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ひとりの顧客(N=1)をわかるために。マーケター・西口一希さんが選ぶ本4冊

ひとりの顧客(N=1)をわかるために。マーケター・西口一希さんが選ぶ本4冊
Photo: Ryuichiro Suzuki

仕事で行き詰まったとき、自分だけでは解決の糸口が見えないとき、誰だって何かに頼ろうとすると思います。

おそらく。まずは手っ取り早く、目の前のPCの検索ボックスにキーワードを放り込んでみるでしょう。でも、サーチエンジンが示す結果は、必ずしもあなたの知りたいことに全て答えてくれるものではないかもしれません。

次にどうするか? 社内外のその分野で信頼のおける人に意見を仰ぐ、もしくは周りにそういう人が思いつかない場合、本屋に足を運んでビジネス書の棚から目ぼしいタイトルを探すでしょう。

そんな一連の行動をオンラインで行う試みが「BLIND BOOK CLUB」。

さまざまなジャンルの第一線で活躍する人がセレクトする本を、タイトルも著者名も明かさずにお届けることで、今抱えている課題に対して思いがけない方向からヒントが飛び込んでくるような「セレンディピティ」を探るプロジェクトです。

ひとりの分析から始めるマーケティング

顧客起点
Photo: 印南敦史

さて、企業で働く少なからずの人が「マーケティング」の領域に関わっているのではないかと思います。しかし、そもそも顧客とは誰なのか、どう顧客との向き合って行くかに明確な答えがあるわけではない故に、手詰まり感を感じてしまうシーンも多いのではないでしょうか。

そんななか、今回選書いただいたのが、スマートニュース執行役員マーケティング担当・西口一希さん。

まず、西口さんの著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社)を読み解いていきたいと思います。


西口さんはP&Gジャパン、ロート製薬、ロクシタンで物理的な製品を顧客に販売するビジネスを手がけたのち、50代を目前に控えたタイミングでデジタルベンチャーに関わることになりました。

つまり、それまでとはまったく違う世界に飛び込んだというわけです。

しかしご存知のとおり、結果的にスマートニュースは世界で累計4000万ダウンロード、月間使用者数1000万人を突破し(2019年1月)、日本でも最大のニュースアプリとして成長を遂げることになったのでした。

なぜ、そんなことが可能だったのでしょうか? その答えは、西口さんのマーケティングについての考え方にあるようです。

筆者がマーケティングにおいて最も大切にしているのは、一人の名前を持つ具体的な顧客“N=1”を徹底的に理解することです。

名前の見えない複数の誰かではなく、実在する一人のお客様に会って、ブランドとの初めての出会いからこれまでの経験に丁寧に耳を傾ければ、購買行動とその行動を左右する深層心理の関係が有機的に繋がります。

その深い理解と共感を通じて、ビジネスを成長させる「アイデア」が必ず見つかるのです。本書のタイトル「顧客起点マーケティング」には、そうした考えを込めています。(「はじめに」より)。

ひとりの顧客を徹底的に理解することから、有効な策を導き出して拡大展開するという考え方。

さらに対象とする顧客セグメントの人数や構成比(%)の動きを見ることによって、マーケティング投資の効果検証も行おうというわけです。

こうして自社ブランドはもちろんのこと、競合ブランドや狙いたい商品・サービスに関し、簡単に行える調査で競合の顧客分析をすれば、新製品開発にも活かすことが可能。そしてBtoBにも応用が可能だというのです。

しかし、そもそもビジネスを成長させるマーケティング「アイデア」とはなんなのでしょうか?

第1章「マーケティングの『アイデア』とN1の意味」のなかから、基本的な要点を抜き出してみたいと思います。

四象限で定義するアイデア

本書のいう「アイデア」を定義した場合、それは「独自性」と「便益」の四象限で表すことができるそうです。

独自性と便益を備えた「アイデア」があるかどうかが、マーケティング上でのもっとも重要な要素だというのです。

独自性とは、他にはない特有の個性。そして唯一無二と言い換えることもできる、既視感のない特徴のこと。

英語では“Only-one Uniqueness”と表現することが可能であるものの、著者はさらに“Never”の要素が揃っていることと定義しているのだとか。

それは、「見たことのない」「聞いたことのない」「触ったことのない」「嗅いだことのない」「経験したことのない」という、五感で感知したことがない個性

そうしたものに、人は注目するものだというのです。つまり独自性の有無は、注目に値するかどうかで確認できるということ。

一方の便益とは、顧客にとって都合がよく利益のあること。それを利用することで得られる有形、無形の価値であり、たとえば「便利、得、有利、快、楽」などがそれにあたります。

便益は、その商品やサービスが「買うに値するか」「時間を使うに値するか」の判断を左右するわけです。

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Image: ライフハッカー[日本版]編集部 via 『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』

この組み合わせで四象限を描いた場合、図の右上に位置する「独自性」と「便益」を兼ね備えたものを「アイデア」と呼べるということになるわけです。

それは他の象限について考えると、意味合いが明確になるといいます。そこで次に、他の象限を見ていくことにしましょう。(30ページより)

独自性と便益なしで新しい価値は生まれない

右下の、独自性がなく便益があるものは、いわゆる「コモディティ」。

代替性がある商品やサービスのことなので、市場においてその価値は強豪と同等として扱われることになります。マーケティング的に言えば、差別化されていない商品やサービスのこと

左上の、「独自性はあるが便益がないもの」は、買ったり時間を費やしたりする価値がない特徴を備えた、人目を引くための「ギミック(仕掛け)」。それ自体に価値がないため、詐欺的な側面も。

非常に独創的な特徴を、商品そのもののパッケージやテレビCMなどで提案したとしても、それにふさわしい便益を顧客に提供できないなら、一過性のエンタテインメントにすぎないということです。

左下の「独自性がなく便益もないもの」とは、各種のリソースを無駄遣いしている、ただの「資源破壊」

開発にかかる時間や費用、コミュニケーションコスト、そのすべてが無駄になってしまうということ。(31ページより)

この四象限で、独自性と便益の両方がなければ、新しい価値提案とはならず、「アイデア」ではないと考えています。(32ページより)

「差別化」の本当の意味

なお、独自性を持たせることと似たような意味のことばに、マーケティングで多用される「差別化」というものがあります。

アメリカの経営学者であるマイケル・E・ポーターが著書『競争の戦略』(ダイヤモンド社)で使用したもの。

本来は独自性を意図して提唱されましたが、一般的には、競合と同じ便益において「~がより高い、強い、優しい、うるおう、清潔に…」などの比較優位性の意味だと誤認されていると著者は指摘しています。

独自性がなく、比較優位性だけなのであれば、この四象限のコモディティに近い状態で戦っていることになります。だとすれば、ポーターが提唱した本来の差別化の意味とは違ってきてしまいます。

一方、本書で著者が言う独自性とは、あくまで唯一無二な“Only-one Uniqueness”。独自性が弱いと、コモディティ競争に陥ってしまうというのです。

もちろんコモディティ競争も、マーケティングの対象ではあります。しかし圧倒的な成長を達成するためには、商品やサービスの誕生時から、常に「アイデア」を生み出し、提供し続けなければならないわけです。

なお、このことに関連し、著者は稀代のマーケターと言われたスティーブ・ジョブズの発言を引用しています。

「美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい? そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを、見極めることが重要なんだ」。

“When you want to have a date with a girl, are you going to send her 15 roses if you know that your rival is sending her 10 roses? If you would think so, you will be defeated on that moment. Whatever your rival does, is not what matters. What does that girl really want?”(『人生を変えるスティーブ・ジョブズスピーチ』国際文化研究室[編]、ゴマブックス) (33ページより)

たしかに、このことばの意味するものはマーケティングの本質だと言えるのではないでしょうか?(32ページより)


こうした基本的な考え方を確認したうえで、以後は戦略的にマーケットを俯瞰し、顧客特性に応じて分析を行い、「アイデア」と策を導き出して実践するための理論とプロセスが具体的に解説されていくことになります。

さて「BLIND BOOK CLUB」の話に戻すと、今回、西口さんには「顧客との向き合い方に悩んだとき」に読みたい4冊を選んでいただきました。

一冊目は、「絶望的な中でも意思を持ち続けることの大切さ」を教えてくれる、西口さんの人生観にもっとも影響を与えた本。

二冊目は、何度も読み返し、ご自身のマーケティング観の軸となっている本。

三冊目は、「意識」について科学的・哲学的に思索を深めることでマーケティングの幅を広げてくれる本。

四冊目は、この本に描かれる「未来観」に衝撃を受け、デジタルのスタートアップ業界に転職するきっかけとなったという本。

さまざまなカテゴリのタイトルが並びますが、すべての本が「ひとりの顧客」に対峙するためのヒントとなるものです。

これからの時代における「求められるべきマーケティングのあり方」を確認するために、『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』と合わせて手にとってみてはいかがでしょうか?

■BLIND BOOK CLUBとは

「BLIND BOOK CLUB」は、様々なジャンルの第一線で活躍している方にテーマに基づいてご自身の人生において影響を受けた本を紹介いただき、それらの本をタイトルも著者の名前も明かさずにお届けすることで、アルゴリズム過多の時代に「本との偶然の出会い」を演出するサービスです。

仕事や暮らしのなかで抱いているもやもやが解消されたり、知的探究心を満たしたり、ストーリーや文章の一節に心が動いたり。選者とテーマの掛け合わせによって受け取る体験もちがうはず。その人がその本を選んだ理由の書かれたメッセージとともに読み進めていただけたらと思います。

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Photo: 印南敦史 , 鈴木竜一朗

Source: BLIND BOOK CLUB , 翔泳社

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