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BLIND BOOK CLUB

脱・キャリアポルノ。ビジネス書をハックする『自己紹介2.0』で自分を拓く

脱・キャリアポルノ。ビジネス書をハックする『自己紹介2.0』で自分を拓く
Photo: Mika Nakayama

さまざまな方に思い入れのある一冊を選んでいただき、本のタイトルも著者も明かさずお届けする「BLIND BOOK CLUB」。

今回、選書いただいたのは、今年5月にKADOKAWAから『たった1分で仕事も人生も変える 自己紹介2.0』を刊行した&Co.代表取締役でTokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石崇さんです。

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Photo: Mika Nakayama

「はじめまして」の名刺交換。そのとき、自分を何と表しますか。

会社名を乗せたり、職種を述べたり、人によって様々でしょう。

この「よくある光景」を漫然とこなすのではなく、ただしく“自己紹介”だと捉えてみることで、自分の行動がすこし変わるかもしれません。

横石さんは20年近くにわたって企業ブランディングや組織開発、人材育成をはじめ、多数のプロジェクトプロデュースに従事してきました。

また、「新しい働き方」というテーマで毎年開催する働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」の発起人であり、オーガナイザーを務めています。

国内外の働き方に目を向けてきた横石さんが、ビジネスのアップデートを図るべく着目したのが「自己紹介」でした。その根底を考えるのに、横石さんは「信用と信頼」というキーワードを挙げています。

以下は、本書の61ページより。

・名刺交換=信用の確認

・自己紹介=信頼の創造

似て非なる、信用と信頼。その差の理解は、ビジネスパーソンならばインストールしておくべき価値観であり、世界で起きつつある変化にも直結する課題でもあると感じさせます。

その点をさらに伺うと共に、横石さんが一冊をまとめて感じた「本」という存在の可能性についても聞いてみました。

自己紹介が「越境」人材の第一歩となる

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Photo: Mika Nakayama

──そもそも「自己紹介」に着目したきっかけはあったんでしょうか。

横石:編集者で、黒鳥社の若林恵さんと自己紹介について話していたら、「初めて出会った時に人は“期待の交換”をしているんだよね。それに自己紹介は、自分を紹介しちゃいけない。自己紹介は、未来を紹介するものだから」と言われて、まるで頭をゴチンと殴られたような感覚になったんです。

それに、新しい働き方との出会いでもある「Tokyo Work Design Week」での体験を合わせて考えてみると、自己紹介は働き方とも接点が多いことに気づきました。

自己紹介を切り口にすれば、面白いものが新たに提示できるチャレンジになるのでは、と。

──新しい働き方として取り上げられる人は、たしかに自己紹介がユニークであることも多いように感じます。

横石:数々のトークイベントやワークショップを通じてみても、「肩書き」や「役職」で勝負をせずに、人格や能力、個人的な「好き」や「きらい」のパワーを仕事へぶつけている方たちから、よく面白い印象を受けますね。

今はそのように、自分の専門領域だけに留まらない動き、言わば「越境」していく力が求められているとも感じます。

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Image: 『たった1分で仕事も人生も変える 自己紹介2.0』(KADOKAWA)

「アートがわかるエンジニア」「ビジネスに精通するクリエイター」といった2つ以上の領域に精通している人材の希少性が高まり、個人のキャリアを考える上でも大切になってきています。

たとえば、有名な大学を出て、学んできた分野だけをベースとして優劣を意識する世界は、確かに今までもあったかもしれない。

それがもう少し、キャリアもその人の能力も、野菜でいえば「形が不揃い」でもよくなってきている。というより、その人の凹凸が「個性」として認められるバックボーンが、ようやく整ってきたと思っています。その人のあるがままを受け入れることができる時代です。

だからこそ、肩書きや名刺だけでなく、自分の信念みたいなことを仕事で問うてもいいのではないだろうか、と考えるんです。

きっとこの本は3年前なら書けなかったし、受け入れられなかったはずです。リンダ・グラットンの『LIFE SHIFT』(2016年)を始め、様々な新しい働き方にまつわる提言の積み重ねがあったからこそ、今になって響く内容なんですね。

支援するテクノロジーもそろってきたし、「働き方改革」という後押しも出てきた。

文化的にも社会的にも変化が起きて、制度やシステムの枠組みを越えていけるような機運が出てきているのは間違いありません。

それに、終身雇用制度をはじめあらゆる分野で制度やルールのOS(オペレーティングシステム)が劣化してきてもいる。

自己紹介に限らず、会議でも、採用でも、みんなでアップデートをかけていく動きがもっと出てくると、さらに面白くなるはずです。

──その意識変化のとっかかりとして、自己紹介はとても変えやすいポイントです。

横石:自分自身で作り込めますからね。とはいえ、僕はずっと自己紹介に苦手意識があったんです。

つい、過去にやってきたことを話してしまうものなのですが、そうすると「君の過去はわかった。それで、何がしたいの?」と返される機会が結構あって…。自分にしたら小さな衝撃なわけです。「自分は何がしたいんだろう?」と。

それにうまく答えられなかったから、自己紹介を研究したという経緯もあります。

自己紹介について考えることは、どういったキャリアを積むか、どのように行動していけばいいのか、という問いにもつながる。その面白さに気づいてもらえれば、この本はひとつの成功を見たといえます。

──自己紹介を変えると、具体的にどんなことが起きますか?

横石:まずは、相手の期待に乗りやすくなります。言い換えると、自己紹介によって、相手からの客観的な期待を適正な状態にコントロールできる。「期待のマネジメント」の第一歩なんですね。

単なる名刺交換は「信用の確認」でしかありません。それに比べて、自己紹介は「信頼の創造」であり、上手な人ほど、相手に正しく期待をしてもらえることに注力していますね。

信用だけでは越境できない。「愛ある信頼」が拓くキャリア

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Photo: Mika Nakayama

──信用と信頼の違いは、本書でも繰り返し触れられています。これまでの日本社会は、どちらかといえば「信用」に重きを置いてきたはずです。その点も変わりつつあると。

横石:英語では両方とも“Trust”と訳されていて、区別がついていません。ただ、僕は意味が異なるはずだと、ずっと引っかかっていました。

信用は、どちらかといえば左脳的で評価基準がある。数値化や指標化しやすくてデジタル的ともいえる。中国で「信用度スコア」を国民に付けるという話がありますよね。

ただ、個人的には人間が数値で判断されたり、それを元にマッチングが最適化されていったりするのが当たり前の社会は、どうも居心地が悪い。

それは信用を敵対視しているわけではなく、そちらに偏って突き進むのに抵抗したい思いがあるんです。

ある種のアナログさを持つ、数値化されない信頼の世界をちゃんと愛したい、というか。そういう世界を残しておきたいのは、この本を書きながら思ったことです。

──信頼は、愛のかたちでもある。

横石:SNSをやっていたら信用度スコアの危うさは感覚的にわかってきませんか? この世界へ突き進むほど、不安に思えてくる感じ…。

──わかります。肩書きが信用から来るものなら、そちらに傾きすぎてはいけないことも。

横石:どうしても、便利ですし、深く考えなくてもいい「枠」にはまってしまいますからね。

大企業に勤めていたら家を借りやすいとか、フリーランスではローンが組めないとか、いろいろあるけれど、その人の所属ひとつで人間の在り方を決めるような時代でもないはずですし。

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Photo: Mika Nakayama

──信用の異なる積み方があればいいのでしょうか。

横石:信用だけに傾きすぎると越境しづらくなる可能性がある。信用度が監視されている状況だと、冒険しないほうが信用も傷つきにくい。

失敗することに過敏になってしまうと、新しい価値は創造できなくなるはずです。

たとえば、信用のない人でも信頼は生み出せます。逆に、信頼できないけれど信用だけがある人もいる。そこは棲み分けて考えると、自分の仕事観も反映されるはずです。

「人脈を広げる」というお題のもとに名刺交換が好きな人も世の中にいますけれど、それも信用と信頼の違いで理解してみると、どういう行為なのかが見えやすい。

僕としては、損得などではなく、新しい出会いと一つずつ向き合っていくほうが健全なんじゃないかなぁ、と感じます。

──企業名や肩書は信用を表すにはわかりやすい尺度で、名刺はそれを載せるツールとしては便利だった。でも、だからといって本来的には信頼まで直結はしないですものね。

横石:それに、名刺交換だけだとお互いに「越境性」を発揮しにくいでしょう。

信用ベースに基づいて判断すると、「彼に期待して任せてみよう」といった新しさが生まれづらくなる。

もちろん信用も大事だし、名刺交換も大事なんだけれど、そこには自己紹介で価値をプラスできることが、きっとまだまだあるはずなんです。

書店の棚をハックして、より多くの人に届ける戦略

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Photo: Mika Nakayama

──ただ、本書は冒頭で「自己紹介のハウツーは書かれてい」ないと言い切っていますね。表紙だけで見れば、煽り文句を含めて、それらが詰まっていそうな印象も受けます。どうしてこういった体裁を?

横石:僕が初めてまとめた本の『これからの僕らの働き方:次世代のスタンダードを創る10人に聞く』は、熱狂してくれる読者がいてくれた反面、遠く離れた人たちにまで渡ったかというと、そうとも言い切れなかったんです。

もっといろんな人に見てもらうにはどうしたらいいかと考えたとき、全国各地の書店にもある「ビジネス書」や「仕事術」に類される棚をハックすれば、もうちょっと届きやすいのかもしれないと考えたんです。

そこで、今回の執筆依頼が来たときに「ハウツー本は書かない」と了承をもらったうえで、タイトルと表紙だけは担当編集者におまかせしました。

──だから、限りなくビジネス書に近くなっていると。

横石:内容にしても、自分自身に酔ったような成功事例ばかりを並べるのは僕の役割ではないと考えました。むしろ、出会った人や知り合いの発言と思想を混ぜながら、これからの働き方についての展望をまとめていきたかった。

構成は何度も練り直して、言わば「DJみたいに」作った本です。

ただし、新しい地図を作って提示するだけでなく、その地図を手にちゃんと旅に出られるような手ほどきとしての自己ワークも含めています

読書と思索を経て、自己紹介をひとつのギアとして使ってもらえるようになったら嬉しいですね。

本という「抵抗のための装置」で、自己紹介をアップデートする

──さらに、横石さんには「BLIND BOOK CLUB」の取り組みでも選書をしていただきました。

「自分を見つけるための絵本」というテーマで3冊を挙げていましたが、どういった基準で選ばれましたか。

「絵本」を選ぶという行為そのものが、本書で触れられる「マルチキャリア時代の学び直し」、「越境する力」といったテーマに関わってくるような気もします。

横石:僕には3歳になる娘がいるのですが、よく絵本を読み聞かせするんです。声色変えてみたりとか、自分で物語を作って読んでみたりといったフィジカルさが好きで。

特に絵本を読みながら思うのですが、この体験は他には替えがたいし、ネットでは得にくいものです。それが実感できる3冊を選んだつもりです。この3冊ですが、それぞれ自己に気づくパターンが異なります。

コース料理でいう前菜から口直し、メインディッシュとつながるように意識したので、ご案内した順番で読むのがおすすめですね。

■BLIND BOOK CLUBとは

「BLIND BOOK CLUB」は、様々なジャンルの第一線で活躍している方にテーマに基づいてご自身の人生において影響を受けた本を紹介いただき、それらの本をタイトルも著者の名前も明かさずにお届けすることで、アルゴリズム過多の時代に「本との偶然の出会い」を演出するサービスです。

仕事や暮らしのなかで抱いているもやもやが解消されたり、知的探究心を満たしたり、ストーリーや文章の一節に心が動いたり。選者とテーマの掛け合わせによって受け取る体験もちがうはず。その人がその本を選んだ理由の書かれたメッセージとともに読み進めていただけたらと思います。

>>BLIND BOOK CLUBのプロジェクト一覧はこちら

──先ほど「ある種のアナログさを持つ、数値化されない信頼の世界を愛したい」とおっしゃっていましたが、最近、知識や情報を得るのにwebではなくあえて本を頼る、といった流れが起こっているように思います。一冊まとめきって、「本」という存在の捉え方に変化はあったでしょうか。

横石:この本のきっかけをくれた若林恵さんの言葉を再び借りますが、以前に「本は抵抗するための装置だ」と話してくれたことがあります。

それを踏まえると、信用度への偏重や社会のデジタライズ化に対する抵抗という意味において、この本は確かに抵抗する装置だと思っています。

最近はビジネス書や自己啓発本の一部を指して「キャリアポルノ」とも表します。要は読むだけで自分が成長した気になって、何も行動につながらない類の書籍群です。

この本を作る時に、そうはならないようにしたかったというのは、かなり意識したところですね。

もうひとつ面白かったことは「完結しない本」としての試みによって、良いリアクションがあったんです。

あえてワークシートに対する処方箋を提示しなかったり、SNSでの自己紹介投稿によるコミュニケーションをお願いしたりしてみました。本を読んだだけでは完結させない設計にしたのです。

最近は増えてきた手法ですが、恐るおそる試してみたら反響があって、そこで初めて「本としての円環」が閉じたように感じました

この本は「自分を内側を知る」と「自分を外側へ伝える」と大きく分けて書くことで、自分の違和感にどこかで気づけるような構成になればいいなと思っていました。

どこまで読者のみなさんが良い反応を起こしてくれるかが楽しみです。


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Photo: Mika Nakayama

──面白いですね! SNSはこれまで、円環として閉じたプロダクトである本を、いかに宣伝・流通させるかに使われてきたはずですから。

横石:僕は作家でもないし、ブログさえ苦手なタイプなので、自分で物語を閉じられないだろうと思っていたからこそ出来たかな、と。

自分の思想はありながら、それを語るのが苦手で。いろんな人の言葉を借りてDJのように本をまとめましたが、最後に読んでくれた人の声でちゃんと円環が閉じられた感覚がありました

──そこには横石さんが数多くのワークショップを手がけてきた経験も活きていますか。

横石:僕は、完全にファシリテーター脳です。ワークショップの経験は本書のワークシートにも活きていますし、ファシリテーターという存在は「自分の主張を言わずに、相手に言わせること」が仕事ですから。

たしかに本というものを作っているのだけど、まるで「場」を作っているような感覚がありました。

──本が「抵抗のための装置」だと考えれば、それを持った人がちゃんと発動させないと、抵抗する力になっていきませんものね。

本来的には本だけで完結できないテーマでしょうし、ワークショップやイベントのような場も増えてきた中で、立体的に体験してもらうことによって、さらにアップデートもかけられると思っています。

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Photo: 中山実華

Source: BLIND BOOK CLUB , KADOKAWA

長谷川賢人

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