
さまざまなジャンルの第一線で活躍している方に、テーマに基づいてご自身の人生において影響を受けた本をご紹介いただき、それらの本をタイトルも著者の名前も明かさずにお届けする「BLIND BOOK CLUB」。
今回、自身の人生になくてはならない本を選んでくださったのは、10年もの長きにわたり取締役CFOとして従事した株式会社ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)を50歳で退任、現在は“ジョブレス”な日々を謳歌する篠田真貴子さんです。
大学卒業後、日本長期信用銀行(現 新生銀行)を皮切りに、マッキンゼー、ノバルティスファーマ、ネスレと国内外の名だたる一流企業を経験した篠田さんが心のなかで頼っていた本とは?
まずは選書理由の裏付けとなる篠田さんのキャリアや人生観を、これまでのインタビューや記述をもとにたどってみましょう。
次を決めないまま退職するのは初めて。“ジョブレス”を謳歌中

大学卒業後、「一番はじめに内定をもらえたから」という理由で日本長期信用銀行(現 新生銀行)に入行。
しかし時代は「男女雇用機会均等法」が施行されてまもないころ。社会全体が手探りのなか、自身も女性としてのあり方を考え始めたこともひとつの理由となって4年で退社。
MBAや修士学位を取得するためにアメリカへ留学していたのが1996年から1999年。1998年はインターンで入社していたマッキンゼー・アンド・カンパニーの社員に。30歳のときです。
大学受験、就職、留学と、それまで自分の意志でチャレンジしたことは全戦全勝で、自身曰く「まさに思い上がるしかなかった」篠田さんが、上司から退職勧告を受けるという大きな挫折を味わったのはこの少しあとです。
こののちに2回の転職と2回の出産を経て、「ほぼ日」に入社するのが2008年、40歳のとき。そして50歳を目前に退社。
これまで何度も転職を経験してきましたが、次を決めないまま辞めるのは初めて。現在は“ジョブレス”と言いながら、講演や取材の依頼がひっきりなしです。
人生は12年ごとの周期で考える。いまようやく5周目

30歳、40歳、50歳と、10年を周期に転機を迎えているように見える篠田さんのキャリア。
しかし実はそんな意図はまったくなく、仕事と人生を12年ごとの周期で考えるようにしてきたそうです。
生まれてから12歳までは家庭や社会で生きるために必要な最低限の力を身に着けるとき。
24歳までは「自分とは何者か」と自問自答してもがくとき。
25歳から36歳までは仕事においても人生においても基礎を確立するとき。
そして48歳まではその基礎を応用させて自分なりのスタイルに落とし込むとき。
そして49~60歳という人生の5周目は、自分ならではの人生をキャンバスに描いて表現するとき。
ようやくこの周期を歩み始めた篠田さんは、この先をどう楽しく生きようかと考えているとのこと。
輝かしいキャリアを積み上げてきた人の体験談を聞くと、あまりに秀でた才能や高い上昇志向に追いついていけず、どこか他人ごとに感じてしまうときもあります。
しかし篠田さんの言葉は胸に響き、心にすーっと入ってくるような感覚を覚えます。
「もやもや、ぐるぐるしてしまう頭の中を整理したいとき」の本

そんな篠田さんが選書にあたり、設けてくださったテーマは「もやもや、ぐるぐるしてしまう頭の中を整理したいとき」に読むべき本。
篠田さんが頭の中を整理したいと感じたときに頼ってきた3冊で、書かれているメソッドを実践したこともあるそうです。
(1)書き出すことの大切さを教えてくれる本
「頭の中に浮かぶことを書き出すことによって、考えも気持ちも整理されていきますよ」という趣旨の本。篠田さんはこの本で紹介されているメソッドに1年ほど継続して取り組んでみたそうです。
続けられたのは、ある種の「気持ちよさ」があったから。
毎日の習慣にすると、もやもや・ぐるぐるがひどくなる前にいつでも吐き出せる、考えが次にすぐ進む、そして自己理解が深まる、といったあたりが“気持ちよさ”のポイントです。
メモの形式や書き方が決まっているからこそ得られる自由があるように感じました。
今でも考えを整理したいときには活用しているというメソッドだそうです。
(2)悩みへの回答が秀逸な本
「大企業とスタートアップで迷っています」という悩みから、「いまだに仕事の適性がわからない」といった悩みまで、著者がおもに30代の仕事やキャリアにまつわる相談に答えていく本。
著者の“仕事観”は、私も大いに共感しています。独特の人を食ったようなユーモアあふれる文体で持論が繰り広げられる。
で、油断していると時折、人間への愛と深い洞察に満ちた回答があって、感動してしまう。
とくに「子どもの非行。私生活のゴタゴタで仕事に集中できない」という相談への回答は白眉で、読んでから数年経った今もずっと忘れられないそう。
読みすすめながら「自分の好き嫌いって、なんだろう」と自問できる本です。
(3)「人との関わり」への内省を促す本
同じ本をあまり読み返すことはしないという篠田さんが「10年ほど前にこの小さな本に出会ってから、何度も読み返してきた」というほど頼りにしている本。
今回だけでなく、インタビューや選書する機会で篠田さんはこの本をたびたび紹介しています。
さっと読める軽さがありながら、内容は心にぐいぐいきます。専門用語を使わずフラットなトーンで、自分と周りの人との関係について内省を促してくれます。
ブログでは「コミュニケーションに悩んだ人にすすめようと、ちょっと内容を確認するつもりだったのに、つい思わずじっくり読んでしまった」と書いている篠田さん。
本書が最初に出版されたのは1995年で、文庫版はそれを改題・再編集したもの。約25年近く前の本なのにまったく色あせることのない、篠田さんが心で頼る一冊です。
“大人のドリル”感覚で読んでみたい3冊。読み終えるころにはきっと、もやもや・ぐるぐるしていた頭のなかがすっきりと整っているのを感じることでしょう。
「BLIND BOOK CLUB」で購入した方には、篠田さんによる詳しい選書理由をおつけしてお届けします。

篠田真貴子(しのだ まきこ)
1968年、東京都出身。小学1年から4年までをアメリカで過ごす。慶應義塾大学経済学部卒業、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行(現 新生銀行)、マッキンゼー、ノバルティスファーマ、ネスレを経て、2008年10月「 東京糸井重里事務所(現:株式会社ほぼ日) 」に入社し取締役CFO。2018年11月に退任し、現在は“ジョブレス”な日々を謳歌中。『ALLIANCE(アライアンス)――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ダイヤモンド社)監訳、『仕事と家庭は両立できない?』(NTT出版)で前書きを手掛けている。
「BLIND BOOK CLUB」は、様々なジャンルの第一線で活躍している方にテーマに基づいてご自身の人生において影響を受けた本を紹介いただき、それらの本をタイトルも著者の名前も明かさずにお届けすることで、アルゴリズム過多の時代に「本との偶然の出会い」を演出するサービス。
それらの本を選んだ理由やその本にまつわるエピソードとともにお届けします。
仕事や暮らしのなかで抱いているもやもやが解消されたり、知的探究心を満たされたり、ストーリーや文章の一節に心が動かされたり。選者とテーマの掛け合わせによって受け取る体験も異なるはず。それぞれのセレンディピティをつかまえてみてください。
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Image: Gettyimages
Source: BLIND BOOK CLUB
大森りえ
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