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家の概念が変わる。「アドレスホッパー」という暮らし方

家の概念が変わる。「アドレスホッパー」という暮らし方
Photo: Ryuichiro Suzuki

固定費の削減といえば、暮らしのなかのひとつのテーマとしていつも存在します。

月々のスマホ代やサブスクリプションサービスを定期的に見直しているなんて人も多いでしょう。

そのなかでも最大の固定費といえば、家賃や住宅ローンといった「住む場所のために払うお金」。

これを変動費にしてしまうという、コペルニクス的転回が起こりつつあります。「アドレスホッパー」というライフスタイルを実践する人たちの登場によって。


アドレスホッパー」は、特定の拠点を持たずに、国内外を移動しながらAirbnbで見つけた部屋やホテル、ホステル、旅館などで暮らしつつ仕事をするライフスタイル。

ひとつの住所や所属にとどまらず、あちこちをホップしながら暮らしていくという意味ですが、オンライン環境やコワーキングスペースをはじめ、これだけインフラが整ったからこそ可能になった新しい暮らし方のかたちです。

稲作が始まったと言われる縄文時代から今日に至るまで、土地やそれから派生するさまざまなしがらみに人間は縛られて生きてきたことを考えると、これはある種の革命かもしれません。

持ち家でも賃貸でもない第三の暮らし方として、すでにアドレスホッピングを実践しているマット・ マスイさんに話を聞いてみました。

所有物はこれだけ。アドレスホッパーがいつも持ち歩くものすべて

家をなくすと、いろんな概念が変わる

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大阪府出身、アメリカIT企業勤務。アドレスホッパーコミュニティのいち創始者でAddress Hopper Inc. CBO(共同創業者)
Photo: Ryuichiro Suzuki

——家を持たないとどんなことが変わりますか?

まずモノへの考え方が変わってきます。やっぱり物量を減らさないといけないので、本当に大切なものしか残さなくなります

家がなければその分、旅費に充てられますし、それに家を空けてると防犯や湿気、火事などの要らない心配をしないといけませんがそれもなくなりますね。

——通勤の概念もなくなりますか?

毎日、同じルートを行ったり来たりがなくなるので、いろんな地域見て回れるようになります。同じ東京でも全然違うんだなあと気づかされますし、逆にラッシュアワーも楽しめるようになります(笑)。

会社にはなるだけ行くようにしていますが、コワーキングスペースでリモートワークすることも多いですね。

基本的には東京にいて、ひと月の3分の1くらいは旅行や出張で地方や海外にいます。

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取材の前日にマットさんが宿泊していたのは、代々木公園駅近くのホステル「almond hostel & cafe」
Photo: Ryuichiro Suzuki

——仕事とプライベートの境目もなくなりそうですね。

そうですね。仕事を“仕事”と思ってないですし、やらされてる感もないです。

今の会社の同僚のことも“同僚”というよりチームメイトだと思ってるし、プライベートでも付き合いあります。

月曜が憂鬱だったり金曜がハイテンションだったりということもないですね。

——日曜夕方に『サザエさん』を観て憂鬱になることもないんですね。

そもそも曜日がよくわからないんです(笑)。

——あ、そうですね。家がないからテレビもないのか。

テレビは観なくなりますね。年末はみんな家で紅白歌合戦観ててビビりました。

そんなテレビを通した季節感はなくなりますけど、紅葉とか雪景色とか旬の食べ物とか、直に季節感を感じるために旅に出ています

——ある意味アドレスホッパーって、家ではなくて地球に住んでいる感じなんでしょうか?

家をなくしたんじゃなくて、家を増やしたんだという考えから“超多拠点生活”って呼んでたんですけど、それって同時に“無拠点生活”であり、まさに地球が拠点という考え方ですよね…何言ってんだコイツって感じですけど(笑)。

家賃光熱費を自分の体験のためのお金に

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Photo: Ryuichiro Suzuki

——一番多くなった月々の出費はやはり旅費ですか?

そうですね。旅費は投資だと思っています。

その土地に行って、酒蔵に行ってお酒飲んで、それに合う地元の食べ物を食べて、銭湯で知り合ったおっちゃんに土地の話を教えてもらったり…って、こういうのがめちゃくちゃ自分の記憶に残るんですよ。

やっぱり実体験のインプットこそが自分のためになっているんだなあってつくづく思います。

——なんでもスマホの時代だからこそ、実体験が一番強くなるんでしょうね。

それに今は本当に世界が小さくなったので、その気ひとつでどこにでも行けますし、そうしてできた現地の人とのネットワークこそが今はとても大切

それが得られるのがアドレスホッパーの大きなメリットだと思います。

去年の夏に青森のねぶた祭りに行ったときも、どこもホテルが満室で取れなかったんですが、友達の友達の実家にお世話になることができました(笑)。

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Photo: Ryuichiro Suzuki

——モノを極限まで減らしたからこそ、人とのつながりが際立ってくるんでしょうね。

実家に対する考え方も変わってきます。

自分の家があるときは年間3〜4回帰っていれば、実家によく帰っているという認識だったんですけど、それが何回帰ったとかじゃなくて、家族と会うことの大切さに気づかされました

だから今はしょっちゅう大阪の実家に帰ってますよ。そもそも実家にあまり出番はないけど必要なモノを倉庫代わりに置かせてもらってるので、それを取りに行きがてら(笑)。

——親御さんから「お前、それホームレスやんけ」って突っ込まれたりしませんか?

僕が出たAbemaTVを観て、親はアドレスホッパーになったことを知ったらしいんです(笑)。

昔から旅好きなのは知ってるので、特に何も言われませんね。おばあちゃんも僕のインスタをチェックしてるみたいで「北欧いいですね」っていきなりLINEが来たりします。

僕のFacebookやインスタは結構親族に見られているようです(笑)。

検索をやめると、たまにすごいものが出てくる

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Photo: Ryuichiro Suzuki

——アドレスホッパーとして何か気をつけていることはありますか?

仕事の関係上なるだけオンライン環境にいるよう気をつけています。そこが破綻すると、途端に行方不明者になってしまうので。

Wi-Fiや自分の携帯でテザリングできる環境にはまずいるようにしています。まあ、圏外になるとテンションは上がるんですけど(笑)。

あと、気をつけている点としては音の問題。

オンライン会議とかもあるので、周囲への気遣いはもちろん、集音に優れているAirPodsを使ったりしています。

——旅行中もオンライン環境にいるようにしているんですか?

とはいえ、オンラインでつながりすぎるのも良くないなと思ってて、旅に出るときは“計画的に無計画”で行くようにしています。

下調べもせず、予約もほぼ取らずにとりあえず現地に行ってみて、行き当たりばったりに任せるんです。基本的に地元の人への聞き込み調査で旅を進めます。

食べログもインスタも便利だけど、あまり検索したくない。そっちのほうが、たまにとてつもなくすごいものが出てくるので。

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Photo: Ryuichiro Suzuki

——検索する旅は、ある意味そこを諦めてますよね。

先に答えを出すような旅ですからね。ちゃんと下調べして、いいホテルに泊まって、有名観光地を回ったら写真には残るかもしれないけど、記憶には残らないんですよね。

それよりも地元の人との触れ合いのほうが圧倒的に残ります。そしてだいたい楽しすぎて写真が残ってません。

これはひとつのバロメーターになるかもしれませんね。写真が多いと「あ、そういう旅だったんだな」って

——あ〜〜〜〜〜。

それよりも僕はめちゃくちゃ道に迷ったり、偶然の出会いがあったりというプロセスのほうが楽しいんです。

ひょっとしたら検索をしないことで損をしてるかもしれませんけど、失敗を重ねていくことで目利き力やアンテナも高まると思います。

ちなみに、こないだの12月は1カ月ほどSIMなし生活もしていました。あえてオフラインの環境を作りたいと思って。

そうすると読書とか居合わせた人との会話とか、オフラインだからこそできることに集中できる。オンもオフも大切なのはバランスなんだなと気づかされました。

やっぱり“ここに来てくれた人”、これが一番強い

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Photo: Ryuichiro Suzuki

——ところでマットさんはどのような経歴なのでしょうか?

まず、新卒で「NTTドコモ」に入って、埼玉の営業所で1年半働きました。もともと旅好きだったので、ある日、漠然と海外に行きたいなあって思ったんですね。

それで仕事を辞めまして、ビジネスSNSのWantedlyで「Tokyo Otaku Mode」っていう会社にコンタクトを取ってみたんです。

日本のポップカルチャーを世界に発信する会社なんですけど、僕が昔からやりたいと思っていたことをドンピシャでやってたんです。

しかも当時はちょうどアメリカ拠点を作るタイミングで、このまま何もなしにサンフランシスコへ行くよりか面白そうだなと思って入社しました。

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Photo: Ryuichiro Suzuki

——それでどんな生活になったんですか?

ここは2年くらいいたんですけど、海外担当として東京を拠点に海外に行く生活になりました。

で、実際にイベント出席などのために現地に行くようになって強く感じるようになったのが、オフラインの重要性です。あちらのファンコミュニティに入ってみると彼らの熱量がすごいんです。

そして自分は、インバウンドをやっていきたいと考えるようになりました。やっぱり“ここに来てくれた人”、これが一番強いんですよ。

ここに来て、ここで飯食って、ここで体験してもらうほうが一生記憶に残ります。そういうオフラインの接点に関わっていきたいって思ったんです。

それで今の会社を見つけて、2016年の秋に転職しました。実際に自分がユーザーとして使っていたサービスを提供している会社です。

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代々木上原の銭湯+コワーキングスペースのハイパー銭湯「BathHaus(バスハウス)」。写真左)「BathHaus」オーナーのroseさん
Photo: Ryuichiro Suzuki

——アドレスホッパーになったのはいつですか?

Tokyo Otaku Mode時代からひと月の3分の1くらいは家を空けてて、事実上のアドレスホッパーみたいな生活をしていたんですけど、家を手放して本格的にアドレスホッパーになったのは、去年の秋くらいです。

当時、僕入れて4人のメンバーでアドレスホッパーのコミュニティを立ち上げようってことになり、ちょうど僕自身、賃貸の更新時期が来たんですね。

それで常々もっと旅がしたいと思ってたので、思い切って家を手放すことにしました。

アドレスホッパーは地域活性化の切り札に?

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Photo: Ryuichiro Suzuki

——コミュニティとしてどんな活動をしているんですか?

メンバーはみんな毎日、それぞれの場所でバラバラに過ごしているんですけど、FacebookのクローズドのグループやSlackでつながってるのでそこで常に情報交換をしたり、一緒に合宿みたいな旅行に行ったりしています。

あと、月に一度「ホッピングバー」という誰でも参加可能なイベントもやっています。

前回は50人以上集まったんですけど、すでにそういう生活をしているという人もいましたし、Twitterでアドレスホッパーの存在は知っていたけど、まだ会ったことはなかったという人もいて、めちゃくちゃ面白かったです。

——そういうライフスタイルが広まりつつあるんですね。

もちろん昔からやってる人もいますけど、自分ひとりで楽しむよりも、ひとつのコミュニティとして始めると「ここ、めちゃくちゃいいよ」とか「この地域が面白いよ」とか「ここは働きやすいよ」っていう情報のシェアが活性化されるようになります。

これからの時代にとって合理的なライフスタイルだと思うし、地域活性化にも少なからず役に立てると考えています。

地方か都市かで分けるのではなく、僕らがそれらをシームレスにつなげたらと思っています。

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Photo: Ryuichiro Suzuki

——なるほど、移動主体だと地方か都市かという概念も変わってきますね。

もちろん移住者が増えたらいいとは思うんですけど、そうではない形が出てきてもいいはずです。僕らみたいな物好きが増えれば増えるほど新しい動線ができて、新しい経済圏ができると思うんです。

人が移動すると情報も移動します。遺伝子もそうです。そうやって文化は生まれてきました。

アドレスホッパーが広まればきっと新しい文化が生まれます。

——遺伝子と聞いてふと思ったのですが、結婚したらどうするんですか?

そうですね…、途中で家を借りたりして長めの滞在になったりだとかホッピングの度合いは変わるかもしれないですね。

でも、やっぱり子どもにはいろいろ体験させてあげたいし、いろんな土地を見せてあげたいです。

まあ正直、僕自身まだあまり結婚とかは考えてないんですけど、そこも“計画的に無計画”で行こうかと思っています(笑)。

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