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HOW I WORK

「自分の引き出しを信じず、楽しくやること」。『スパイダーマン:スパイダーバース』のCGアニメーター・若杉遼さんの仕事術

「自分の引き出しを信じず、楽しくやること」。『スパイダーマン:スパイダーバース』のCGアニメーター・若杉遼さんの仕事術
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回お話を伺ったのは、ハリウッド映画に携わるCGアニメーターの若杉遼(わかすぎ・りょう)さんです。

サンフランシスコの美術大学を卒業後、世界的アニメスタジオの1つである『Pixar Animation Studios』でアニメーターとしてのキャリアをスタート。『アーロと少年』に携わった後、2015年にはカナダのバンクーバーに拠点を移し、現在はSony Pictures Imageworksに所属。

『アングリーバード』『コウノトリ大作戦!』のほか、3月8日に公開される映画スパイダーマン:スパイダーバースでも制作に参加しました。

また、海外スタジオに所属する現役アニメーターを講師に据えたオンラインスクール「アニメーションエイド」を創設し、後進の育成にも励んでいます。

しかし、「高校時代まで野球ばかりしていた」と、現在からは想像できない来歴も。ハリウッドを舞台に活躍する若杉遼さんが実践する、仕事術や習慣をお聞きしました。

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Image: ソニー・ピクチャーズ

1. これまでの略歴と、現在の仕事に就いたきっかけを教えてください

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

小学生の頃に『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』を観たことが、CGに対する革新的なインスピレーションを得た瞬間でしたね。「あぁ、CGで全部作っているんだ!」って。

VFXを使った実写CG系の映画が好きで、ハリウッド映画にも興味はあったけれど、神奈川県立厚木高校に通って、ずっと野球ばっかりしていました。絵だって全然描いたことがなくて。

東京工科大学メディア学部へ進み、独学でCGアニメを作るツールなどにも触れていくようになりました。そんなとき、雑誌の『CGWORLD』を読んで、海外で活躍している日本人CGアニメーターがいることを知ったんです。アニメーターになりたい気持ちに加えて、ピクサーに入りたいという思いもすごく強くなりました。

その時の自分はまだ何のスキルも持たず、何者でもない状態でした。いま思い返すと表面的な目標でしかないけれど、誰もが知る世界規模のアニメスタジオであるピクサーで仕事をする、という「わかりやすい何か」が欲しかったんでしょうね。

当時、大学の就活キャリアプレゼンテーションで「ピクサーへ行きたい」って書いたら、「まじめに考えなさい」とめちゃくちゃ怒られたんですが…今ならその人に「行けたよ!」って言ってみたいかな(笑)。

大学を出た後は、サンフランシスコのAcademy of Art Universityへ留学して、アニメーションの勉強漬けの日々を送りました。卒業時に運良くピクサーのアニメーション・インターンに受かり、念願叶って初めての就職先はピクサーになりました。

ただ、携わった『アーロと少年』の公開延期が決まり、レイオフになってしまって…カナダのSony Pictures Imageworksに応募したところ採用となり、仕事がつながりました。

2. 愛用している、仕事をうまく進行するためのツールはありますか?

「スケッチブック」ですね、やっぱり。

自分は貧乏症なところがあって、本当はモレスキンのものを使いたいのですが値段が高いので、落描きできなくなっちゃうんです。今は、すこし安価なPentalicというメーカーのジャーナルノートを使っています。

ペンは、ぺんてるのエナージェルです。力を入れずに描けるんで、いろんなアイデアを速く出すのにぴったりですね。あとは鉛筆も欠かせません。

一応、iPadも買って試してみたんですが…頭にあるアイデアを手軽に描くにはスケッチブックが一番でした。感覚的な話になってしまいますが、自分の手でキャラクターのポーズや表情を生み出しているからこそ、アイデアをサッと実際の絵として存在させたり、描いたときの筆圧が伝わってきたりする点で、未だにトラディショナルなものが好きですね。

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

とはいえ、普段はパソコンでアニメーションを作りますし、手で描いたものをそのまま出すことはないんですけれど、パソコンってどうしても直感的じゃないんですよね。ポーズや動きをひとつ作るにしても手間がかかる。だから、頭に浮かんだアイデアを出すことに関しては、手描きのスケッチブックも併用したいところです。

アイデアを出すことは僕の仕事でも大切な部分です。アニメ制作について自分の知る限りだと、日本は演出の方が全体の大枠を決めて、各々のアニメーターが作画を進めていくスタイルですが、海外ではアニメーターから「アイデアを出すこと」が求められます。

「こうしたら観客に感動してもらえる」とか、「もっとかっこいいと思ってもらえる」といったアイデア出しが、自分たちの仕事の中でも一番の価値といえるくらい大きなことなんですね。

アイデアは、一人でいるときに思いつきます。歩いているときや通勤時間に考えるようにしていますね。手元に何もない電車の中とかにいるときのほうが、頭がよく働きます。

3. 仕事をうまくいかせるために習慣にしていることは?

「自分の引き出しを信じない」ことを心がけています。

例えば、イヌのアニメーションを描く機会が以前にありました。「実家でイヌを飼っていたし、僕に任せて!」という感じだったのですが、一応はネットで参考資料を探してみると、自分の中からでは思いつけなかったアイデアに出会えたりしたんです。

「自分は面白いアイデアを持っている」というプライドを持ってしまうことは、より面白くなるはずのアイデアに制限をかけてしまう。逆に「信じない」と諦めることで、いろんなアイデアを取り入れようという気持ちになります。

いかにアイデアを組み合わせるか、どの選択肢を取るかによって、自分の発想力が試される。そう心がけていますね。

後は、仕事を進める上で、やっぱり「楽しくやること」が、一番に自分の成長を感じられると思うんですよね。それが「昨日より自分は成長したか?」と測る基準になるからです。

日々、大きくても小さくても、「昨日とは違うことをする」と心がけています。「昨日と異なるアプローチで参考資料を探してみよう」とか「ポーズの作り方を変えてみよう」とか。

たとえ、「今日はうまくいかなかった」となっても、失敗のストックが得られますよね。そうすると、昨日より少しずつ成長している感覚も自分で得られますから。

思えば、野球少年だった頃は言われたことをひたすらやるだけで、このサイクルの効率がすごく悪かったんですね。野球も全然うまくならなかったし(笑)、反面教師なところもあるかもしれません。

勉強も高校までは用意された教科書に当たるだけだったけれど、大学からは「ピクサーのアニメーター」を目指していたし、周囲にはそういう人もいませんでしたから、そもそも勉強する以前に「何を勉強すればいいのか」を探すことから始まりました。

そこで、うまくいくことを考える試行錯誤の連続がクセになって、今につながってきているんだと思います。

4. 仕事において役に立った本、効果的だった本はありますか?

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

自分で描いた「ピクサーノート」ですね。分厚いノート3冊分くらいにはなるでしょうか。

ピクサーでは見ることも聞くこともすべて吸収しようと思っていたんです。そのときに「見ない描き」を身に着けました。人の話を聞きながらも、ノートを見ないでずっと描くという技術です。それをインターンだった3カ月間、ずーっとやってました。

アニメーションに直接関係のない話や、日常会話も全部描いていましたね。そのノートはたまに見直して、「こういうことがあったな」と振り返ります。今だからこそわかる見直しのポイントにも出会えたりしますね。

5. これまでにもらったベストなアドバイスを教えてください

「仕事はたのしく、遊びはまじめに」です。誰の言葉だったか、忘れてしまったのですが…座右の銘みたいになっています。

クリエイターに限った話ではありませんが、最初は「こういう仕事がやりたい」と意気込んでいたのに、仕事を始めて何年か経つと「あれ?何でこの仕事やってんの?」ってなるじゃないですか。それは、仕事に「責任感」を持ち過ぎるからだと思うんです。

だから、自分は仕事に「真面目さ」や「責任感」をあえて持ち込みすぎず、「楽しくやれるかどうか」だけを基準に置いています。逆に、家に帰ってから仕事外の部分で勉強したり、アニメーションのスキルを磨いたりといった、いわゆる「遊び」だけはしっかりまじめにやるように心がけています。

楽しくやれないと成果が出ないことを実感していますし、楽しくやれることで自分の実力が最も発揮できると思いますから。

6. 最新作『スパイダーマン:スパイダーバース』の見どころは?

Video: ソニー・ピクチャーズ

今回のスパイダーバースはアニメーターだけでも180人以上が携わっています。平均して、通常なら1週間で4秒分描けるところを、この作品では2秒分しか描けないくらいに、密度の濃い作品になっています。ショット数も、一般的なアニメ映画の3倍ほどあります。

CGアニメーションと手描きのアニメーション技法を合わせたのも特徴ですね。キャラクターのパンチに合わせて出るモーショングラフィックの線だったり、表情に出てくるシワだったり、「コミック・ブック」的なオノマトペの表現だったり、そういう細かな部分も全てCGアニメーターが作っています。それらは現在のCGアニメでは、ほとんどやらない作業なんです。

お客さんの視覚に、より訴えかける作りになっています。1回見ても面白いですが、2回見たときにもそれぞれのショットで新しい発見があるような映画です。アニメーターのアイデアが詰まった、そのディテールも楽しんでみてほしいですね。


Image: ソニー・ピクチャーズ

Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

Source: 映画『スパイダーマン:スパイダーバース』, Twitter(@Ryowakas), AnimationAid

長谷川賢人

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