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まずは好きな人を見つける。これからの時代の「ピンポイント人脈」

まずは好きな人を見つける。これからの時代の「ピンポイント人脈」
Photo: 印南敦史

内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術』(竹下隆一郎著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、朝日新聞社で経済部記者を務めたのち、スタンフォード大学客員研究員を経て2016年に「ハフポスト日本版」編集長に就任したという人物。

いかにもコミュニケーション能力がありそうですが、ずっと極度の「人嫌い」だったというのですから意外。

現在も、「人脈」を築くことには四苦八苦しているのだと明かしています。

ところで著者のようなタイプとは対照的に、どこの世界にも、積極的に人に話しかけ、どんどん「人脈」をつくる人がいるものです(著者は彼らを「人脈モンスター」と呼んでいます)。

しかし著者は、そういう人が活躍する時代はもう終わりを迎えていると考えているのだとか。

SNSが発展し、テクノロジーの進化によって「個人がひとりでできること」が格段に増えたことがその理由。

「人脈モンスター」になるよりも、大事な少人数の個人と、熱量がある「深い関係」を結んでいたほうが、仕事も生活も楽しめて、結果を出せる時代になったということです。

人づき合いが苦手でも良い。 誰ともつながれるSNSが広まったからといって、みんなとつながらなくてもいい。 「人脈」という、得体の知れないものを追いかけるよりも、自分の内面とじっくり向き合ったほうがいい。

限られた好きな人たちとピンポイントでつき合っていくだけで、うまくいくと私は確信しているのです。(「はじめに」より)

きょうはそんな考え方に基づく本書の3章「ピンポイント人脈がもたらす3つのメリット」に焦点を当ててみたいと思います。

メリット① キャリアを自由に設計できる

「キャリア設計」はピンポイント人脈の大きな特徴。それは、著者自身の体験に基づいているのだそうです。

著者が朝日新聞をやめてハフポストの編集長になったのは36歳のときで、急遽退職した前編集長の代わりをアメリカの本社の幹部が探していたタイミングだったといいます。

しかし、その時点でハフポストアメリカ本社の人たちは著者のことを知らず、著者自身も転職する気があったわけではなかったのだそうです。

ところが、アメリカなどで流行っているLinkedIn(リンクトイン)というビジネス特化型SNSに自分のプロフィールやメディアに関する思いをたまたま書いていたことが功を奏しました。

LinkedInには自分の経歴のほかに自分が取り組んでいることや将来のビジョンを書き込むコーナーがあります。

私はそこで、「人工知能と人間のどちらがメディアのトップにふさわしいか」というスタンフォードの留学時の研究テーマに関する文章を載せていました。

それを偶然にも読んだアメリカの本社の幹部が「これからのネットメディアの編集長は単に記事を書いたり編集したりするだけでなく、近未来のメディアのあり方まで考えられる人が良い」と判断し、面接をすることになりました。(160~161ページより)

誰もがネットで配信できるようになり、自ら動かなくても情報が勝手に広がる社会になった結果、内向的な人でもネットにプロフィールを載せるだけで、ピンポイントで見つけてもらえるようになったということ。

しかも面接に進んだ著者は、無駄に「よいところ」をアピールしようとせず、就任したら頻繁に連絡を取り合うことにあるであろう相手のことを「好き」になれるかどうかで転職を決めようと思ったのだといいます。

そのバックにあったのは、苦手な人間関係にすり減っていては人生がもったいない。自分がともに過ごしたいと思った相手を追いかけてキャリアを築いたほうがいい時代だという考え方。

そうやって「好きな人」と深くつながるピンポイント人脈を大切にしていけば、結果的に普通の人とは違う独自のキャリアを形成できるという発想です。(160ページより)

メリット② 新規プロジェクトがうまくいく

著者はここで、スタンフォード留学時代に出会った経済学者である故・青木昌彦教授の研究テーマのひとつである「制度」に焦点を当てています。

終身雇用やメインバンクなどの「日本的な制度」はなぜ存在し、どうして変わらないのか。そのことについて青木教授は、制度の裏にある「暗黙のルール」に着目していたというのです。

たとえば終身雇用のような「決まりごと」は、誰かが強制的に決めたルールではありません。しかし、かつて日本の大企業に働いていた会社員は、「会社は自分のクビを切らないはずだ」と盲目的に信じていました。

一方の経営者側も、「働いている人は会社に忠誠心を持ち、定年まで勤め上げてくれるだろう」という勝手な想定をしていました。

このように、両者の間に存在していた「暗黙の了解」がねづき、ルール化していくのが「制度」の正体だということ。

しかし、と青木教授は言っていました。「変わり者」の誰かが「ルールが古くさくなっているぞ」と気づいて、別の行動をして、異なるルールでプレイした時点で、暗黙の了解がガタガタと崩れます。

その結果、新規プロジェクトが立ち上がったり、組織変革が可能になったりするのです。(171ページより)

そうやって「ルールが古くさくなっているぞ」と気づく人のことを青木教授は「越境者」と呼んでいたそうですが、ハフポストでも「越境者」になりうる存在や発言にいつも注目しているといいます。

そういう人がいないと、新しい企画やプロジェクトを始めるきっかけや、組織の編成の見なおしをする機会を失ってしまうことになりかねないから。

ところが、その越境者を探すのは難しく、既存の基準ではレーダーに引っかからない人だったりすることも多いもの。そんなとき、ピンポイント人脈の「なんかこの人好きだな」という感覚が効いてくるというのです。

肩書きや他人からの評価、立派な経歴は「頭で考えた基準」ですが、好きかどうかは「心で考えた基準」。

後者のほうがより多様で、ピンポイントに「隠れた越境者」を探すことができるというわけです。(170ページより)

メリット③ 組織を変える

ここで著者が伝えようとしているのは、同じ組織のなかの「好きな人」と「ピンポイント人脈」を築き、一緒に会社を変えていく方法

人口が減り、経済が伸び悩む現代は、すべての組織が変わらないと生き残れない厳しい時代。しかし組織の改革を実践するのは決して簡単なことではありません。

仮に行動したとしても、たくさんの人を説得しようとする中、結局は疲弊して頓挫してしまうことも考えられるわけです。

ましてや著者のように人づきあいが苦手な人であれば、ハードルはさらに高くなるでしょう。また、折り合いの悪い人とつきあわなければならないことも当然あります。

でも、自分と似たちょっと変な人や、内向的だけれど秘めた情熱がある人などの「好きな人」をひとりでも捕まえられれば、組織は変わると著者は断言しているのです。

会社の部下や直属の上司など職場の人と、どうしても合わない、というのは誰にとっても起こり得ることです。

むしろそれが普通で、好きな人とばかり働いているという人はまれなのではないでしょうか。(195ページより)

だからこそ著者は、「自分は内向的だ」「会社の人間関係で悩んでいる」という人に対し、「決してあきらめないでください。むしろ希望を持ってください」とメッセージを送っています。

みんなから仲間はずれにされ、孤立しているぐらいがちょうどいいのだとも。

なぜなら、そういう立場にいれば会社など組織の状況を客観的に見ることができますし、そういう「外からの目線」こそがいまの日本には必要だから。

そしてそんなときは、たったひとりでもいいので、自分が「好きな人」を社内で見つけるべきだといいます。

その人と一緒に熱量をためてから動き始めれば、必ずどんな会社も変わるというのです。ピンポイント人脈は、会社を変えるだけの力を持っているということです。(183ページより)


「人嫌い」を自称する著者のように、ひとりで時間を過ごすことが得意な「内向的」な人であっても、何人かの「好きな人」はいるはず。

むしろ自分と向き合っている時間が長いぶん、内向的な人ほど自分の「好きな人」は直感的にわかるものでもあります。

つまり社交的ではなくても、「ピンポイント」で人とつきあうことはできるわけです。

そして著者がいうように、それは無理のない現代的なコミュニケーションのあり方なのかもしれません。

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Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン

印南敦史

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