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勝間和代×堀正岳対談。今ほど「ライフハック」が楽しい時代はない

勝間和代×堀正岳対談。今ほど「ライフハック」が楽しい時代はない
Photo: Kenya Chiba

「ありとあらゆる可能性が広がっているのだから、ライフハッカーにとってこれほど楽しい時代はないですよね」

この言葉に、その場にいた全員の気持ちが沸き立つのがわかりました。

それは僕らが「ライフハッカー」なんてメディアを運営しているせいもあるけれど、対談を通じて見えてきた“ライフハックの現在地”が、たしかな楽しみと発見に満ちていると感じられたからです。

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ライフハックは「生き方の追求」

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Photo: Kenya Chiba

最新著書『勝間式超コントロール思考』(アチーブメント出版)の発刊を記念し、経済評論家としての知見を活かした著書やメディアでアドバイスを伝える勝間和代さんと、研究者とブロガーを並走しながら著書『知的生活の設計』(KADOKAWA)をまとめ上げた堀正岳さんの対談が実現。

そして、この出会い、実はブロガー対談でもあります。

『勝間和代が徹底的にマニアックな話をアップするブログ』で、勝間和代さんはガジェットや生活から得た気づきをシェアしています。

堀正岳さんといえば、日本におけるライフハックブログの先駆者ともいえる「Lifehacking.jp」を2007年に開設し、今日まで発信を続けてきました。

ライフハックは好事家だけに必要なものなのか? いや、すでにこれは、日本のビジネスパーソン全てを取り巻く、“生き方の追求”になったのだと信じています。

「自分についての快適さ」を変えて効率を上げよう

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Photo: Kenya Chiba

:10年前ほど前から勝間さんの著書を拝読していますが、『勝間式超コントロール思考』は、これまでに比べて“まろやかな感じ”を受けました。

勝間:年も取りましたからね、10年分(笑)。大きな変化でいえば、部分最適よりも「全体最適においてのライフハック」を考えているからでしょう。

部分最適をしても、そこが肥大化するだけですから。人生、健康、幸福といった全体最適を考える必要があるだろうと。

:なるほど。すべての人に届く、すべてのパターンの効率化が書いてあるわけではなく、まさに勝間流の人生最適化が記されている本でもある。

勝間:ただ、私が思っていて、ずっと変わっていないこともありますよ。それは、とにかく世の中の人は仕事をしすぎること。

まずはそこからスタートです。もっと正確に言うと「インプットの時間が長すぎて、仕事の効率が悪い」。

:だらだらと情報を手に入れてはいるけど、それをアウトプットに変えられていない。

勝間:本当の「情報」を手に入れているなら、まだマシでしょう。情報を手に入れているはずなのに、だらだらとよくわからない仕事をしていると思うんです。

書類を作ったり、Excelやパワポと向き合ったり、意味のない会議をしたり…。

:だからこそ、まずは「自分についての快適さ」を変えて効率を上げようと。その手段であれば、他の人でも応用できるだろうってことなんですね。

全体のプロダクティビティが低いところを一気に変えることは難しいけれど。

最近の自己啓発本を見ても「一瞬でよくできる」「劇的に変わる」といったものが多い中で、勝間さんは「自分の裁量権を年単位で広げられるように考える」と現実的に書かれていて、とても好感を持ったんです。

勝間:だって、そんな一気に変わらないですよ。あと大事なことは、変わらない相手はあきらめて、なるべく近づかないようにしよう、という(笑)。

:これまでの勝間さんのように「全部が変わらなきゃだめなのよ!」と切り込んでいくのかと思ったら、そういうわけでもない。

自分の影響力を少しずつ広げていきましょうという書き方だったので、面白いなぁと感じたんです。

勝間:何より変えられる自分を変えていくことですよね。相手があることだと、当然に相手が納得し、相手のスピードに合わせて、少しずつでないと変わりませんから。

もちろん部下へ急に押しつけるようなことは可能でしょうけど、相手だって嫌ですよね。

「本当にその判子、必要?」小さな違和感を無視しない

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勝間:自分次第で今ある仕事も減らせるはずです。コンサルティングファームにいた20代の頃から、私が仕事を減らせているのは「必要なもの」をはっきりさせるからです。

たとえば「何のために、どのタイミングで、このデータが必要なのか」を明確にするんです。

:本当に必要な時に、必要なものだけを用意すると。

勝間:あとは「そもそも何で必要なの?」って、ものすごく多いんですよ。

たとえば「判子を押した見積もり書を出してほしい」という会社も結構多いですよね…何で必要なんですか?

法的に必要でなく、あくまで社内規定なのであれば、社内さえ通ればいいんですから。

判子でなくてPDFや透明GIFの電子印鑑で済むように働きかけたほうがいいはずです。

:ただ、多くの人が「みんながちゃんと判子を押しているのに、自分だけやらないのは…」と同調してしまうところがある。

勝間:判子を押すことによってプロダクティビティが上がるなら、私も喜んで押しますよ(笑)。ただ、ほとんどがそうはならないんですよ。

:そういう小さな違和感やストレスに気づいて、世の中の枠組みを「当たり前」と思わずに改善するのが大事ということですね。

『勝間式超コントロール思考』でも、コントロールの定義を「受け身的に生きるのではなく、自分が主役となって主体的に行き、そして環境や周りに働きかける」ことだと書かれています。

無意識のうちに判子を殊勝に押したりしていないか、というのも『勝間式超コントロール思考』でいえば「無意識に受け入れている不快さに気がつく」ことですね。

勝間:そうです。だから皆さん、不快さに関する感受性を低くしているのではないでしょうか。我慢をするのが常態になってしまっているんです。我慢しないと不愉快なことが多すぎるから。

だって、いちいち考えても、自分では動かせないことがあると苦痛じゃないですか。

混んでいる電車にしか乗らないのに、「混んでいる電車に乗ることが不快」だったら嫌になってしまう。だから、だんだん慣れてくるんですよ。

:たしかに。

勝間慣れてきたほうが短期的には楽なんです。だから、「そういうものだ」と思っていってしまう。

:それはアメリカでライフハックが提唱され始めた頃を思い起こしますね。

「このツールがあれば1時間かかったものが5分で出来る」と、不快さに対する変化こそライフハックブームの発火点だったわけです。

紙と鉛筆だけだったワークスペースに、急にITが入り込んできて、新しい選択肢を手に入れた瞬間に「別のやり方があるぞ!」と気づき始めた。

勝間選択肢を手に入れるって、すごく大事なんですよ

不快さを受け入れて従うのではなくて、「他に方法があるのではないか」と、いつも代替案を考え続けるということです。

:その代替案を得たり、探し当てるのは主体性が高くて面白いんですよね。不快な部分をちゃんと意識したならば、次にそれを何とかする方法はどこかに転がっているはずだと。

勝間:自分が不快なら、不快に思う他人もいるはずですからね。

この10年で「資本生産性」は上がりすぎた

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Photo: Kenya Chiba

:この10年の変化について思うと、10年前は「今より少しだけ景気が良かった」と言う人もいます。

たしかに余裕があったような気はするのですが、勝間さんはどういった変化を感じますか?

勝間:今も十分に余裕はあると思うんです。けれど、その余裕が「ある人」と「ない人」に分散した気がします。ある人はより余裕ができてるし、ない人はより余裕がなくなってる。

:それは「社会全体としての余裕」がなくなってきているからですか?

勝間:いえ、やっぱり生産性の違いだと思います。「労働生産性」が上がっていない代わりに「資本生産性」があまりにも上がりすぎているんです。

資本生産性を自由に使いこなせる人たちは余裕ができているけれど、労働生産性しか頼れない人たちは実質賃金も下がって大変になっているんです。

:たとえば、労働生産性が高いのは小売業の現場が典型的ですね。人が動かないと物理的に回っていかない。

勝間:逆に、製造業なら圧倒的に資本が動いている時間のほうが長いんですよ。その代わりに、製造業に従事する人口の割合はもう少なくていいんです。

私が小学生の頃は、製造業に勤めている人が40%ほどいたんですけれど、今は16%程度です。それだけ生産性が上がってしまって人が要らないんですよ。

何かを作るにも機械化が進んだりして、労働生産性をかける必要がない。けれども市場は大きい。

以前に、とある乳酸菌飲料の工場へ行ったんですが、見ている分にはすごくつまらないですよ。工場に3人ぐらい立っていて、あとは機械が全部やってくれて、機械が止まらないかを監視する仕事ですから。

ただ、私はそれを「過剰適応」と呼んでいます。

Amazonはシステムに人がほどよくバランスされているから、ちょっとした変更にも適応しやすいんです。ただ、先ほどの乳酸菌飲料の工場なら、パッケージを変更しようと思っても機械を大きく変えないといけない。

:Amazonならウェアハウスごとにロボットを入れ替えれば対応できますものね。なるほど、現代に起きている変化は生産性の種別によるインパクトが見えやすくなってきたと。

勝間:そうです。特に、労働生産性に頼り切った仕事をしている人はツラいです。しかも、労働生産性の高い仕事こそ人が足りていないので、常に人を募集している。

人を募集しているところへ行けばいくほど、仕事がツラくなってしまうというジレンマも起きていますね。

:「仕事をちゃんと選ぶ」ということが、昔以上に大事になってきたともいえます。

余裕を生むのに大事な数字は「2割」と「4分の1」

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Photo: Kenya Chiba

:「余裕」でいえば、この本のもう一つのキーワードに「スラック」がありますね。ビジネスチャットツールの「Slack」ではなく、まさに「余裕」を意味する英単語です。

勝間さんは、全てを効率化していくことよりも、2割から3割のスラックを用意することの大切さを説かれています。

勝間:「予定から次の予定まで必ず1時間は空けましょう」とか、ですね。

:お金に関しても、月収の2割ぐらいを「ドルコスト平均法」で投資に回しましょうと。

勝間:要はですね、2割が「そもそもないもの」と思えば、そういうふうに暮らせるはずなんですよ。

:今、Twitterなどで「こんな仕事があってツラい」とか「こんなに俺は社蓄で」みたいなことを言ってらっしゃる方って、このスラックがほとんどないのだと思うんです。

勝間:ないでしょうね。

:裁量権を年単位で広げていく意味において、時間やお金といったスラックを増やしていくとき、最初の一歩には何をおすすめしますか?

勝間:自分の勤めている会社で、出世しようがしまいが、どのぐらいの勤務体系になって、どのぐらいの給与になるかは予測できるはずですよね。

それに不満があるのなら代替案を探さないと。別の会社へ移るのか、あるいは起業も含めて。だから、「どうしてその会社で頑張り続けるのですか?」って問うだけなんですよ。

自分がどんなに頑張っても先が見えている。それにも関わらずリソースをかける必要が、私は「一切ない」と思っています

でも、クビになるのも困る。そんなときは、どこであっても良いので「上位4分の1ぐらいのところ」にいれるといいんでしょうね。

:なるほど。そこまでいければ、選択権を持てる立場です。

勝間:4分の1のお尻ぐらいで十分なんですけど(笑)。そこまで文句も言われませんし、クビにもならないでしょう。好き勝手しても「しょうがないなぁ」ぐらいで。

:「そうは言っても職を選べないよ」と反論する人には、「他の人からどう見えているか」を気にされている方が多いという印象だったんです。

でも、どの会社でもいいから上位4分の1にいればいいという話であれば、何もトップ企業である必要もないわけですね。スラックを用意できるような場所を、自分の適性から考えて選んでいこうと。

勝間:そうです。皆さんは、よく「4分の1にもなれない」と言うのですが、それも違います。私は「4分の1になれる仕事しかしないんですよ」って答えますね。

今こそ「24時間戦えますか型ライフハック」から脱する

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Photo: Kenya Chiba

:スラックの考え方だけでなく、『勝間式超コントロール思考』には「娯楽をコントロールする」という章まであったのは結構驚きでした。

娯楽や楽しみは苦しみ抜いた残りの部分で、自分がやっと自由にできるものみたいに考えてる人もいますけれども。

勝間:『ホモ・ルーデンス』という本がありますけれども、基本的に人間は遊ぶことによって革新や新しい成長が生まれるという理論もありますよね。

:「自分はこういうふうに遊ぶんだ」とコントロールしていったほうが楽しいですしね。それにストレスも減るし。

いや、長年、ライフハックについてのブログを書いたり、その界隈の話を見てきて、ようやく「遊び」についての話が出来るようになったと思えたんです。日本におけるライフハックって、「24時間戦えますか型ライフハック」が多かったので。

勝間:あぁ、そうですね。

:ようやく「遊び」もライフハックですよ、ストレスを下げるために逃げてもいいんですよ、という領域に入ってきたんだと。

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Photo: Kenya Chiba

勝間:あとは「24時間戦う」という概念そのものを見直したほうがいいですよね。ちゃんと寝たり、ちゃんと運動したりしないと、残りの時間でパフォーマンスを発揮できないですから。

スラックについても、「確保するぞ!」と考えるのではなく、初めからそれが自然にあるような状態にすることを考えていったほうがいいはずです。

:まさに、お金でいう収入の2割を「ないものとして扱う」ことと同じく。それでいうと、勝間さんは「これからのライフハック」は、どうなっていくと考えますか?

勝間:自由度がとてつもなく上がると思います。まず、テクノロジーが安すぎますよね。私は13歳でパソコンを買ってもらったのですが、当時は一式買う値段で軽自動車が買えましたからね(笑)。

今、軽自動車ぐらいのお金があったら何できますか? 起業できちゃうんですよ。すごい時代だと思いません?

:資本金のルールも変わりましたしね。

あらゆることにハックの可能性が広がる

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Photo: Kenya Chiba

勝間:今は「できること」が増えている時代です。だから、ありとあらゆることにハックの可能性が広がっているのだから、これほどライフハッカーにとって楽しい時代はないですよね。

:人によっては「世の中が悪くなっている」と言う人もいると思うんです。

会社が守ってくれない、社会が守ってくれない、どんどん個人に責任が覆いかぶさっていく…ただ、逆に言えば、自分にとって裁量の範囲が広がっているということでもある。

今まで決められた生き方しか許されなかった人も、いろんな生き方ができるようになってきた

ルールに従ってさえいれば、個人の裁量が増えている時代なので、ハックできることも増えていると。

勝間:そうなんですよね。自由度は上がっていますし、情報の透明性があって、テクノロジーが増え、これだけ市場性が活発になっている。

私はこの10年間、世の中はすごくよくなっていると思っていますよ。『FACTFULNESS』で書かれていることにも同意します。

生活コストだって、びっくりするぐらい下がりましたよね。私はいざとなったら月に20万円ぐらいあれば生きていけると思うんですよ。田舎へ引っ越して、ちまちまと。

そうするとアフィリエイターだっていいじゃんとか思うわけです(笑)。でも、そう思えるだけで、いろんなリスクが取れるんですよ。

:勝間さんは私にとって書き手として、ブロガーとして偉大な先輩であり、お手本ですが、これからも時代の変化にしなやかに適応する勝間さんの超コントロール思考を参考にさせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

勝間:とんでもない。これからもライフハッカー仲間として是非一緒によろしくお願いします。

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Photo: 千葉顕弥

Source: アチーブメント出版, KADOKAWA, 日経BP社

長谷川賢人

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