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グーグルやゴールドマン・サックスが「マインドフルネス」に取り組む理由とは?

グーグルやゴールドマン・サックスが「マインドフルネス」に取り組む理由とは?
Photo: 印南敦史

「ハーバード・ビジネス・レビュー EIシリーズ」は、各界の要人がアメリカの経営学誌である『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した記事や論文をテーマ別にまとめたシリーズ。

きょうご紹介する『マインドフルネス』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 訳、ダイヤモンド社)は、その日本語版最新作です。

今回のテーマである「マインドフルネス」とは、編者のことばを借りるなら「自分自身を、もう一度、新しく、力で満たすこと」。

人間は本来、自分が価値あると思う目の前の仕事に集中することによって、力を満たすことができるもの。心と体のすべてを使って仕事に集中することは、人間の幸福のひとつだということです。

ところが実際には、仕事の内容はますます複雑化し、スピードは加速度的に速くなり、細分化された細かな仕事に追われてしまいがち。そのため本来の力を発揮することは困難になり、集中力も散漫になっていきます。そうした隙間のない忙しさが、人を疲弊させてしまうわけです。

とはいえ、そこから改めて自分自身を立てなおそうと思っても、現実的にはなかなか困難ではあります。しかも、本来満たされるべき力を取り戻すためには、「場」「方法」が必要。そんななか、それを提示してくれるのが「マインドフルネス」だというのです。

「マインドフルネス」の状態は、力に満ちた状態であると同時にとても心静かな状態です。一つの仕事に長時間特化しすぎると、思考や精神が一定の形で硬直し、短期的には一見パワフルに見えても、やがて行き詰まってしまいます。

「マインドフルネス」は、それとは対象に、あらゆる事態と問題に冷静に対処し、柔軟に自らを変化させ行動を形成していくことができる状態です。グローバリズムのなかで仕事が細分化し、複雑化し、大規模化していくいまだからこそ、繰り返し、繰り返し、力に満ちた柔軟な状態に戻らねばならないのです。

そのためにはどうすればよいか、それが「マインドフルネス」の教えとなります。「マインドフル」な状態にするノウハウ、それが「マインドフルネス」です。

一過性に薬や暴飲暴食によって力を得るのではなく、恒常的に自分の内に秘めたる力を外へ導く方法です。不自然な猛進ではなく、心を安らかにして、冷静に力に満ちて仕事に向き合う状態をつくることを意味します。(「[日本語版に寄せて]マインドフルネスは時代の要請から生まれた」より)

大切なのは、毎日の決まった流れから自分を引き離し、仕事と人生についてじっくり考え、自分にとって本当に大事なことを見極める機会を持つこと。

そして内省を習慣的に行い、そこから力を導くこと、それこそが「マインドフルネス」の本質だといいます。

そのような観点から「マインドフルネス」を検証した本書のなかから、ハーバード・ビジネススクール教授であるウィリアム・W・ジョージ氏による「グーグル、ゴールドマン・サックスはなぜマインドフルネスに取り組むのか」を見てみたいと思います。

企業に広がるマインドフルネス

2014年2月、『タイム』誌の表紙に「マインドフル革命」という文字が踊ったのだそうです。もちろんそれは、ビジネス界での最新の流行を誇大に伝えているようにも見えるでしょう。

しかしその一方、企業幹部たちの考え方に大きな変化が起きていることの表れとも解釈できるはず。筆者自身は、後者だと考えているのだといいます。

その証拠に瞑想や内省、日誌の執筆といったマインドフルネスの取り組みは、グーグル、ゼネラル・ミルズ、ゴールドマン・サックス、アップル、メドトロニック、エトナなどの優良企業で実践され、組織の成功に寄与しています。たとえば、これらはそのいくつかの例。

・ グーグルで「陽気な善人」の肩書きを持つチャディー・メン・タンは、CEOラリー・ペイジの後押しを得て社内で瞑想の講座を数百回にわたり指導し、著書『サーチ・インサイド・ユアセルフ』はベストセラーとなった。

・ ゼネラル・ミルズはCEOケン・パウエルの指揮下、瞑想を組織の正式な慣行としている。社内で瞑想の講座を指導していた元幹部ジャニス・マートラーノは、退社後にインスティテュート・フォー・マインドフル・リーダーシップを設立し、マインドフルネスになるための瞑想を教える企業幹部向けの講座を運営している。

・ ゴールドマン・サックスは、『フォーチュン』誌の「最も働きがいのある企業」で二〇一四年に四五位に入った(前年の九三位から躍進)。同社によるマインドフルネスの講座と取り組みが、『フォーチュン』誌の特集で取り上げられた。

・ 瞑想の実践者でもあったアップル創設者のスティーブ・ジョブズは、負のエネルギーを抑制するため、および画期的な製品を生み出すことに集中するため、そして卓越性の実現をチームに要求する際に、マインドフルネスを利用していた。

・ メドトロニックは創設者アール・バッケンの先見の明により、一九七四年にはすでに瞑想のための部屋を設けていた。この部屋はやがて、創造性を重んじる同社の姿勢を象徴する存在となった。

・ 医療保険会社エトナは、CEOマーク・ベルトリーニの指揮の下、瞑想とヨガの効果に関する綿密な調査を実施し、従業員の健康管理コストの抑制につながったことを報告している。

(28~29ページより)

当然のことながら、激しい競争のなかに身を置くこれらの企業においては、経営トップ以下すべての従業員が途方も無いプレッシャーに直面しています。

そして彼らは、困難な課題を克服するためには、もっとも重要なことについて熟考する時間が足りないと感じているはず。

数限りない要求や、気を散らす物事を整理する方法が必要とされているわけです。

しかし重責を担うリーダーにとっては、次のことが特に重要になります。すなわち、

「重大な意思決定に際し、集中力を発揮して思考を明瞭にすること」

「組織を変革するにあたり、創造性を発揮すること」

「顧客と従業員に思いやりを持つこと」

「自分らしさを貫く勇気を持つこと」

「集中力」「明確な思考」「創造性」「思いやり」「勇気」、これらこそ、筆者がともに仕事をし、教え、メンタリングを施し、インタビューした「マインドフルなリーダー」たちが持つ資質だというのです。

マインドフルネスがリーダーたちに与えるも

これらはまた、今日の卓越したリーダーたちに、多くの困難に立ち向かう再起力と、長期的な成功を目指す決意を与えるのだといいます。

本当に違いをもたらすのは、思考を明瞭にする能力、そしてもっとも重要なチャンスに集中する能力だというのです。

心理学者のダニエル・ゴールマン博士は、EQ(心の知能指数)の提唱者である。著書『フォーカス』で、脳の認知力を抑制することが思いやりや勇気といった心の資質を高めること、そのためにマインドフルネスが重要であることを、データで示している。

また、彼の論文「リーダーは集中力を操る」では、リーダーが自身や組織の関心を明確に方向づけるためのフレームワークを示している。

すなわち、①自分への集中、②他者への集中、③外界への集中、という三種類の集中力をこの順番で使いこなすという方法だ。

こうした集中力を養うには、一日のなかで生じる不安や混乱、プレッシャーを取り除き、脳を完全にリラックスさせるための、習慣的な取り組みが必要となる。(30~31ページより)

筆者は1975年に夫婦でトランセンデンタル・メディテーションのワークショップに参加して以来、瞑想の習慣を38年間続けているのだそうです。いまでもうっかりミスのたぐいはあるものの、目の前の瞬間に集中する努力はずっと続けているのだとか。

しかし、マインドフルなリーダーになる方法は瞑想だけではないとも記しています。ハーバード・ビジネススクールで教えている企業幹部たちは、意識を落ち着かせ思考を明瞭にするためのさまざまな方法を教えてくれるというのです。

彼らによれば、リーダーシップをもっとも阻害するのは知能指数の欠如や職務の厳しさではなく、集中力健康を維持することの難しさ。そして幹部としての厳しい生活に備え、頭と身体、精神を定期的に回復させるための日課に取り組んでいるのだそうです。

たとえば、祈り、日誌の執筆、ジョギングやエクササイズ、長距離のウォーキング、配偶者やメンターとの深い対話など。

重要なのは、内省を習慣的に行うこと。毎日の決まった流れから自分を引き離し、仕事と人生についてじっくり考え、自分にとって本当に大事なことを見極める。

その機会を持つ必要があるということ。そしてそれは、成功にも、幸福と長期的な充実感にもつながるのだといいます。 (28ページより)




掲載されている論文はそれぞれがオリジナリティ豊かで、しかもコンパクトにまとめられているので、空き時間に読むには最適。

共感できる考え方を見つけたら柔軟に取り入れ、マインドフルネスとの距離感を縮めてみてはいかがでしょうか?


Photo: 印南敦史

印南敦史

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