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営業を成功させる「ストーリーテリング」の力。それを構成する6つの要素

営業を成功させる「ストーリーテリング」の力。それを構成する6つの要素
Photo: 印南敦史

本書の目的は、これまでセールス訪問で使われてきた方法に、新たな手段を加えることにある。

その手段とは、ストーリーを使って相手に強い影響を与える技術である“ストーリーテリング”を使うこと、つまり、セールス訪問の際にセールス・ストーリーを語ることだ。(「この本の目的、使い方」より)

こう説明しているのは、『ゼロからつくる営業ストーリー』(ポール・スミス 著、藤戸良憲 訳、TAC出版)の著者。

ストーリーテリング〟の専門家として、世界的な企業でリーダーシップやストーリーテリングの訓練を行っているという人物です。

ストーリーテリングは、才能のある人にこそできるものだというイメージがあるかもしれません。

しかし、著者によれば勉強して身につけることも可能。時間をかけて学び、練習すればうまくなるというのです。

なお著者は本書を書くにあたり、2000以上のセールス・ストーリーを分析し、効果があるものとないものを選別。また、50もの企業の営業担当者、バイヤーや資材調達担当者にインタビューしたのだといいます。

そうしたプロセスを経て、「どんなふうにストーリーを思いつくか」「どうストーリーを語るか」「ストーローはどのくらい真実か」などを掘り下げているわけです。

しかし、それほど重要なものであるなら、まずは「セールス・ストーリーとはなにか」をきちんと確認しておきたいところでもあります。

そこできょうは第1章「セールス・ストーリーとは」に焦点を当ててみたいと思います。

本書でいう「ストーリー」とは?

例えば今、月曜日の朝9時だとしよう。その会社では3日後、見込み客にセールス訪問をしようとしている。

チーム全員が会議室に集まっているところに、営業担当の副社長が現れた。彼女はパンと手をうって、会議を始める。

「さあ、みなさん、今回はどんなストーリーでいくつもり?」(14ページより)

ここで彼女のいう“ストーリー”とは、いったいなにを指したものなのでしょうか?

考えられるのは、プレゼンテーションなどを含んだ、見込み客に対するセールス・トーク全般、あるいは取引を成立に導くための全体的な道筋といったものではないでしょうか。

ところが著者が本書でいう“ストーリー”は、それらとはまったく異なるものなのだそうです。だとすれば、本書が示すストーリーとそうでないものを区別するため、本書におけるストーリーの特性を確認する必要がありそうです。

そこで、著者が考えた「ストーリーとそうでないものを区別する方法」を確認してみることにしましょう。

本書で取り上げられているストーリーには「時間を示すもの」「場所を示すもの」「主人公」「試練」「目標や望み」「できごと」と6つの要素があるというのです。

それらの要素があるなら、それは“ストーリー”と呼んでよいということ。(14ページより)

ストーリーの6つの特性

■ 時間を示すもの

私たちが“2012年ごろ”“先月”“このあいだの休暇で”などといった言葉を使うのは、そのときに、なにか出来事が起こったことを示唆するため。

つまり時間を示すのは、なんらかの出来事がこれから語られるという先触れとなるわけです。

■ 場所を示すもの

同じように私たちが“ボストンの空港で”“街のカフェテリアで”“電車のなかで”などのことばを使うのは、その場所で、なにごとかが起きたことを示唆するため。

当然のことながら、出来事は必ずどこかの場所で起きるものです。そこで、それを示せば、話がより現実味を増すことになるということ。

■ 主人公

またストーリーには、必ず主人公がいなければなりません。セールス・ストーリーでは多くの場合、人間がその役割を担うことになるでしょう。

しかし場合によっては、動物や会社などでもOK

■ 試練

著者いわく、これはストーリーのなかの悪役。ただし人物に限定する必要はなく、競合他社でもいいでしょうし、もしくは現在取り組んでいる問題や、ふりかかってきた災難でもいいといいます。

■ 目標や望み

主人公には、目標や望みが必要。ここで大切なのは、ストーリーの主人公の目標と、自分がセールス・ストーリーを語る目的を混同しないことだといいます。

ストーリーを語る目的は、基本的には取引を成立させることであるということ。

■ できごと

ストーリーがストーリーであるためには、必ずなにかが起こらなければなりません

たとえば自社の製品やサービスについての説明は、それがどんなにすばらしかったとしても、できごとを伝えない以上はストーリーになり得ないというのです。

上記を踏まえたうえで、著者は4つの話を紹介し、どれが本書のいう“ストーリー”なのかについて解説しています。それぞれ長めではありますが、参考になると思うので引用してみたいと思います。(14ページより)

[ウルトラホワイト]

あなたの歯は汚れていませんか? 写真撮影やビデオ撮影の時、映画スターのような白い歯で笑う友人の横で、気おくれしていませんか? 歯の美白システムを試して知覚過敏になってしまい、やめたことはありませんか?

それなら『ウルトラホワイト』がおすすめです。痛みや不快感なしに映画スターのような白い歯が得られる、ハリウッドの歯科医が開発した革命的な歯の美白システムです。

『ウルトラホワイト』では、美白歯みがきと知覚過敏予防ジェルを使用します。あなたは輝くような白い歯で、思いっきり笑えるでしょう。(17ページより)

著者によると、これはストーリーではないそうです。まず、この広告では時間や場所に言及されていません。

“あなた”が数回使われてはいるものの、はっきりした主人公もいません。

試練(汚れた歯、歯の美白システムによくある知覚過敏)や目標(映画スターのような白い歯)はたしかにありますが、ストーリーに必須な出来事が含まれていません。よって、これはストーリーではないということ。

[ティッピングポイント]

2年ほど前、イギリスのリーズ大学でネットワーク・サービスを担当していたデーブ・ニールドは、ある問題に直面しました。

学生たちが学内の回線でファイル共有サービスを使用した結果、世界各地から著作権侵害のクレームが殺到したのです。

さらに大勢の学生が、ウイルスに感染したパソコンをもって事務所を訪れました。スタッフがウイルスの駆除をするのに1台につきたっぷり1時間はかかったでしょう。

そこでデーブは、ヒューレット・パッカードのネットワークセキュリティ・システム『ティッピングポイント』が有効か、試してみることにしました。そして試用期間の終了時、彼はいったのです。

“『ティッピングポイント』を導入したら、たちまち著作権侵害のクレームがやみました。おかげで弁護士に悩まされることがなくなり、大学の評判も守られました”。

またファイル共有をする学生がいなくなったことで、学内の回線の容量も30%程度、回復しました。(17~18ページより)

これはストーリーだといいます。時間(2年ほど前)、場所(リーズ大学)、主人公(デーブ・ニールド)、試練(著作権侵害のクレーム)、目標(クレームをなくすこと)、できごと(学生がファイル共有サービスを使ったため、デーブが『ティッピングポイント』を試す)があるから。

この話には、ストーリーに必要なすべての要素が含まれているというわけです。

口腔ケア

歯ブラシの販売数を伸ばすには、お客様が歯みがき剤を購入する機会をうまく利用すべきです。

歯科医は3カ月ごとの歯ブラシ交換をすすめていますが、実際は半年に一度程度しか、買い替えられていないそうです。

ですがお客様は、歯みがき剤を買うために2カ月に一度は口腔ケア商品の売り場に足を運びます。

歯みがき剤と歯ブラシでクロスマーチャンダイジング(関連する商品を並べて陳列するやり方)をすれば、お客様にもっと歯ブラシを買ってもらえるでしょう。

歯ブラシは小売店の利益率を高めます。歯みがき剤の平均的な利益率はX%にすぎませんが、歯ブラシの利幅はその倍はあります。

歯みがき剤といっしょに陳列した場合、歯ブラシの売り上げは劇的に増加することが販売データからわかります、2月にクロスマーチャンダイジングをした際は、歯ブラシの販売が3週間でY%となりました。

この結果、Z百万ドルという売上増で、クリスマス期間を超える年間最大の売り上げとなりました。(18~19ページより)

これは、ストーリーではない例であり、営業担当者がよく使うタイプの話。

“2月”“クリスマス”といったことばはあるものの、本筋とは関係ないので、時間の要素は含まれていないことになります。

場所は営業担当者が話している相手の店かもしれませんが、はっきりとは言及していません。

主人公は一見“お客様”のようにも思えますが、全体としては営業担当者の話し相手ともいえるため、判別は不可能。

試練(現在の商品陳列法)や目標(歯ブラシの拡販)はありますが、できごとに関しては、主人公が定まらないため、どれがそれにあたると明確にはいえません。

これはこれでかなり説得力があるセールス・トークといえるものの、ストーリーではないというのです。

木製の腕時計

先週、新しいロードバイクを買った時のことです。白地に明るいオレンジ色がポイントの自転車で、僕にとってはかなりの出費だったのですが、大満足でした。

車からそれを降ろして、アパートのエレベーターに乗るために待っていると、同じ棟の女の子がやってきました。彼女は僕を見て、ちょっとほほ笑んでくれました。

実はちょうど、僕も彼女に会えないかなと思っていたところでした。彼女も自転車に乗るので、もしかしたら僕の新しい自転車について、何かいってくれるかもと思っていたのです。

いっしょにエレベーターに乗った後、彼女のほうをそっと見ると、案の定、何かいいたげでした。そして彼女が口を開きました。“それ、木でできてるの?”。僕はその時、ヨルドのグリーン・サンダルウッドでできた腕時計をしていたのです。

“かっこいいね”。自分の住む階にエレベーターがとまると、彼女は降りていきました。自転車については、まるで存在しないかのように、ひと言も触れませんでした。

この時計をしていると、みんなこればかりに注目するのです。でもありがとう、ヨルド!(19~20ページより)

これがストーリーであることは一目瞭然。時間(先週)、場所(アパートのエレベーター内)、主人公(ヨルドの腕時計をつけた僕)、試練(彼女に会いたかったこと)、目標(彼女と話すこと)、できごと(僕と彼女の行動や会話)と、ストーリーに必要な要素をすべて含んでいるわけです。

これらが、本書のいう“ストーリー”だというわけです。(17ページより)


ちなみに本書では、取引を成立させ、顧客をつなぎとめる過程で使うストーリー全般を“セールス・ストーリー”と読んでおり、これ以降ではその例とつくり方も説明されています。

つまり熟読することによって、“セールス・ストーリー”のノウハウを明確に吸収できるのです。

セールス・トークがうまくなりたいと悩んでいる方は、手にとってみてはいかがでしょうか?

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Source: TAC出版

印南敦史

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