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企業にとって「いてほしい人」と「辞めてほしい人」の差とは?

企業にとって「いてほしい人」と「辞めてほしい人」の差とは?
Photo: 印南敦史

起業家のように企業で働く 令和版』(小杉俊哉 著、クロスメディア・パブリッシング)は、2013年に刊行されたベストセラーの改訂版。

原著から5年半の歳月を経て本書を送り出したことには、ひとつの理由があるのだそうです。

いまや、企業で働くメリットを改めて考え、企業において「起業家のように」働くことは、ごくひと握りの人たちの選択ではなくなってきたということ。

スタートアップ経営者だけではなく、企業で働くにあたっても「起業家」のように考え、働くことが必要だというのです。

企業において、どんどん出世していく人、あるいは、やらされ感なく楽しそうに仕事をしている人は、例外なく「起業家」マインドを持って自律的に働いている。

「起業家」マインド、すなわちアントレプレナーシップが、企業人にも必要だということはさんざん言われてきた。しかし、「で、具体的にはどうすればいいの?」ということに対する答えは提示されてこなかったように感じる。

そこで、これまでに私が組織人事コンサルタントや大学教員としての経験の中で出会ってきた、「起業家」マインドを具体的な行動に落とし込んで仕事を進める「企業人」が、一体どのようにやっているのか、若いビジネスパーソンに伝えたいことを中心に構成したのが、本書だ。(「はじめに」より)

CHAPTER 1「志を持つ」の冒頭「出世しなくていい」に焦点を当て、働くことについての意味を再認識してみたいと思います。

「いてもらいたい人」と「いてほしくない人」の差

企業はかつて、人材が定年まで会社で働くことを前提として人材マネジメントを行っていました。

そのため人材側も、プライベートを犠牲にしてでも懸命に会社のために働いたわけです。会社が自分のアイデンティティであることの証として、出世という目標に向かったということ。

ところが企業はもはや、採用した人材を定年まで雇用することなど前提にはしていません。企業経営に対して貢献していない人材を長期的に雇い続けるほどの余裕はもはやないからです。

もちろん日本企業であれば、いまでも長期雇用を志向しているところも少なくないでしょう。ただし、採用した人員すべてに対してではないのも事実。

企業は、人材が自己成長と会社への貢献を約束してこそ、能力の発揮と成長の機会を提供するという流れになっているのです。

端的にいえば、「いてもらいたい人」には長く会社にとどまって活躍してほしいと願うものの、「いてほしくない人」には辞めてもらわなければならないわけです。

日本企業においても、いまや5%以内の適正な退職率は好ましいと考えられているそう。

そのため企業は、人材が魅力を感じるような仕事やキャリア、職場を提供し続けることが必要になります。

企業と人材は「対等な大人同士の関係」に

かつては「地位」を与えることで人材をがむしゃらに働かせることができましたが、そのためには事業が拡大し、さまざまなポジションが増えていくことが大前提でした。

しかし現代においては多くの産業で需要が縮小し、組織も縮小を余儀なくされています。すると与えられる地位も減るため、誰もが課長や部長になれる時代ではなくなっているのです。

課長や部長にしても、以前は管理職として部門の成果を上げる役割を担っていたものの、いまやプレーヤーとしての自身の成果も求められるようになりました。専任の管理職を置く余裕がなくなったからです。

すなわち、プレーイング・マネジャー。地位を十分に与えることができないため、人材マネジメントにおいて、どのように動機づけを行うかが難しくなったということ。

また、成果主義によって収入に差をつけることも、動機づけの穴を埋めるひとつの方策として機能しています。

企業が責任をとってくれるわけではないため、そこで働く個人は自分でポジションを勝ち取っていかなければならなくなったのです。

そのため人材は、組織ニーズに見合う能力を高めるために自己投資をすることが必要。環境の変化に対応するために絶えず学習し、成長し続けなければならないということです。

なぜなら耐えずインプットし続けないと、アウトプットができないから。しかもそれを会社がやってくれるわけではないので、個人で責任を担わなければならないのです。

だから、出世はしたくないが長く会社で働きたい、というのが「ガツガツと仕事をせずにゆったりと働き、仕事は早めに切り上げ、休みはしっかり取り、プライベートの生活も充実させる、そういう働き方を長く続けたい」ということだとすると、実は非常に都合のいい話なんだ。

会社と個人、双方が努力を続けた結果、長期雇用になれば双方がハッピーということになる。ただ、それは結果であり、前提ではなくなったということだ。(31ページより)

企業と人材の関係は、親子関係から対等な大人同士の関係に変わったのだと著者は記しています。

たいして成果を上げないのに、親のすべをかじっているような社員をおいて置くことは会社にできないわけです。

「キャリア・ビジョン」を持とう

しかし現実問題として日々の仕事をこなしながら、必要とされる人材であるためのアウトプットをし続けることはかなり困難なことでもあります。

仕事で疲れているのに、自ら学習するなどということはできれば避けたいというのが本音だということ。

だとすれば、なにがそのようなインプットをし続ける力になるのでしょうか?

そのことについて著者は、自分が「こうしたい」という目標を持つこと以外にはないと断言しています。

君が高校時代に部活で苦しい練習に耐えられたのは、どうしても関東大会に出て、全国大会を目指したいという目標があったからだったといつか話していたよね。

それとまったく同じことが、仕事においても必要なんだ。(32ページより)

ただ目の前の仕事や、今期の業績を達成することだけに終始していると、生涯ずっとその繰り返しをすることで終わってしまいます。

大切なのは、中長期の自分がこうなりたいという目標、すなわち「キャリア・ビジョン」を持つこと

もちろんそれは人によって違っていいわけで、いまは少数派となった「社長になりたい」というものでもいいでしょう。

あるいはその前に、「事業部長になりたい」「部長になりたい」「課長になりたい」「係長・主任になりたい」という思いもあるはず。

あるいは「この分野の専門家になりたい」「いままで誰も取り組んでいない新たなビジネスを提案して実現させたい」「将来独立して自身でビジネスをしたい」なども考えられます。

そうしたキャリア・ビジョンを持つと、日々の仕事のやり方がそのビジョンを実現することにつながっていきます。なぜなら、やるべきことや、時間の使い方が明確になってくるから。

そして自分の求める働き方をしている人は、このビジョンを強烈に意識している人が多いもの。

なお、中長期のビジョンを意識しつつ短期の仕事に取り組むことを、「バイフォーカル(遠近両用)・アプローチ」というそうです。

起業家の考え方とは?

また著者は、「ワーク・ライフ・バランス」ということばに逆に縛られてしまう人が多いように感じているのだといいます。でも起業家には、そのような言葉はないのだとか。

毎日18時間、1年に360日ほど働くなどということはよくあるものの、だからメンタルの病気になってしまうなどということはないというのです。

理由は明白で、つまり人からやらされているのではなく、やりたくてやっているから

彼らの考えは、「ワーク・ライフ・インテグレーション」なのだ。プライベートも仕事も同じ人間のやることであり、実際には、プライベートの活動やネットワークが仕事にヒントになったり、直接的に仕事に繋がることさえままある。

また、仕事は生活の糧や苦しみの対価ではなく、自己実現や自己成長、世の中への貢献の手段としても機能しているはずだし、そこに楽しみや喜びや遊びの要素だって見つけることはいくらでもできる。

だから、ワークとライフをきっちり分離してしまうのではなく、どうにかしてその2つの接点を見つけること、作ることがとても重要なんだ。(33ページより)

そもそも、いまの企業や業界に入ることを選んだのは、なにか自分自身の興味や関心があったからであるはず

そこで、目の前の仕事から少し離れ、客観的に会社の理念やビジョンを見なおしてみることが大切だと著者は主張しています。

そのビジョンと自分自身との接点を探し、双方を有機的に結びつけ、人生を有意義にしようとする。そんな姿勢でいるほうが、ずっと人生が充実するのではないかということです。


読者に語りかけるような口調は、著者との距離感を縮め、そのメッセージをより身近なものとして感じさせてくれるはず。

そしてそこから感じたことは、「起業家」マインドを持つためにもきっと役立ってくれることでしょう。

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Photo: 印南敦史

Source: クロスメディア・パブリッシング

印南敦史

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