演出も面白い。これらはまだまだ思いつきのアイデアですが、ほかにもいろいろと活用できると思います。

武田:音の聞こえ方では、 音楽家のevala (江原寛人) さんが取り組む「see by your ears.」というプロジェクトがあります。目的は、「耳で視る」という新たな聴覚体験の創出。高性能のスピーカーや音響装置で立体空間の反響などを計算して、映像を見せるかのごとく聴覚をコントロールするサウンド・インスタレーション(空間を一つのアート作品として表現する手法)を行っています。

これは、スピーカーのテクノロジーが進化しているからこそできていること。メディア環境やテクノロジーが進化したとき、一般化する前にクリエーターがエッジの立った使い方をします。そういった使い方は、音声メディアの未来を示唆するものとして期待が持てるし、気になりますね。

塚越:音響ARもサウンド・インスタレーションも、音の可能性を広げる新しい挑戦。未開拓な領域を耕すことは、今後より重要になると思っています。「情報の8~9割は目から得ている」と言われることからも分かるように、テレビやYouTubeに代表される映像メディアの影響力が強いのは仕方がないこと。

音声メディアは、隆盛する動画コンテンツとどう共存するのか、また音声が視覚を代替したり、音声の方が優れている領域をどう開拓するのか、試行錯誤を重ねている最中でしょう。その答えをみつけることも、Screenless Media Lab.のミッションのひとつです。

武田:今日の話では、聴覚はひとつの情報に集中しやすく、かつ、コミットメントの濃淡をユーザーが決めることができるという特性があることがわかりました。では、それがどう発展していくのは、正直わかりません。

コンテンツレベルで言えば、おそらく、これまでの映像メディアが辿ってきた、個の発信とマスの発信が結びつきあった中間領域みたいなものができると思います。ただ、音声メディアは、映像メディアほど氾濫しないのではないでしょうか。もう少し、健康的に発展してくれることを期待しています。

映像メディアに関わっていたぼくですら、スクリーンタイムを減らしたいと思っている。本当に好きなものだけを見て、雑多なものをなくすのが理想ですが、どうしても目に入ってしまう。音声の良質なコンテンツ、あるいはプラットフォームができることで、相対的にスクリーンタイムが減って、メディア体験が全体的に向上したら嬉しいことです。

塚越:映像メディアによって視覚情報が飽和している段階だからこそ、音声メディアが相対的に注目を浴びているとも言えます。人間の身体機能や音にまつわる最新技術などを深掘りすることで、よりよいメディアの利用を考えていく必要がありますね。

※4:参考記事 Screenless Media Lab.音が聞こえてくる位置をデザインする最新技術とはーー「方位知覚」を考える / note

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Source: Screenless Media Lab./note

Photo: Yutaro Yamaguchi

林田孝司

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