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年間100本企業パーティに参加する芸人から学ぶ、コミュニケーション術とおじさん考

年間100本企業パーティに参加する芸人から学ぶ、コミュニケーション術とおじさん考
Photo: Yutaro Yamaguchi

仕事をする上で避けて通れない「コミュニケーション」の問題。

これに対する正解なんてものは、ありません。キャラクターもシーンも複雑に絡み合う、人と人との話ですからね。この問題を十把一絡げに語ることはできませんが、少なくとも、「傾向」を見出すことはできます。

“どのクラスにも、1人はやんちゃな人っているよね”という次元の話ではありますが、どんなシチュエーションでも対応できるよう対策を講じることは大切です。

そこで今回は、「会社内でのコミュニケーション」対策を習得するため、この方にお話をうかがいました。いったいなぜ?と思う人がいるかもしれませんが、芸人の中でも、特にビジネスパーソンと接する機会が多い方なのです。まずは簡単にご紹介を。

年間100本企業パーティに参加する芸人・髭男爵 山田ルイ53世さん

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Photo: Yutaro Yamaguchi

2008年に「ルネッサ~ンス」というフレーズで世間を賑わし大ブレーク。昨年は「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞するなど、“作家”という新たな才能を開花させたこの方が、お笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世さん。

この日は7月12日(金)公開の映画『シンク・オア・スイム』の試写会イベントに出席し、MCのブルボンヌさんと軽快なトークを披露。映画のテーマと絡めた企画「ミドルエイジのお悩み相談」では、事前に集まった40~50代の悩みに対し、山田さんとブルボンヌさんがあれこれ意見を言い合い会場を沸かせていました。

最近は講演会やコメンテーターとしてのお仕事も増えているようですが、山田さんの仕事の多くを占めるのは “年間100本”ほど参加しているという「企業パーティ」

乾杯の音頭をとるスペシャルゲストとして、全国津々浦々、様々な年代のビジネスパーソンと出会ってきた山田さん。詳しくは『一発屋芸人の不本意な日常』(山田ルイ53世著、朝日新聞出版)の中で細かく語られていて、長年続けているPodcast番組『髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ』でもほぼ毎週、企業パーティで起こったエピソードをこと細かに語っています。

企業パーティに参加し続け、数々の現場を笑いに変えてきた山田さんは、多忙を極めるお笑い芸人。この日も取材時間は少なかったものの、ターゲットを絞り、前半は会社で遭遇する確率の高い「やんちゃな人」「目上の人」とのトーク技術について、後半は“おじさん”の生体について教えてくれました。

社内のやんちゃな人への対策は「温度差」

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Photo: Yutaro Yamaguchi

「やんちゃな人に対しては、温度差を出してあげるのが一番ですね」、と山田さん。まず確認しておきたいのは、この「やんちゃな人」について。

例えば社内で大きな声を出して笑いをとったり、飲み会で場をしきったり…。これくらいなら問題ありませんが、集中して仕事しているときにめんどうな絡みを仕掛けてくる人や、強制参加の飲み会で「イエーイ!」と近づいてくる人、とにかくテンションが高い人…。あくまでもイメージですが、ここではそのような人たちを「社内のやんちゃな人」としています。

頑張って向こうのテンションに合わせるのは、向こうの土俵に上がっているようなもの。だから、“イエーイ!”といったテンションでやってきたら、むしろこっちはテンションを下げるべきです。

“えっ…?”

って。温度差を演出してあげることは有効ですね。

自然と実行されている人もいるかもしれませんが、「テンションを相手と合わせない」ことが大切だと山田さんは説きます。ご自身も、仕事上で使うシーンがあるのだとか。

芸人同士の絡みとか、ゲストとして番組に出るときとか、けっこうグイグイくる人はいるわけですよ。要は自分のテンポや間で場を仕切っていきたい、喋っていきたいという方。 ただそれが、うまいことウケていない地獄の瞬間となることもあるんです。そういうときに偶然を装って、間を外しています。

“…あ、え!ごめんなさいごめんなさい何ですか?” といった対応をこまめに入れていくと、相手の勢いがだんだんとおさまっていくんです。

簡単にできそうな内容ですが、これは意外と難しい。「えっ?」と反応するタイミングが大切です。

経験が必要で、なかなか高度な対応でもあるので、これができない方は、グイグイ系の人の絡みは相手にしない、正面から受けない、というのがいいでしょう。

山田さんも「やんちゃな人」への対策は、ほぼこれしかないようです。

目上の人への対策は「質問」

次におうかがいしたのは、会社の社長や役員といった「目上の人」への対策

“上司と部下”程度の関係性だったらコミュニケーションの機会も多いため、傾向がわかると思います。しかし普段話すことの少ない人たちとエレベーターで出くわしたとき、急に飲み会に誘われたとき…対応できますか?

もちろん、風通しの良い会社であれば問題ないでしょう。このケースはその人たちと「年に1~2回、会話をする機会があるかないか程度」という人が対象。

「基本的に社交に疎い」と謙遜する山田さんですが、やはり一般企業で働く我々と場数の違いは歴然です。数多のノウハウを持っていて、お笑い芸人としての“空気の感じ取り方”もプロ中のプロ。でも今回は敷居を下げて、誰でも簡単にできる方法を教えてくれました。

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Photo: Yutaro Yamaguchi

目上の人と話すとき、明確に場が持つ話し方というのは、“質問する”ってことですね。受けに回らないことが大切です。

実にシンプル。でもこれが、非常に有効な対策なのだそう。

どんなにくだらない質問でも良いんですけどね。“○○さんあの企画ってどうやって思いついたんですか?”とか、“こないだの○○さんの朝の挨拶、よかったですわぁ”とか、単なるヨイショではなく、ヨイショも含みつつ質問する…という技。

これは僕も危険を顧みずに言いますけど(笑)、40~60代で、肩書きのつくような大御所の方々って、質問されるのが好きなんですよ。これは覚えておいた方がいいです。常に質問は持っておくこと。

目上の人は質問されることが好き、ということは“なんとなく”認識している人も多いはず。

たぶん、基本的に部下の話はそんなに聞きたくないんですよ。もっと言うと、 “そんなに自分のディティールに相手が興味あると思うな”ってことですね。みんなもう“個性の天狗”みたいになっちゃっているところあるから。特に最近の若い子は。正直そんなに興味ないんすよ(笑)。興味を持てないですよ、人間って。急にはね。

最近の若者に対してチクりと刺しつつ、質問が有効な理由を教えてくれました。

続けて、「いかにスムーズに武勇伝を語らせてあげるか」が大切だと説きます。

自分からは語り始められないんですよ、武勇伝って。相手が武勇伝を語り始めそうな環境をつくってあげる。ちゃんと聞いてあげる。そして、やや大げさにリアクションしてあげればOKです。そうすると、あっという間に2~3時間経っていますよ。

目上の人といつ何時、対峙したとしても問題なく対応できるように、質問を用意しておいてください。山田さん流に言うと「こいつ、すげぇ聞いてくるなぁ…!」という状況を作り出すことが大切なようです。

武勇伝はちゃんと聞いておくべき

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Photo: Yutaro Yamaguchi

また、その“武勇伝”は決してめんどうな話ではなく、ビジネスパーソンにとって意味のあるものであり、貴重な時間だと付け加えます。

“上司の話なんて聞いていたくない、不毛だ”って言う人が多いんですけど…。高齢者もそうですが、目上の人の武勇伝や自慢話って、これまで何度も何度も話してきただけあって、意外と漫談として仕上がってるんですよ。

起承転結もしっかりしてるし、どこを粒立てたいとか抑揚もある。つまり、非常にまとまりがいいんです(笑)。一種のビジネス書として非常に優秀ですよ。

近年○○おじさんという言葉が存在感を増し、「おじさん」に対するイメージも変わってきたタイミング。年齢や立場が離れているという理由だけでめんどくさがることなく、ぜひ耳を傾けてみてください。

でも、皆一様に「武勇伝」を持っているようなおじさんばかりではないことはお忘れなく。

とろ火の自尊心がなくならない “ミドルエイジ”

今回、山田さんが宣伝を手伝った映画『シンク・オア・スイム』は、“ミドルエイジ”の中高年が主役の作品。引きこもり、事業失敗、娘との関係性などそれぞれ不安を抱えながら生きる8名のおじさんが、シンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)に挑むお話です。

“不安や葛藤を抱えながら生きる”ミドルエイジについては、山田さんも『中年男ルネッサンス』(田中俊之著・山田ルイ53世著、イースト新書)の中で触れていて、「とろ火の自尊心」という独特な言い回しで表現されています。

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Photo: Yutaro Yamaguchi

とろ火の自尊心はなくならないですよ。どんなに落ちぶれようが、新陳代謝と一緒ですから。汗をかくのといっしょで、プライド・自尊心というのは出てきてしまう。

だからその辺の、良い具合の諦め方というのはミドルエイジ(おじさん)の方が強いのではないかと思いますね。

“諦め方”と聞くと、なにやら行き場のない不穏な印象を受けますが、山田さんは『シンク・オア・スイム』に登場したミュージシャン役のミドルエイジの姿を見て、「かっこいい」と感じたエピソードを話してくれました。

おじいさんとおばあさんが集まる老人ホームみたいな会場で、ミュージシャンの方がビンゴ大会なんかの仕切りをやるシーンがあるんですけど、僕もビンゴ大会の仕切りを結構やるので(笑)。

その部分で感情移入ができたというか…ビンゴ大会の前に、自分のセンスだけを詰め込んだような音楽を披露していて、おじいさんおばあさんはポカーンと見ているんです。けどなんだか…お笑い芸人が新ネタを試すじゃないけど、自分のやりたいこと・したいこと、やらなければならないこととか、“いろんな思いがある中でもその日の仕事をやってる”というところに、僕はかっこよさを感じたんですよね。

ロジックだけでは解決できないあらゆる不純物・お金・人間関係…いろんなものがぐちゃーっとなった状態でも進んでいくという、おじさんの強さ。そうしたものを感じましたね。

おじさんが持つ“とりあえず”の力

おじさんについて山田さんが最後に話してくれたことは、今回の映画『シンク・オア・スイム』とぴったり重なります。

“とりあえず”っていう言葉の力って、強いなって、思うんです。

僕が物理的に引きこもり状態を脱したときも思ってたんですけど、いろいろ考えますよね。何かに取り掛かろうとするとき、100%まで達成できていないと次のフェーズに進めないというか…根本的にすべてをおさめようとする。でもそういう考え方をするともう動けないんですよ。

“とりあえずやる”っていう境地。様々なことがある中でも、おじさんという人間は“とりあえず”生きてるよなって思うんです。若者であれば、これを終わらせてから次に挑戦してみようって思いがあるかもしれない。まだ人生がシンプルで、そこまで余計なものがないことが多いから。

でも、もうおじさんは無理なんですよね(笑)。 もういろんなトラブルがありすぎて。全部さっぱり解決してから、よし心機一転がんばろう!というのが難しい。だから心機一転しない中でもがんばろうとする強さ、“とりあえず力”というかね。

そう考えると「とりあえずビール!」というのは、おじさん力の真骨頂かもしれません。

そこまで良い響きではないものの、むしろそれは言葉の問題。山田さんはその“姿勢”に感銘を受けた様子です。

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Photo: Yutaro Yamaguchi

あんまり良い言葉だと思われてないですよ。適当な印象も受けるし。ただ“とりあえず”でも進める力強さ・腹のくくり方って大事だよなって思うんです。若者がそれを手にしたら最強だと思いますよ。不完全なまま進んでいく姿勢というか。

いまとなっては…という話ですが、2008年、仕事が忙しかったときこそ、“とりあえず”やっていればよかったなって。生来几帳面なんで、その時期、ひとつひとつの仕事を完璧に準備して完璧にこなして、大褒めされて帰らなければならない…って思ってたので。

それはね、摩耗するんですよ。全部完璧にできるわけがないから。となるとボロボロになっていくという。 昨日のことは昨日のこととして、今日とりあえずがんばる、という風にね。いまはそんな感じでやってます。

今回、山田さんに紹介してもらったコミュニケーション術は、実際の会社生活に取り入れることができるもの。ぜひ社内のコミュニケーションについて困っている人は試してみてください。

そして映画『シンク・オア・スイム』には、我々が想像できないほどの苦悩を抱えているミドルエイジたちがたくさん登場します。その心理描写は実に巧みで、試写会イベントの際には山田さんも「泣きました!」と興奮気味に感想を述べていました。

この映画の魅力の1つとして紹介したいのは、上映中、大半はおじさんの半裸姿にもかかわらず、映像がとてもきれいに仕上がっていること。おじさんのシンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)姿をこれだけ美しく表現したのは、ジル・ルルーシュ監督と撮影クルーによる血と涙の賜物でしょう。

プロットやストーリーにとどまらず映画の魅力が映像から全面に出ていて、「フランスで400万人を動員」したことも頷けます。ぜひスクリーンに足を運んでご覧ください。

Source: シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢

Photo: Yutaro Yamaguchi

鈴木拓郎太

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